7年後 新年麻雀大会 - 2 -
久保田さん、葛西さん、時任兄ちゃん、そして僕の麻雀対局が始まった。

「半荘決戦な」 (最低8回戦)

ジャラジャラ麻雀牌を掻き混ぜながら時任兄ちゃんが説明してくれる。

「分かった。そういえば、優勝決定って言ってたけどお金の他に何か賭けるの?」
「言ってなかったっけ?優勝者は今日の12時まで1つだけ好きなこと命令できんの」
「そ、麻雀番王様ゲームってやつ?」
「時坊から金巻き上げてもつまらんしな、自然とそうなったんだよなぁ」
「ふーん・・・例えばどんなことしたの?」
「俺ん時は1日王様!ジュース買ってこーいとか色々言えて楽しかったぞ」

・・・普段とどう違うんだろう?

「去年は久保ちゃんが勝ったんだよな」
「うん、皆に一発芸してもらったよね」

・・・面倒で適当に言ったっぽいな

「おっちゃん時は何したっけな?」
「・・・時任にお酌してもらってたよね」
「おうよ」

・・・息子の嫁さんにデレデレする親父ってこんな感じ?

「翔太も何か考えとけよ?」
「う〜ん、勝てそうになったらね」
「弱気じゃねーか坊主」
「勝負はやってみなきゃ分かんないよ?」

・・・その言葉がそのまま当てはまるようなメンバーじゃないよなぁ

「んじゃ、やろうぜっ!」

明るい時任兄ちゃんの声が試合開始の合図だった。

* * *

「ポン!」

開始すぐに時任兄ちゃんがポンをしかけた。

「お、早速始めやがったな」
「?」
「時任は鳴くのが好きなの」(ポンやチーをすることを”鳴く”といいます)
「・・・久保ちゃんが言うとなんかやらしーから止めろ」
「事実っしょ?(笑)」

勝負しながらイチャつかないでほしい・・
頭脳プレーの他に精神的攻撃もプラスされるのはキツイんだよね

「おーい、少年、トッキーには気を付けろよー、場荒らすから」
「予測不能な牌の取り方・捨て方をしまよ」

滝沢さんと鵠さんがアドバイスしてくれた。
予測不能?うーん、どんなんだろ?
そんな風に不思議に思ってたら・・・

「ロンっ!」

時任兄ちゃんが突然上がり宣言をした!
まだ2順しか回ってないのにっ!!!

「っかー!!!振り込んじまった!!」
「やりぃ!一気通貫!ドラ2!」
「鳴いたから3翻ね」

数牌を1から9揃える役なんてすっごく時任兄ちゃんらしいなぁ

「んじゃ次!」


* * *

5回戦まで終わって、鵠さんと滝沢さんの言ってることがやっと分かってきた・・・
時任兄ちゃんはホントに場荒らしだった。

変なとこで振り込んじゃって大負けするときもあれば

場に3枚もでてる牌を上がり牌にしてても上がれる時もあるし

チョンボしちゃったりするけと (鳴いてはいけない牌を鳴いて上がって罰金をとられること)

3回鳴いてやりたい役がバレバレでもここぞと言うときに引き当ててツモしたりする

うーん、これは予測出来ないや

そんな感じで対戦が続いて、なんとトップは時任兄ちゃん、次に久保田さん、葛西さん、そして僕はビリだった。

「ねぇ、時任兄ちゃんって実は麻雀強いの?」
「う〜ん・・・波があるんだよねぇ。どっちかというと麻雀が強いっていうより勝負強いっていうんじゃない?」
「上手いとは言えんな、玄人にゃ嫌がられる打ち方だぞ」
「うっせーっ!勝ててりゃいーじゃんか!」
「まーねー」

確かにこういう打ち方では麻雀の醍醐味、読み合い、騙し合いなどは楽しめそうにない。
家族麻雀なら有りだけど、玄人は楽しくないだろう。
だから鵠さんや滝沢さんが大人しく席を譲るんだろうなー

そんな風に考えてたら

チャッチャラッチャ〜♪

携帯の着信音が鳴り響いた。
やばっ僕のだ!マナーモードにし忘れた!

「ごめん!ちょっと待って!」

慌てて電話に出る。
着信画面を見ると編集さんからだった。

「はい、飯塚です。
・・・・・はい、・・・・はい・・・・・・・・・・・・・・・・・・・分かりました。やります。
ただ今ちょっと立て込んでるので後でまた電話入れます」

ピッ!

「翔太?なんか顔色悪ぃぞ、悪い知らせか?」

・・・顔色?確かに一瞬血の気が引く内容だったのは確かだ。

「うん、ちょっと原稿のことでね。でも大したことじゃないよ。うん」
「大したこと無いってー顔にゃ見えねーぞ?」

葛西さんも心配してくれるくらい僕の顔は強張ってるらしい・・・。

「大丈夫、大丈夫、あとちょっとだから続けるよ。・・・やっぱ勝ちたいしね」
「お?やっとやる気になったな」
「うん、・・・本気で勝ちに行くよ?」
「言ったな坊主、いい度胸だ」と葛西さんがニヤリと笑う。
「なーんか考えてるみたいだねぇ・・・」と久保田さんが訝しげに眉間に皺を寄せた。
「んじゃやんぞ!」と嬉しそうに時任兄ちゃんが声をかける。

「うん!」

・・・絶対勝ってやる


* * *

「時任、それロン」
「げっやられた!」
「・・・僕もロン」
「ダブルロンかよっ!」 (※2人が同時に同じ牌で上がること、2人分の点数が取られます)
「ははは、時坊やられたな」
「ちくしょーっ次だ次!」


* * *


「久保ちゃんあと1つで上がるだろ」
「・・・よく分かったね、愛ゆえ?(笑)」
「ちげーよ、久保ちゃんて上がりそうになると少しだけタバコの吸い方変わるんだよな。あ、それポン!さっきのお返し、上がるの邪魔しちゃる」
(※ 自分の次の番の人にポンされると自分の番が飛ばされるのです)
「酷いなぁ」(なんとなく嬉しそう)
「そこっ!集中しやがれっ!」
「ごめんね葛西さん、それロン」と僕
「ちぃっっしまった!」
「集中してないのおっちゃんのほうじゃん」
「そーそー」
「やかましーっ」


* * *


「時坊、それロン」
「げっおっちゃんいつの間にっ!」
「ふふん」
「時任、葛西さんの癖は判んないんだ」
「あるんか?教えろよ」
「内緒」
「付き合いが長いとやりにくいったらねーな」
「俺も時任兄ちゃんなら分かるよ」
「時坊は勝てそうだってわくわくした顔すっからな」
「尻尾があったら絶対膨らんでるよね、そんくらい分かりやすい」
「うっせーっ次!」


* * *


あちらの麻雀卓が和やかにやっていると、鵠さんはお茶を飲みながら、滝沢さんはビールを飲みながら、和やかに世間話していた。記者と情報屋なんでなんとなく話は合うらしい。物騒かもしれないけど・・・

「次でラストですね」
「今のところ誰がトップだ?」
「葛西さん、翔太くん、久保田さん、時任くんの順です。翔太くんが善戦してますね」
「トッキーが入るとクボッチは弱くなるんだよねー」
「ふふふ、面白いですよね」


* * *


「次でラストだな」
「負けちまってるけど逆転のチャンス有りだよな!ぜってー勝つ!」
「何か命令したいことあるの?」
「おうよ、ぜってー勝って命令しちゃる」
「勝てたらな」
「・・・実は俺もお願いしたいことあるんだよね」
「お願いってなんだ?」
「勝てるまで内緒」
「ふ〜ん?まいっか、んじゃやろうぜ」

ジャラジャラジャラ・

一巡、二巡・・・五巡目から皆次第に勝負に入り始めてくる。

「ポン!」

時任兄ちゃんは2回目のポンをした。
取った牌は萬子の1、その前が風牌の南だから対々和(トイトイホー・同種3枚組が3個+同種2枚組・2翻)、それに加え混一色(コンイツ・字牌と一種類の字牌で揃えた役・2翻)も狙ってるかもしれない。どっちにしろ分かりやすいから注意しやすい。

「ポン」

久保田さんが珍しくポンをした。
取った牌は時任兄ちゃんと同じく萬子だけど数字は9のドラ!、3役だ!要注意!
久保田さんはその時その時で色々な役を揃えるので全く予想がつかないし、普通の役に見えて何時の間にか役満とかありそうで怖いな・・・

「誠人、それで上がったら逆転だな」
「まーねー、俺もやってもらいたいこと思いついたし?」
「・・・なんか嫌な予感がする。おっちゃんっ!翔太っ!久保ちゃんにはぜってー勝たせるなっ!」
「信用ないなぁ、何想像してんの?」
「お前がやりそーなことに決まってんだろ?」
「例えばどんな?」
「そこまでにしとけ、痴話喧嘩なんぞ聞きたかねぇ、おらリーチだ」

葛西さんも複雑に役を組み合わせるからどんな手を打つか想像できない。
一応場にでてる安全牌を捨てるしかないよなぁ・・・。

考えながら牌を一つとると・・・索子の8!
来た来たっ!僕の手は一盃口(イーペーコー・1翻)、索子の6・7・8が2つ揃った!リーチで1役とれてば勝てる!あとは2つ同じのが揃えばいいだけ!

「リーチっ!」

勝負をしかけた!



嫁さんに弱い旦那さん、その嫁さんに強い小姑、年の功の舅、この三つ巴戦

誰が上がってもおかしくないこの状況

さて、誰が勝つでしょう?






『優勝決定戦』へ続く
 
ぎゃーっまた終わらなかった!すいませんっ続きます!!
人によって打ち方の癖ってあるんですよー、時任は絶対鳴くタイプだと思います。3つ揃えるのが好きだったり、一色に揃えるような役が好きっぽいから。DSソフト『皆で麻雀』の中に鳴くのが好きな子供がいるんですが、その子とすると時任とやってるみたいでついニマニマ笑っちゃういます(変態)。久保田や葛西さんには癖はないと思う。ただ時任のみ気付いたらいいなーって妄想しただけでした。ごめんよっ!

2007.1.25
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