お気に召すままに4
キーン、コーン、カーン、コーン♪

4時限目終了の鐘が鳴っている。

「もう昼か・・・」

久保田は未だ時任を見つけられずじまいだった。
屋上に行ったが相浦のみで時任は何かを叫びながらどっかへ走り去ったらしい。

「部室にも売店にもいなかったし・・あとは保健室くらいかねぇ・・・」

ガラッ

「あああら久保田君!いらっしゃーい♪」

今日も今日とて華やかな服装の保健室のおばさん(?)こと五十嵐先生が満面の笑みで出迎えた。ついでにしな垂れかかるのも忘れない。

「ど〜も」
「あれ、時任君は?一緒じゃないの?珍しい」
「あーやっぱりいないんすね、うちの相方」
「来てないわよ?・・・もしかして例のうわさのせい?」
「耳早いですね〜」
「うふふ、保健室のおばさんの情報収集力を舐めないでね?」
「いえいえ、感心してるんすよ。でうちの相方の行きそうな場所知りません?」
「残念ながら君が知ってる以上のことは知らないわねぇ」
「さいですか・・」

どうしたもんかと思案してるときにお昼の放送が始まった。

『ぴんぽんぱんぽーん♪』

「ねぇ、これ時任君の声じゃない?」
「・・・」

『皆様のアイドル時任君からのお知らせでーっす!
俺様とイブにデートしたい奴は今すぐ売店でパン買って体育館に集合!
クリスマスイブデートを賭けて俺様と勝負しろっ!
挑戦者からパンを奪ったら俺様の勝ち、俺が『参った』といったら挑戦者の勝ち!
制限時間は今日の昼休み中!まとめて相手してやるからかかってきやがれ!!
以上終わり!!』

ブツッ!と音がして放送が切れた。

「あらら・・・また思い切ったこと考えたわねぇ」
「どんぐらい来るかなんて全く考えてないんだろうねぇ」
「あの子自称美少年て言ってる割には自覚が足りないからね、大丈夫かしら・・・」

五十嵐先生はそう言いながらチロっと久保田の方を見る。
『早く行ってあげて?』と目で訴えている。

言われずとも行きますけどね。
でも時任なら10人や20人くらい問題なく相手出来るだろう。
ただその人数ですめばの話しだが・・・

「んじゃお邪魔しました〜」
「今度は二人でいらっしゃいね♪」

何だかんだ口喧嘩してても五十嵐先生は時任がお気に入りなのである。
時任は皆に可愛がられている。ちょっと気を抜くと誰かが時任を構いに近寄ろうとする。
だからこそ側に張り付いて無意味にベタベタして番犬役をしているのだ。
まあ単に側にいたいだけともいうが。

「さて、うちのにゃんこにご飯をあげに行くかね」

そう呟いて、久保田は売店に向かって歩いていった。



 * * * * *



その頃体育館では・・・

「〜〜〜っ!!!!なんでこんなに来るんだよっ!!」

時任が体育館の中央に仁王立ちして叫んでいた。

校内放送から約5分後、体育館には手にパンを持った男子生徒が30人以上集まっていた。
これらは皆時任に求愛しに来た面々ということだ。
ホント大らかな校風である(笑)
そのほか何事だと様子を見に来たギャラリーも来てすごい賑わいだ。

「結構来たなあ・・」とあきれた顔の相浦
「あんな放送するからよ、自業自得!」と心配しながら怒っている桂木
「人気者で良かったですね」とどこかずれた松原
「あんな人数じゃさすがの時任もきついんじゃ・・・」心配げだが顔が見えない室田

放送を聞いて体育館に集合した執行部の面々だった。
久保田は未だに到着していない。

「ふふふ・・・まあいい、昨日からちょっとムカついてて鬱憤晴らししたかったんだ。
たたんでやるからかかってきやがれ!!!」

集まった連中へ敵か何かのように啖呵を切る時任。
彼らは時任に恋する男たちだというのを分かっているのかどうか・・・甚だ疑問である。
でも集まった連中にとっては今までチャンスが無かった時任へのアタック権だ。
ここぞとばかりに時任へ突進して行った。

「時任〜っ俺とディズニーランドへっ!」

ドスッ!鳩尾に一発

「俺と映画に〜!!!」

ガコッ!下から顎へ一発

「一緒に山下公園を歩こう!!」

ガスッ!足払いをかけて背中に一発

それぞれ急所を突いて一発で沈める。執行部最凶コンビの名は伊達ではないのだ。
沈められた男たちからひょいひょいとパンを抜き取り執行部の面々にに投げては次の挑戦者を倒しパンを拾っては倒すを繰り返す。
開始から5分というわずかな間に既に8名が床に沈んでいた。
あんな華奢な体にどんだけのスタミナとパワーを秘めてるのか大いに謎である。

「このパンどれだけ集まるかしら」と桂木
「暫く昼ごはんに困りませんね」と松原
「ちゃっかりしてんよなー」と相浦

最初外野はのほほんと観戦モードを決め込んでいた。
しかし開始から15分が経過するとだんだん時任の息が上がって来ていた。
パンの数は18個、もう18人も倒してるのだから無理も無い。

「・・・だんだん疲れてきたみたい。そろそろフォロー体制に入ったほうがいいわね」
「おう、だんだん一発で決められなくなって来たしな」
「しかも時任が疲れてるのを待ってるようなのが残ってるからヤバイよな・・・」
「卑怯な真似したら即仲裁に入るからね!」
「「「おう!」」」

ホント面度見のいい連中である。

「にしても久保田君は何してんのよ・・・」

苛立たしげに桂木が指を噛む。
このままだと誰かに負けて時任がホントに誰かとデートしてしまうかもしれないのだ。
阻止できるのは久保田だけだというのに一体何処にいるんだか・・・

桂木が苦々しく思っていた頃、ザワッ・・・入り口付近がざわついた。

体育館の入り口の方で「久保田だ」との声が聞こえる。

「ちょっとごめんねー?」

人ごみを掻き分けて久保田が現れた。

緊張感のかけらも無いが真打登場である。

「久保田君遅いわよっ!!」
「いやー売店のパンが売り切れちゃってさ。近くのコンビニに行ってたのよ」
「パン?・・・ってことは」
「そ、俺も参加するの」

そう言って久保田は乱闘の中心に向かって

「挑戦者番号33番、久保田誠人参戦しまーす」

のほほんとした調子で爆弾発言をかましたのだった。








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やっと久保田が動き始めてくれました。それでもマイペースは崩れません。もっと時任が切羽つまらないと駄目でしょうねー。そこまで時任を追い詰めるのは可哀相なのでなかなか書けそうにないけどいつか書いてみたい気もします。次は念願の乱闘シーンです!

2006.12.14
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