神々のおわす島にて
 … Bulan madu ke Bali …

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 目の前のトレイに金色の玉がコロンと出てきた。

 カラーン、コローン♪

「おめでとうございます!特等です!!!」

「よっしゃー!俺様天才!!やったぜ翔太!」

「・・・マジ?」


 目の前では祭りのはっぴを着てカランカラーンと盛大に鐘をならす店員さんと『俺様天才』とはしゃぎまくり時任兄ちゃんと拍手喝采のギャラリー。年末のショッピングセンターは大変な盛り上がりだった。それらの中心にいながらもついてけずに呆然と眺めていた。

 こんな漫画みたいなことってホントにあるんだ・・・


 話は20分前に遡る。


 時任兄ちゃんと年末の買い物に出かけたら近所の大型ショッピングセンターで年末大抽選会をやっていた。特等はバリ島への航空ペアチケットらしい。二人の買い物ぶんを合わせたら5回分挑戦できるようだった。

「時任兄ちゃんやりなよ」
「えッいいのか?」
「うん、僕くじ運悪いし。兄ちゃんこういうの好きでしょ」
「実は初めてなんだよな、こういうの」
「じゃやってみなよ。僕やったことあるから」
「サンキュー!おっしゃやってみっか!」

 兄ちゃんは機器としてガラポン抽選を勢いよく回し始めた。すごい勢いなので当然玉は出ない。

「・・・んだよでねーじゃん」
「あーお客さんそんな強く回しちゃだめだよ。ゆっくり回すの」

 係りの人に注意されてしまった。
 その言葉通りにゆっくり回したら白玉がでた。

「はい、参加賞のティッシュね!」
「・・・ティッシュかよ・・・」
「ほらほら、あと4回あるから!」

 なんか当てる気まんまんだけどそうそう当たらないって。
 
 気を取り直して次まわしたら見事箱ティッシュを当てた!その次はまたポケットティッシュ、その次もまたティッシュだった。

「おっちゃんティッシュしか入ってないんじゃねーの?」
「人聞きの悪い、ちゃんと入ってるから!お客さんこそ当ててよね!」
「おっしゃー、ラス1!次こそ当ててやる!」

 あ、今まで左手だったのに今度は右手を出した。・・・気合を入れたあらわれなんだろうけど壊さないだろうか・・・?

「いくぜッ」

 時任兄ちゃんは気合をいれてガラポン抽選を回した!


 そして話は冒頭に戻る。


 時任兄ちゃんは『やっぱ俺様ってば天才!!』と大はしゃぎ、あれよあれよと言う間に名前を聞かれて記念写真を撮られてペアチケットを受け取った。

 これもビギナーズラックって言うんだろうか。
 受け取りながら『特等なんて入ってない』なんて思ってたのは内緒だ。

「・・・これどうしようか」
「?二人で当てたんだから一緒に行こうぜ」
「え!?時任兄ちゃんって海外旅行行けるの?」
「おー、何度かあるぞ。モグリが適当なの用意してくれっかんな」

 実はその”何度か”は旅行じゃなく逃亡のためで、”適当なの”は適当な偽造旅券ってことだが時任はそれまでは言わなかった。聡い翔太は言わずとも察しはつくだろう。

「・・ふーん、じゃこれ久保田さんと行ってきなよ」
「え!何でだよお前行きたくないのか?バリ島」
「行きたいけど・・・これ日付が1月末までなんだよね」
「冬休みあるだろ?」
「うん、あるけど・・・締め切りもむちゃくちゃあるんだよ。あとテストも」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」

 時任は去年の新年から段々やつれていった翔太を思い出した。
 翔太は去年の鬼のような修羅場を思い出していた。

 まだまだ新人の翔太は受けられるだけの仕事を受けるようにしていた。しかし正月は手伝ってくれる人も少ないので非常に厳しい修羅場となる予定だった。

「それにこれは航空チケットのみだからホテル代とかいろいろかかるから学生にはちょっと辛いかな。時間と財布に余裕がある二人で行ってきなよ。その代わりお土産よろしくね」
「・・・んじゃお言葉に甘えっかな」
「うん」

 ツンデレ気味な時任も翔太には素直に嬉しそうな表情を見せた。なんだかんだ言っても非常に仲の良い二人なのだから二人きりで旅行できるのは嬉しいのだ。

 『すごく嬉しそう。久保田さんて出不精だから海外旅行なんて行きそうにないもんね。ただあんな新婚旅行で行くような場所でちょっと心配だけど・・・』と翔太は心中複雑だった。

 その一方で・・・

「時任兄ちゃん、旅行先からどんな様子かメール頂戴ね」
「え、これできんのかよ!」
「うん、それ新型だからそのまま電話もできるよ」
「へー」

 『今抱えてるシリーズの”有害夫婦”の次のネタはこれに決まりだ!旅行なら何回か引っ張れるから短気連載とれるかも!』とも思っていた。

 それはそれ、これはこれ、なのである・・・



 そして家に帰った時任はくじのことを久保田に話し

「バリ島ね・・・たまには海外旅行もいいかも」

 と細い目を更に細くして嬉しそうに呟いたそうな。



 こうして久保田と時任は正月からバリ島へ旅立った。





2へ続く





二人がバリなんて行かないでしょ!なんて突っ込みはなしでお願いします・・・。
これは2008.1に私が行ったバリ島旅行を元に書いていきます。どっか旅行行ってもそれがたとえ海外でも久保時妄想をしている私です。あはは。
途中まではただのバリ旅行記ですが最後の最後に一度書いてみたかったネタを盛り込む予定です。もう何話か続きますのでお付き合い頂けたら幸いです。


2008.1.31








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