じゃじゃ馬4
PPPPP、PPPPP、PPPP

休日の午後、家でだらだらパソコンを弄ってたら携帯が鳴り出した。
着信履歴を見たら時任だった。

PPPPP、ピッ!

「はいはーい、時任?」
『相浦?お前今どこにいる?』
「え?家だけど・・・」
『んじゃこれからお前んち行くから!んじゃな!』

ピッ!

「・・・おいおい、こっちの都合くらい聞けよな。ま、いーけどさ」

今日はこの後に友達が来る予定だった。
まあ共通の友人なので問題は無いのだけど・・・

あいつが唐突なのは今に始まったことじゃないけど、ここまで突然なのは珍しい・・・

「また何かあったのか・・・?」


* * * * *


そして嫌な予感というのは当たるもので・・・

到着早々、時任はあいさつもそこそこにとんでもないことを宣言した。

「おい、AV見せろ」

・・・エーブイって、あのAVですかね?

「・・・アダルトビデオのAVか?」
「それ以外にあんのかよ、お前なら持ってるだろ?」
「まあ健全な青少年だし持ってるけど・・・」
「んじゃ見せろ」
「まあいいけど・・・」

ごそごそと定番のベッドの下からアダルトDVDを数枚取り出した。

「どれがいい?」
「『女教師の桃色授業』『禁断の兄弟』『紅卍忍法帳』・・・どれも似たようなもんばっかだなー・・・」
「これなんかは海外サイトからの無修正版でレアもんだぞ」
「バタ臭い女は好みじゃない」
「んじゃこれは?女子高生もの」
「及第点、これがイイ」

そう言って選んだのは『女子高生の危険な放課後』、黒髪のツリ目でちょっとキツメの顔立ちが可愛い純和風の子が出てるやつだ。・・・結局は少しでも自分系の顔の子を選んだってことか、このナルめ!

「さっさと再生しろっての」
「へーへー」

この俺様め・・・と思いつつもDVDデッキにセットする。
そんでお約束に電気を消して、カーテンを閉めて、ティッシュをセットした。

ここまでやってふと気づく、時任ってAVとかそんな好きじゃなかったよな?

「今更だけど、お前あんまAVとか興味無かったよな?どうしたんだよ急にさぁ」
「んー・・・気晴らしと更正の為にな」

・・・こうせい?厚生?公正?更正?

「こうせいって・・・えーとあの正しくなるの更正か?」
「おー」

その先はまだ言いたくないらしく、そのまま黙って画面を見つめていた。

まぁいっか・・・

何かあったらしいのは確実だがどうしてAVに繋がるのか・・・

とりあえず疑問はおいといて自分も画面に集中することにした。

*

「だぁっ何だよこの女!変じゃねえ?アブねーのわかってんだろ?」
「・・・変でもこういうのがパターンなんだよ」
「ふーん?」

*

「・・・無理矢理なわりにはめっちゃ声あげてんのな・・・」
「これも定番」
「ふーん・・・」

*

「結局、この展開で両思い?ありえねー・・・」
「まぁな、でも『嫌よ嫌よも好きのうち』って男のロマンだからさ」
「・・・」

*

『THE END』の文字がTV画面に流れた。

「・・・」
「・・・」
「トイレは出てすぐ右」
「ん」

なんだかんだ言っても時任も健康な男の子、文句多かったけどちゃんと勃ってたのだ。

「お先」
「あいよ」

時任と入れ違いで自分もトイレに行く。
にしても・・・野郎同士でAV見るのはよくあることだけど、時任と見るとなんかこうエロさがかけらもないというか、味気ないよなー・・・。普通ならお互い照れくさいような猥談をしたい雰囲気になるのだが、時任相手だとそれが全く無い。おかげでこっちもあんまり興奮できなかった。
それでも一応トイレで処理して部屋に戻る。
済まして部屋に戻ると時任がちょっと気だるそうにベッドにもたれかかってた。
なんか考え事してる様子でさっきまでAV見てたとは思えない様子だ。

一応勃ってたけど興奮してなかったもんなぁ

こいつってどういう相手だと興奮すんだろ・・・

そんな余計なことまで考えてしまう。

「・・・で?、久保田となんかあったのか?」
「・・・なんでそう思うんだよ」
「AV見たければ家で見ればいいのに、突然うちに来て見たいなんか言い出すからさ、こりゃ家にいたくないんだろーなーって普通思うだろ?」
「・・・」
「それにさ、お前の首筋、それキスマークだろ?」
「!?」

時任は驚愕の顔で首筋の服を掻きあわせた。その反応では『キスマークを付けられるような何かがありました』と白状したようなもんだ。もしやと思って言っただけなのにそのものずばりだったらしい。

「何かあったんだろ?話してみろよ」
「・・・」

ううう・・・などと意味不明なことを呟きながら逡巡しつつも

時任は昨日のことをぽつぽつと話し始めた・・・



* * * * *




昨日の出来事を聞いてまず思った

「お前・・・よくヤラれずにすんだな・・・」
「はぁ?ヤラレルわけねーじゃん、俺男なんだし、いくらなんでも久保ちゃんも途中で気付くだろ」
「気付く?」
「女じゃないとわかるだろ?胸ないしさ」
「・・・・・・・・・・・・・」

・・・どこから突っ込んでいいのか迷ってしまう
鉄壁の(下心つき)理性で抑制してた久保田を泥酔させるなんて危険過ぎるのでヤメロとか、時任だからこそ押し倒されたと教えてやるべきか、いや、そんなこと言ったら久保田に何されるかわからないとか、言うべきことがあり過ぎる・・・

別の疑問を口にしてみる

「そう言えばさ”更正”ってどういう意味なんだ?」

この場合、更正が必要なのは久保田の方であって時任ではない。
まあ久保田が時任を心底大事にしてるのは疑いが無いので更正は言いすぎかもしれないが・・・
そう思って聞いたのに時任はちょっと赤くなって口ごもった。ん・・・?

「・・・勃っちまったんだよ」
「え?」
「久保ちゃんに触られて勃っちまったの!変じゃん!俺!」

顔を真っ赤にさせて時任が『勃つのは変だ!』と主張する。
でも男の生理上しかたないことだよな・・・?

「男なんだし・・・触られたら仕方ないだろ?俺でも勃つと思うけど・・・」

本当は相手が久保田なら勃つより萎むと思うが安心させるように言ってみる。

「・・・でもよ、その、気になっちまうんだよ・・・久保ちゃんのこと」
「気になる?」
「久保ちゃん見ると昨日のこと思い出しちまって、カァーッって頭に血が上がっちま
うんだよ・・・」
「・・・」
「でさ、AVでも見りゃ勃つの当たり前だし、気ぃ紛れっかなって思ってさ・・・」

そう言って時任は恥ずかしそうにちょっと顔を顔を赤らめて目を伏せた。
さっきのAVでは全く見られなかった表情だ。
その恥じらう様は・・・俺でも可愛いなんて思ってしまう。
これは・・・・・・・・

「前から聞きたかったんだけどさ・・・お前さ、久保田のことどう思ってんの?」
「あ?」
「いや・・・お前と久保田は相方で、相棒で、親友で、同居人で一番大事なんだろうけどさ、それだけかなって思ってさ・・・」
「それだけって・・・それ以上なんかあんのかよ」
「まあ、恋人とか・・・」
「はぁっっ?有り得ねぇっっ!!!」

時任は信じられないって顔してこっちを見た。
いや、信じられないのはこっちだって・・・

「お前は有り得ないって言うけどな、自分以外に興味のないお前が、ヤキモチしたり、こだわったりするのって久保田だけだろ?だから特別な感情とか持ってるのかなと思うぜ」
「・・・特別な感情って・・・久保ちゃんは一番好きだぜ?、それ以外特にねーよ」
「それだけか?好きは好きだけど、そいつの一番になりたいとか、・・・自分のもんにしたいとかそういうの無いのか?」
「自分のもんって何だよ、久保ちゃんは久保ちゃんだけのもんじゃん」

至極、当たり前のように時任が『久保ちゃんは久保ちゃんだけのもの』と言い切る。
それは言い返せば『自分は自分だけのもの』ということだ。
時任は自分が誰かのものになることも、誰かを自分のものにすることも、考えたことが無いのだろう。
自分が一番、久保田も一番、並び立ちはするけど重ならない、ずっと、平行線。
時任らしいといえばこれほどらしいことはない。
こいつは本当に真っ直ぐで、単純で、縛られず、自由で、・・・強い。
・・・その気性が羨ましくもあり、眩しくもある。

誰しも自分は自分だけのもので誰かのものになることはできない。でも恋人とか夫婦とかになって自分は誰かのもの、あいつは俺のもの、一人じゃないんだと錯覚しながら寂しさをごまかしていく。みんな時任のように強くはなれないのだ。

久保田は時任のこういうとこに惹かれたんだろうな・・・
だからこそ告白することもなく、ただずっとそばにいることを選んだのだろうか、報われることなど考えずに。

まあ、恋心を秘めて耐え忍ぶ、なんてそんなかわいいタマじゃないか
ただ、怖いんだろうな
時任が変わるのが怖い、この関係が変わるのが怖い
そりゃ、怖いよな・・・俺も怖いもんな・・・

なんとなく、人事とは思えなくなって、自分のエゴと分かっていても、言わずにはいられなかった。

「・・・久保田は、お前のこと自分のものにしたいと思ってるぞ」
「え?」
「あんだけ飄々として、女も男も金でも何でも興味なさそうにしてるやつがお前だけは特別だし、執着してる。久保田の一番大事なのはお前だよ、それは間違いない。だから、あいつはお前のこと”欲しい”って意味で好きだと思うぞ」
「・・・何でそんなのわかんだよ」
「わかんないお前のが不思議だっつーの、誰だって一番大事なものを欲しいと思うのは当然だろ?」
「・・・まぁな」
「人間でも、物でも、なんでも、好きになったら欲しいって思うもんなんだよ、普通はさ。これは俺のもの、俺の彼女、俺の奥さんって感じに自分のものってレッテル貼りたいもんなんだよ・・・」
「・・・久保ちゃんは俺の相方だぞ」
「相方でもいいよ。ずっと、一生相方でもいいよ。でもさ、恋人とか出来たり、結婚とかしたら相方よりその相手が優先されるだろ?その相手と一緒にいる時間のがどうしたって増えるだろ?すると自分のこと一番知ってるのはその相手になるし、自分が一番良く知ってる相手もそいつになるんだ。そうなったら仕方ない、どうしたって久保田はお前の一番から二番になるんだぜ?そんなん嫌じゃねーか」
「・・・」
「お前だって、久保田が恋人作ったり、結婚したりしたら、久保田の一番から二番目になるんだぜ。お前それでもいーのか?」
「っっ!!」

時任が息をつめた。考えたことも無いって顔つきだ。
・・・実際、久保田が時任以外の人間と付き合ったり、結婚したりするとは思えないけどな。

「・・・嫌だけど、久保ちゃんは、久保ちゃんだけのもんだ。久保ちゃんが欲しいとか、恋人とかになって、昨日みたいなことしてーとか、そういうふうには思えねー」
「・・・そっか・・・」

・・・こればっかりは仕方ない。
時任はそういう意味では久保田を好きではないのだ。
久保田がそばにいて、一緒に笑いあっていられれば満足なんだ。
至極、明るくて、まっさらに久保田が好きなんだ。
恋愛のようなどろどろとした薄暗い感情とは別なのだ。

余計なことを言ってしまったと、後悔した・・・
そう思ったら時任がぼつりと呟き始めた。

「・・・けど、久保ちゃんとゲームしたり、暴れたり、一緒に飯食ったり、そばにいるのは、俺のもんだ」
「時任・・・」
「久保ちゃんの一番は、俺のもんだ」
「・・・」

時任は強い目でそう言いきり、黙り込んだ。
沈黙が流れた・・・

「相浦、俺帰るわ」
「あ?、あぁ・・・」

帰り支度を始める時任を見てるとじわりと罪悪感が沸いてきた。
どう考えても、部外者がどうこう言う問題じゃないのだ。

「悪い・・」
「あ?」
「余計なこと言っちまった」
「そう思うんだったら最初っから言うんじゃねーよ」
「だよな・・・」
「・・・ま、帰って久保ちゃんと話ししようと思えるようにはなったけどな」
「そっか・・・」
「じゃぁな!」
「ん、また明日な」

時任は軽く手を上げて帰っていった。
ふっきった、というわけではないけど新たな問題で昨夜のことが気にならなくなったのだろう。何が問題かハッキリすれば当たって砕けろ的な前向きさが時任にはあるので、訳もわからず悩んでるよりかは久保田と話す気になったようだ。

・・・逆にこっちは悩む結果になったな・・・つい、ため息が漏れる。
そんなとき携帯が鳴った。

PPPPP、PPPPP、PPPP

PPPPP、ピッ!

「室田?」
『相浦?、約束より30分ほど早めになるがこれからそっち行っていいか?』
「あぁ、いいよ。・・・どうせならもうちょっと早く来て欲しかったけどな」
『?何か予定でも出来たのか?』
「いや、さっきまで時任が来ててさ・・・ちょっと俺余計なこと言っちまって、パンドラの箱を開けちゃった感じ・・・」
『・・・』
「もしくはイブにりんごを食べさせた蛇な気分・・・」
『・・・なんとなく、何言ったか分かった』
「どうみたって両想いなのにさ、なんか歯痒くてさ・・・」
『確かにな・・・』
「俺なら・・・なんて思っちまったからつい言っちまった」
『気持ちは分かるが、お前は久保田でも時任でもないからな。外野が何言っても決めるのは二人だからお前が気に病んでも仕方ないぞ』
「・・・室田くん、結構キツイのね」
『正論だろ?』
「正論だからきついんだろうが・・・」
『着いたら愚痴でも何でも聞いてやるから、ちょっと待ってろ』
「おう、じゃ待ってるぞ」

ピッ!

室田の言葉が頭の中で何度も再生される。
『お前は久保田でも時任でもない』
確かに、その通りで、俺が何言っても二人がどう決断するかはわからない。
それは言い返せば、俺が言ったことで何かが二人の間で起こっても、俺は決して責任が取れないということだ・・・
余計なことはホント言うべきじゃない

「・・・明日、学校行くのやだな・・・」

ため息の止まらない、相浦であった・・・







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久保田を放り出してひとりでふらふら行動するのがうちの時任のパターンらしいです。私の猫のイメージなんですね。相浦くんの性格は捏造しまくり・・・微妙に暗くてなんか小宮みたいです。キャラつかめてない証拠ですね。裏設定では相浦君も誰かに恋をしていて、自分と比べて二人はほぼ両想いなのにって歯痒く思ってつい余計なことを言ってしまったのです。相手は桂木ちゃんがいいなぁ。
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