お気に召すままに6
「挑戦者番号33番、久保田誠人参戦しまーす」

のほほんとした調子で爆弾発言され時任と挑戦者が一斉に久保田の方を見る。

「俺も参戦するから」

言いながら近くにいた挑戦者の一人を殴り倒す。久保田はその長身を活かしたパワーで急所に一発入れるので、殴られた方はたまったもんじゃない。大抵は一発で沈む。しかもライバル相手の本気モードなので一切の手加減無しなのだ。

「えっ・・・」

「覚悟してね?」

他の挑戦者達に向かって宣言する。
凄みのある笑顔で全身から殺気を漲らせ周囲を威嚇する。

ザワリと挑戦者の間に緊張感が走った。

「久保田っ!何でお前が参戦するんだぁ?」
「何で俺達を殴るんだよっっ!!!」
「だって邪魔だから、ライバルを倒しちゃ駄目ってルールは無いでしょ?」

久保田は宣言通りガツガツと挑戦者達を倒していった。

「久保田っ!テメー時任と別れたんじゃねーのかよっ」
「未練がましく参戦すんじゃねーよっ」

ガツッ!うるさい挑戦者を一人倒して久保田が口を開く。

「それ全くのデマなんだよねー、一体どっから広まったんだか」
「あぁ?お前らの仲間が話してたって聞いたぜ?」

うちの人間でそんな奴いるか?
いや、いた、仮が付く仲間だが・・・

「そういう訳ね、ありがとさんっ」

ガツッ、礼を言いつつ一発決めて相手を沈める。

次第に時任に群がってた挑戦者達は久保田一人に的を絞るようになってきた。

「いっつも時任にへばりついて邪魔しやがって・・・」
「前からてめーは目障りだったんだよっ!」

誰しも久保田には長年邪魔されている恨みがある。恨み骨髄の最大のライバルを数を頼みに殺るチャンスなのだ。残る全員で久保田を囲み一斉に襲い掛かった。

「おいっ一斉にかかるなんて卑怯だぞっ!相手は俺だろうがっっ!!」

一人残された時任は久保田に助っ人するため群れに乱入する。
何時の間にか久保田と背中合わせで戦っていた。まるで公務執行中のようである。
そしてコンビを組んだ二人に適う筈も無く、挑戦者は全員床に沈み最後に立っているのは時任と久保田のみだった。

「なんで久保ちゃんが参戦してんだよっ」
「そりゃやっぱり”愛”でしょう」
「はあ?」
「時任君がどこぞの誰かとデートするなんて俺が承知するはずないっしょ?」
「自分はどっか行くくせに何言ってんだよ」
「それは弁解させて?」
「ふんっ、俺様を倒したら聞いてやらぁっ!」

いきなり時任は床に手を付き久保田へ足払いをかける。背の高い相手には下から攻めるのが基本なのだ。久保田は飛んで時任の足を避けるが久保田より早く体勢を戻した時任が腹に一発拳を繰り出す。
ドスッ!久保田はとっさに腕でガードした。

一旦離れた時任は助走をつけてジャンプし久保田の頭へ向かってキックをかます。
ガツッ!久保田は腕で防ぎつつその足を掴んで時任を放り投げる。
投げられた時任はくるっと一回転し着地した。
・・・恐るべき身軽さだ。

野次馬のギャラリーは突然始まった二人のスタントマンばりのアクションを目にし暫し呆然としたあと「すっげー映画みてー」「きゃーさすが久保田君!」「やっぱあの二人はちげーよな」などなど歓声を上げて盛り上がっていた。

「まるで猫だわね」と桂木
「まるでじゃなくて猫そのもの」と相浦
「さすがだな」と室田
「ニンジャみたいですね!」と松原

執行部の面々は臨戦態勢を解除し、のほほんと時任の戦利品のパンを食べながら事の成り行きを見守っていた。二人がどんだけ激しく戦っているように見えてもせいぜい犬と猫がじゃれあっているに過ぎないのをよく知ってたからだ。どっちかが本気で相手を傷つける筈が無いのだ。

今度は久保田が時任へ向かって右手で殴りかかる。身軽な時任はひょいと避け久保田の懐に入り下からアッパーを決めようとする。しかしそれを待っていた久保田は背中を反らして余裕で避ける。そのまま時任の背後に回り首に腕を回して締め上げる。

「時任〜、参ったと言ってくんない?」

ギリギリと締め上げながら久保田が言う。

「〜〜っ冗談じゃねぇっ!」

叫ぶと同時に身を前のめりに屈め、その後一気に体を反らし久保田に体重を預ける。ほんの少し久保田の体勢が崩れ手が緩んだ隙に一気に頭を抜き取る。そのまま屈んで床に手を付き下から久保田の腹を蹴り飛ばす。久保田はとっさに手でガードしたが衝撃は流し切れなかったようだ。げほげほ言いながら久保田は腹を摩りながら間合いを開けた。

「時任くんてばホント容赦ないね」
「ふんっ、勝負なんだから当然だろっ」
「・・・しょうがない、秘密兵器使っちゃうよ?」
「何だよ秘密兵器って」

久保田は後ろポケットから何やら紙のつづりを取り出した。

「じゃじゃーん、久保田食堂お食事券30枚つづり〜〜」
「何だよソレ」
「これにはカレー以外の久保ちゃん特製メニューが書かれています。これを久保田家のキッチンで出されるとそこに書かれているメニューが作られるのです」
「!!!」
「例えば1週間連続カレーの日でもこれさえ出せば違うメニューに変わるのです」
「!!!!!」
「どお?コレ欲しくない?」
「〜〜〜っ」
「時任君が『参った』と言ってくれれば上げるんだけどなあ〜」
「・・・汚ねぇぞっ久保ちゃん!!!」
「使えるものなら何でも使う、勝負の鉄則でしょ?」
「〜〜〜〜っっっ!!!」

悩める時任とにやにや顔の久保田

「・・・急にセコイ展開になったわね。今朝あれ作ってて遅刻したのかしら」と桂木
「なんせ月の半分以上がカレーらしいからなあ、時任にとっては切実みたいだぜ?」と相浦
「インド人並みですね」と松原
「だから自分で作れるよう料理を勉強しろと言ってるんだ」と室田

執行部の面々には勝負の行方がもう見えていた。

「時任、参ったって言ってくんない?」
「・・・・・嫌だ」
「そ、じゃ破っちゃお・・」

久保田が食事券にに手をかけ破こうとすると・・・

「だぁ〜〜っ待てっ!」
「んじゃ参ったって言う?」
「う〜〜〜っ」
「ね、時任、お願いだから言って?」
「・・・久保ちゃんがどーしてもって言うんならな・・・」
「うん、どうしても。俺以外とデートなんかするのは我慢できないから」
「しょうがねえなっ!参ったっっ!!!」

キーンコーンカーンコーン♪

時任が叫んだと同時に昼休み終了5分前の鐘がなる。タイムアップだった。

パン、パン、パン!

「はい!昼休み終了〜!皆さん解散してくださーい」

桂木ちゃんが手を叩いてギャラリーの解散を促す。
他の執行部員は未だに床に転がってる元挑戦者達を保健室に運ぶよう手配していた。
手際のいい連中である。いや慣らされたと言うべきか・・・

「久保田君、後片付けはしとくからもう行っていいわよ。へばってる時任を早く連れてってあげて」
「いつも悪いね」
「今回は時任の戦利品でチャラにしてあげる」
「んじゃお先〜」

久保田は何時の間にか床にへばっていた時任を担いで体育館を出て行った。

「結局あんだけ派手に暴れてても最後は元鞘になるんだよなー」
「しかも最後は餌付けで泣き落とし、ホントらしすぎて呆れちゃう」
「全くだ」
「仲良きことは美しきかな!といいますからいいんじゃいですか?」
「・・・まあね、二人でくっついててくれる方がまだ周囲への被害は少ないのよね」

桂木はあたりを見回して呆れたようにタメ息をつく。
いまだ床にちらばるは10数名の時任へ横恋慕(?)する挑戦者達。彼らは時任にパンを貢いで散々に殴られ鬱憤晴らしされ、久保田にも殴られ、終いには二人の仲を見せ付けられて久保田に時任をお持ち帰りされてしまったのだ。同情を禁じえない。

「ま、仕方ないか。有害コンビだもんね」
「そうそう、毒をもって毒を制すと言いますから」
「分かってないで手を出したほうが悪いってことだよなー」
「うむ」

それで済んでしまうのだから大分毒されている執行部の面々であった。
ホント、おおらかな校風である。


 * * * * *


その有害コンビは屋上に来ていた。

「う〜〜腹減った・・・」
「朝からなんも食べてないもんね、お前」
「だってムカムカしてたから腹へったって感じなかったんだよっ」
「んー、ごめんね?」
「お前さ、俺が腹立ててる理由分かってんのか?」
「?イブにどっか行っちゃうとこでしょ?」
「違げーよっ、いつも俺に黙ってるとこっ!そりゃ陰で動くような時は手伝えないかもしれねーけどさ、ちっとは俺にも相談しろよ。俺、相方だろ?」
「・・・ごめんね?」
「おう、全くだ。・・・話すの面倒くさがんなよ?」
「肝に命じときます(バレてるなあ・笑)」
「当然っ、あー腹減った!なぁくぼちゃん、もう帰ってこの券使っていーか?」
「どーぞ?」
「ふっふーん♪俺様今日は何食べようかな〜」
「何でも作りましょ?時任くんのお気の召すままに、ね」


二人はいつものごとく仲良く並んで家路につく。
こうしてはた迷惑な痴話喧嘩騒動は幕を閉じたのだった。






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あー長かった!この章は区切れないので読みづらくてすんません。
そしてタイトルの理由が最後のセリフです。思わせぶりな題でしたがこんなオチでした。期待しちゃいました?(笑)前にも書きましたがこの話しの目的は暴れる時任を書くことでした。しかし時任が思う存分暴れられる好敵手って言ったら久保ちゃんしかいないんですよね。しょうがないので二人をケンカさせようと思ったけれど本気で殴りあうのは避けたい。だから最後は餌付けで篭絡と早い段階で決まってたのでこういうタイトルになりました。
それでは次でラストですー

2006.12.16
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