10月30日、ハロウィン前日。
OZではハロウィンイベントが目白押しで、バイトの僕もその準備で毎日夜中まで作業をしていた。当日の一時間前になってやっと解放され、へろへろになって電車に乗ると佳主馬くんからチャットのお誘いメールが届いた。
家まではあと十分程で着くが歩きと準備を考えると30分は欲しい。『30分後ならOK』とメールすると『待ってる』との返信に顔がほころぶ。
ネット上でも待っててくれる人がいると思うと嬉しい。それが恋人なら尚更だ。
急に寒くなった家路も暖かな気分で帰れた。
そして帰宅後準備万端整えてパソコンの前に座る。OZへログインして佳主馬くんの待つプライベートスペースにお邪魔した。恋人の特権で(///)フリーに入れる登録になっているのだ。
佳主馬くんのプライベートスペースはリビングのような作りになってて、キングがソファに座ってテレビを観ていた。僕が入室するとキングが気付いてこちらを向き、すぐ右上にWEBカメラが立ちあがって佳主馬くんの顔が見えた。
「お待たせ」
『ううん、バイトお疲れ様』
「ホント疲れたよ・・・」
『毎年この時期は企画すごいもんね』
「一般参加のときは単純に楽しめたんだけどねー」
『わかる。僕も面倒な企画依頼多くてさ・・・』
暫くはバイトの愚痴やお互いの近況を報告しあった。僕のバイトが忙しくて最近チャットしてなかった。それでも一週間振りくらいだから大して報告することはない。
ふと、会話が途切れた頃に『あと少しでハロウィンだね』と佳主馬くんが言いだした。
時計を見ると午後11時55分。あと5分でハロウィンだ。
「佳主馬くんちは何かするの?」
『特にはしないけど、母さんがかぼちゃのケーキ買ってくると思う。去年そうだったから』
「聖美さんらしいね」
家庭の中にちょっとしたイベントのエッセンスを入れるところが聖美さんらしいと思った。
『健二さんは?』
「え?」
『健二さんは何かハロウィンらしいことする?』
「ううん、何もしないよ」
この数日バイト三昧で何か考える余裕すらなかった。それどころか準備でカボチャ色ばっか見たせいで食傷気味だ。
『だと思った』
佳主馬くんは苦笑してる。
『あと一分だよ』
「ほんとだ」
後60秒で変わるとなると、なんとなくカウントをとりたくなる。
5、4、3、2、1・・・0 !
『 HAPPY HALLOWEEN !』
でかでかと大きな文字が画面に表示され、ジョンとヨーコがお菓子の花火を打ち上げた!
キャンデーやクッキーがキラキラと光って流れ星のように落ちていく。
それを見ているアバター達が歓声をあげていた。皆楽しんでくれてるようだ。その楽しそうな顔を見ているだけどこっちが嬉しくなる。忙しかった数日間が報われる。頑張った甲斐があった。
『健二さん』
「ん?」
イベントに意識が集中していると佳主馬くんに話しかけられた。カメラのなかの佳主馬くんがニコッと笑って大きく口を開けた。そして・・・
『トリック・オア・トリート!』
佳主馬くんが高らかに言い放った!
「あ、え、えぇ??」
カメラ越しの佳主馬くんはちょっと人の悪い笑みをしてこちらを見ている。
『僕まだ子供だもん。お菓子もらってもいいでしょ?』
「え、あ、そうだけど・・・」
考えてみれば恋人になって初めてのハロウィンだ。佳主馬くんはまだ15歳なんだし、何か準備しとけば良かったと軽く後悔する。
『健二さんは僕にお菓子くれないの?』
「ええっと・・・」
みっともなくうろたえてしまう。
だってOZ越しではお菓子をあげようがない。
『お菓子くれないなら悪戯してもいい?』
「そ、それは・・・」
佳主馬くんは意味ありげな視線を送ってくる。
15歳になった佳主馬くんはにょきにょきと背が伸びてとても大人びてきた。僕と背が変わらなくなった。そんな彼に意味ありげな視線を送られると妙に落ち着かない。彼はまだ中学生なんだから変な意味なんてないだろうに。
『健二さん?』
佳主馬くんがじっとこちらを見つめて催促してきた。
彼の眼は妙に力がある。その目で見つめられるとドキドキしてしまう・・・。
『健二さんが答えてくれないなら僕が選んでいい?』
「いえいえいえ!それは駄目!!」
ぶるぶると首を振って力いっぱい否定した。
何故か『悪戯』の言葉に背筋に悪寒が走ったのだ。
『じゃあ健二さんが選んでよ。僕にお菓子あげるか、僕に悪戯されるか、どっちがいい?』
「ううう・・・・」
もう選ぶしかない。
さあ、あなたはどっちを選ぶ?
【 悪戯 】 or 【 お菓子 】
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