トラブルドロップス
一日目 - 4 -

 ガチャガチャ、バタンッ

「・・・ん・・・くぼちゃん・・・?」
「あ、起きた?」

 電車の中で眠ってしまった時任を抱えてマンションに帰ってきたとこだ。ドアの音で目が覚めたらしい。

「悪ぃ、寝ちまってたんだな」
「うん、寝顔可愛かったよ」
「////ッ馬鹿!」
「夕飯どうする?ピザでも頼もうか」
「賛成ー、俺様ポテマヨな!」
「んじゃ俺はパイナップルピザね」
「(相変わらず邪道なもんを・・・)俺様汗かたからシャワー浴びてくる」
「んー」

 いつものヘブンズピザへ注文した。今は6時半だから7時ごろには着くだろう。夕飯に丁度いい時間だ。郵便物と新聞を仕分けしてたら シャワーの音が止んだ。どうやらもう出てきてしまったらしい。随分早い。
 うーん、覗き損ねた、残念。ピザが来るまでちょっとあるし、俺もシャワー浴びよかね。

 ガチャッ

「久保ちゃんも入るか?」

 そう言いながら時任がリビングに入ってきたので「入る、ピザの受け取り頼むね」と言おうとしたが・・・止めた。こんな格好の時任を人前に晒すわけにはいかない。

「・・・子供用の寝まき買っとくべきだった?」
「ウッセーっつの!」

 風呂上りの時任はTシャツ一枚の姿だった。
 当然のことだがうちには子供服なんてない。すると自分の大人用の服を着るしかないが上はともかくズボンはどうやってもサイズが合わない。だからTシャツ一枚だけ着ることにしたのだろう。大人用のTシャツなので膝小僧まで隠れるが、そこから細い足がスラリ惜しげもなく晒されている。子供なら何の問題も無い格好のはずなんだけど、どうも見せてはいけない、隠してしまえ的な感じがする。彼女が彼氏のシャツを一枚だけはおってる状態に近いものがある。
 ・・・うーん・・・出血大サービスな感じ?

「子供用のパンツも無いよね。もしかして履いてない?」
「んなわきゃねーだろッ」
「どれどれ」
「見んなッ!」

 嫌がって逃げる時任を捕まえてTシャツの裾をペロッとめくってみた。残念、そこまでサービスじゃなかったか。ウェストを紐で絞れるパンツを着用していた。

「久保ちゃんの馬鹿ッ!エロ親父!」
「えー、純粋な好奇心なのにー」

 もちろん嘘、好奇心なんかじゃない。原始的な欲求だ。
 
 ・・・どうもさっきからヤバイんだよねぇ・・・

 鼻が良くなったせいか時任の体から石鹸の香りがにおってくる。あと俺しか知らない時任の臭いも。抱き合ったときに微かにわかるあの臭いだ。それがさっきからキツイくらいに鼻につく。もちろん臭いというのではない、むしろその逆で・・・
 時任の体臭は久保田にとっては強力なフェロモン剤と一緒なのだ。

 これじゃまるで変態さんの仲間入りだ。いくら時任とはいえ10歳に満たない子供に欲情するとは思わなかった。ちょっとショックかも・・・

 さすがにそれは思いとどまるべきだろうと理性を総動員して時任から視線を外す。すると突然部屋の呼び鈴が鳴った。

 ピンポーンッ!

 いいタイミングだ。

「ピザが来たみたいね」
「やりィッ!久保ちゃん早く出ろよ、腹減った!」
「はいはい・・・」

 時任から視線を外し財布を持って玄関に向かう。
 手にピザを持ってリビングに入ると目をキラキラさせた時任が待ち構えていた。
 
 ・・・だからそんな可愛い顔しないでよ・・・

 届いたピザをソファの前に広げると時任はまっさきに手をだした。

「いっただきまーすッ!」
「はい召し上がれ」

 小さな口を目一杯大きく開けてピザにかぶりつく姿はまるで子キツネのよう、頬をぱんぱんにさせて咀嚼してる姿はまるで子リスのよう、・・・とにかく、美味そうだ。

 食べてると人間て汗かくんだねー・・・さっきから時任の体臭が強くなった。体温も上がるので余計に匂うのだろう。犬並みの臭覚がある自分にとってはむせ返るほどに。
 振りまかれるフェロモン(←久保田限定)にだんだん理性がもたなくなってくる・・・

 時任の食べる姿を眺めるだけでピザに手をつけようとしないので、時任が不思議そうにこちらを見上げた。

 下から目線は止めようよ・・・(←ただ視線が低いだけ)
 いつもなら『可愛いなあ』で済むけど今はそれだけじゃ済みそうにないんだよね。

 そんな久保田をよそに、時任は指先についたケチャップをペロッと舐める。

 ・・・・・・(放送禁止用語の脳内妄想中)

 しかもペロッと唇まで舐めた!

 ブチッ (←理性が切れた音)

「?久保ちゃん食わないのか?」
「いや、食べるよ?(お前を)」

 反射的に答えてあっさりと良心を手放した!

 ま、仕方ないか、俺今半分ケダモノだもんね。

 開き直った久保田の辞書には『良心の呵責も』『躊躇』の言葉も無い!
 ついでにいうなら『都合のいい言い訳』度はupした!

「・・・時任、ここ、ついてる」
「あ?」

 そう言って時任のあごを持ち上げ口の端についたケチャップを舐めとる。

「久保ちゃんッ!」
「そっちのポテマヨ美味そうね、頂戴?」

 そう聞いて時任が返事をする前に口付けて、舌で口腔内を探る。

 あー・・・舌が小さい、でも、唇が柔らかい。

 存分に堪能して一旦離れた。
 時任はハァハァと呼吸が荒くなっていた。肺活量も小さくなってんだね。

「久保ちゃんッ!何すんだよッ!!」
「いや、ほら、美味しそうなもんが目の前にあるんだもん、味見したくなるっしょ」
「すんなッ馬鹿!」
「もうしちゃったし、そんで美味しいってわかったし、諦めて?」
「ちょッッマジかよッ!」
「うん、マジ、でも最後まではしないから」
「ヤメ・・・ん・・・・」

 再び口付けて文句を封じ込める。そして思う存分舌で舐め上げる。
 
 この小さい口が愛おしい。
 この柔らかい唇と、ざらつきが少ない舌、食いちぎってしまいたい・・・

 次に小さい鼻、小さい耳、細い首・・・
 どれもこれも臭いは時任だと主張しているのにみんな小さくなっている。それがで不思議と愛おしい。
 
「や・・・くぼちゃッ・・・」

 耳に舌を差し込むとビクンッと時任の体が跳ねた。
 大きい時任の弱いところだが小さい時任にも通じるようだ。体が覚えているのだろう。反射的に反応してしまうのだ。
 ビクビクと跳ねる小さな体が愛おしい・・・

 ・・・最後までしないって言ったけど・・・なんか無理っぽいね。

 正にケダモノの考えだ。
 調子にのったケダモノは次々と時任の弱いとこを責め上げていく。



 ・・・や、やべぇ・・・このままじゃヤラレル!!!

 こういうことは既に数え切れぬくらいしてきるし、嫌がる間柄では無いのだが、いかんせん、今はガタイの差が激しすぎる。180cmの長身で圧し掛かれ激しく責め立てられるのはいつもですらキツイ、なのに今のこの身体で挑まれるなんて・・・

 ・・・俺、壊されんじゃねーか?

 ありすぎそうな想像に背筋が寒くなる。途中で止めるなんて言ってるがこの手のことに関して久保田は全く信用は出来ない。
 しかも狼男になったせいで微妙にケダモノチックになっている久保田じゃ手加減なんかしそうにはない。

 壊されるだけじゃすまねーかも・・・

 命の危険さえ感じてしまう。何とかしないと・・・
 
 実力行使で排除するには体格差がありすぎる。逃げることは出来てもすぐ捕まるだろう。どうしようかと焦るが良い案は浮かばい。焦ってるうちに久保田はますます手と口を動かし時任攻略にかかっていた。

「ん・・・くぼ・・ちゃん・・・」

 抗議しようにもちゃんと声にならない、声を出させてくれない。せめて久保田の手から逃れようと身をよじる。すると・・・

 ズルッ、ゴチンッ!

 ・・・痛い・・・勢い余って上半身がソファからずり落ちて後頭部をぶつけてしまったらしい。目を開けるとベランダのカーテンが目に付いた。

「うーんいい眺め。煽ってる?」
「ッッ馬鹿!」

 両足を広げカモーンな状態で落ちているのだ。恥ずかしさに顔を赤く染め逃げ出そうと立ち上がろうとする。

「だーめ、逃さない」

 久保田は逃してたまるかと時任のパンツを掴んだ。
 ずり落ちたおかげで良い案が浮かんだのだ。これに賭けてみるしかない!そう思った時任は思い切ってパンツの紐をゆるめ久保田の手から逃れた!

 そしてベランダに向かって走り、一気にカーテンを開けた!

「時任・・・?」

 今日は満月だった。
 夜空には見事に丸い月が輝いていた。
 部屋一杯に差し込む月の光、それは久保田にも届いた。
 
 月の光を浴びた久保田はみるみる身体が小さくなりはじめ、一回り小さくなったと思ったら輪郭がぼやけ、いつのまにかそこには狼がいた。体長150cmくらいの立派な狼だった。黒い毛並みは艶やかで美しく、気品さえある。

「・・・久保ちゃん・・・だよな?」

 黒狼はコクンと頷いた。

時任は目の前で変身した久保田にしばし見惚れてしまった・・・

「・・・なるほど、こういう手があったわけね」

 人語はしゃべれるらしい、さすが狼男。
 確かに狼の姿で時任を襲うわけにはいかない。出来ないわけではないけど(←すんな!)性欲と食欲は紙一重なので、我を忘れて時任を食い殺しかねない。

 さすがにそれを試す気にはなれないよね・・・

 完璧な敗北だった。

「すげー・・・久保ちゃんカッコいい・・・!!!」

 時任は先ほど自分から逃げ出したことも忘れ、目をキラキラさせて近寄ってきた。その見事な毛並みにぺたぺたと触りキャーキャー喜んでいる。

 ・・・ま、仕方ないか、時任の笑顔には弱いんだよね。
 時任の満面の笑顔を見れたことで良しとすることにした。

「時任、俺の背に乗って月夜の散歩としゃれこまない?」

 時任の顔が嬉しそうにパッと輝いた。

「いいのかっ!」
「もちろ。、あ、ちゃんとパンツはきなね。下から丸見えだから」
「////馬鹿ッ!」

 顔を赤くさせて奥に引っ込んだ時任は昼間の格好に着替えて戻ってきた。

「んじゃ行きますか」
「おう!」

 時任を背中に乗せて久保田は窓から飛び出した



 こうして一人と一匹は屋根と屋根を飛びながら

 時には人を驚かせながら

 月の光にてらされて夜の散歩を楽しんだ・・・
 






Dオマケへ




ははははは!!!久保田にオアズケさせてやったぜ!!ザマーみやがれ!!!
(D’勝利の雄叫び)


えー実はこのシリーズの裏テーマは『久保田をお預けにしてやる』です。久保田さんに恨みはないんですが、ただとても鬱屈してた時に思いついたネタなのでつい八つ当たり気味になってしまったみたいです。(5/14の日記参照)この裏テーマは継続するつもりですのでこのシリーズの久保田さんはオアズケで終わるがデフォルトとなってます。それこそオチだったりもするので。数回に1回はさせてあげようとは思うが期待せずに待ちたまえ久保田君(偉そう)


2007.6,11

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