トラブルドロップス 一日目 - 3 - |
「久保ちゃん、もう降ろせよ」 「そう?(ホントは降ろしたくないんだけど・・・)」 抱っこ状態が恥ずかしいのか苦痛になったのか、嫌々をするので仕方なく降ろす。それでも何だか寂しいので手を繋いでみた。それは嫌じゃないのか大人しく繋いだままにしてくれた。 「・・・さっきは寝ぼけてて気づかなかったけど、まだ授業終わってねーじゃん」 「そうね」 「授業抜け出してまで何で迎えに来たんだ?」 「何となく?」 「・・・そか・・・」 何となく、というのはもちろん嘘。ヤニ臭さで頭がぐらぐらしつつ授業を聞いてたら、かすかに、呼ばれた気がしたのだ。意識を耳に集中すると本当にかすかにだが『くぼちゃん・・』と聞こえた。それだけで十分だ。授業なんか聞いてることは無い。呼ばれたから、迎えにいった、ただそれだけ。でもプライドの高い時任はうなされてる時に自分の名前を呼んだと聞いたらいい気はしないだろう。だから、内緒。 ・・・俺としてはもっと甘えて欲しいんだけどねぇ・・・ 「久保ちゃんもさ同じの舐めたら良かったのにな」 「何で」 「そしたら一緒に遊べたじゃん。公園で砂遊びとか、ジャングルジムとか、ガキくせー遊びが一緒にできんじゃん」 「そういうのやりたかったの?」 「そういう訳じゃねーけど・・・なんか俺だけ子供ってのはつまんねーじゃん」 「ふーん・・・」 自分だけ子供なのが嫌らしい。子供な時任と、ほぼ大人な俺、この位置関係が居心地悪いのか。二人の関係は変わらないんだけどね・・・ 「でもさ、子供同士じゃなく、大人と一緒の方が都合がいい場所もあるよ?」 「あ?どこだよ」 「これから行く?」 「おう」 時任は『一体どこだ?』って顔をしている。 大人と子供が一緒に行く場所の定番っていったらあそこしかないっしょ? * * * 「ここかよ」 「そ、ここ」 着いた先はいわゆる遊園地といやつだ。人間と同じ大きさのネズミがいたり、花がしゃべったりするファンタジーな空間なので、男子高校生だけでくるには若干勇気がいる場所だ。でも子供と一緒なら全然オッケーである。なんせここは子供のための国らしいから。でも来るには子供だけじゃ無理である。遠いし、さすがに危ないし、入場料も結構かかるので子供のおこづかいじゃ無理だろう。 考えてみればずいぶん敷居の高い子供の国だよね。 かくいう久保田も禁煙しなきゃならないので来るのは初めてだった。 「ここなら子供と大人が来るのが自然っしょ?」 「確かにな・・・」 「んじゃ行こうかー」 「ちょッ久保ちゃんッッ」 何故だかもじもじとしている時任の手を取って強引に中に入っていく。入り口前に券売り場があったので入場券を購入する。 「大人と子供1枚ずつ」 「ありがとございます。大人と子供、合わせまして×××××円になります」 俺が財布を取り出して支払おうとしてる間に券売り場のお姉さんが時任に気づいて話しかけてきた。 「ふふふ、弟さんですか?」 「そんなとこ、これでお願い」 「丁度お預かりします。ではこちらをどうぞ」 「どうもね」 「優しいお兄さんで良いわね、楽しんできてねv」 券売り場のお姉さんに話しかけられて時任はすごく小さい声で『・・・兄ちゃんじゃねぇ』とボソリと呟やかれた。さすがに恋人ですって言うわけにはいかないでしょ。ホモなら個人の自由ですむけど今じゃ犯罪者になっちゃうからねー 中に入るとでっかいネズミの像があった。その前で記念撮影をしている人がいる。 「時任、お前もあそこに立ちなよ」 「えッいいよ」 「いいからいいから・・・」 強引に立たせて写メを撮る。うん、可愛い。どっかでインスタントカメラ買わないとね。 「さてと・・・何乗る?」 「こっち来るの初めてだからよく知んねー」 「そうね、んじゃあれは?涼しそうでいいんでない?」 ゴンドラみたいなのに乗って水の上をするする移動する乗り物だった。 「いいぞ」 「んじゃ行こう」 幸い平日なので非常に空いていた。並ぶことなくすぐ入ることが出来た。 そして数分後・・・ 「なんなんだよコレッ!!!」 「いやー盛大に濡れたねぇ」 「俺なんか顔にモロ水が当ったぜッ久保ちゃん知ってたんかよコレッ!」 「噂には聞いてたけどここまでとはねー・・・」 一見、水の上を移動して涼しげに見える乗り物だが水鉄砲やシャワーや滝で盛大に濡れるというオマケつきだった。しかも派手に濡れるゾーンと少ししか濡れないゾーンに区切られていて先ほど時任に見せたのは濡れないゾーン、しかし実際に乗ったのは濡れるゾーンだった。 「今日はちょっと暑いから丁度いいんでない?」 「でも気持ち悪いっての!」 「んじゃあれ乗って乾かす?」 「おう!」 そして二人してジェットコースター3連続乗りをして服を乾かした。 この頃になると時任はいつもの調子を取り戻してきた。 「久保ちゃん、あれ乗りたい!」 「久保ちゃん、あのゲームしようぜッ!」 「久保ちゃん、ポップコーン食いたい」などなど・・・ やっぱ時任はこうでないとね?(笑) 因みに今は売店にてシャボン玉を物色していた。先ほど目の前で子供がやっていたのでやりたくなったらしい。子供の時任がシャボン玉をやる・・・可愛いだろうねぇ。そう思って買ってあげることにしたが別のものが目に付いた。 「ねぇ時任、これは?」 差し出したのはでっかいネズミ耳のカチューシャだ。ほんとはネコ耳が欲しいが残念ながら無かった。 「ヤダ、かっこ悪い」 「やってみなよ、可愛いから」 「久保ちゃんッ」 嫌がる時任に強引に取り付けた。 ・・・ちょっとヤバイくらい可愛い・・・ 「時任、それずっとしてないとシャボン玉買ってあげないから」 「えぇ〜!!!カッコ悪いじゃんッ!ヤダッ!」 「そんなことないよ、すっごい可愛いから。ねえ?」 「えぇすっごい可愛いですよ!」 売り場のお姉さんも力いっぱい同意してくれた。あの力みようは客商売だからというだけじゃないっぽい。この売り場はもう近寄らない方がいいかも・・・。 なんとか時任を説き伏せてネズミ耳装着を了承させた。ぶちぶち言ってる時任は腹立ち紛れに一番高いシャボン玉を欲しいとねだった。 その後もイロイロ乗り物に乗って、食べて、また乗って、遊び倒した。でも5時近くになると体力の限界か時任が疲れた様子を見せた。体が小さい分体力も少ないのだろう。まだ明るいが帰ることにした。 「疲れてるなら電車まで運ぼうか?」 「・・・いい」 そんな眠そうな顔をしても説得力がない。何を遠慮してんだか・・・ 問答無用で時任の体を抱き上げて肩に乗せた。 「久保ちゃんッ」 「耳元で大きな声ださないでくれる?頭に響くから」 むぅと言って黙り込む。さすがに疲れたのだろう、大人しく掴まることにしたらしい。 「・・・俺、初めてだ」 「何が?」 「肩車」 「ふ〜ん・・・どう?初の肩車は」 「・・・すっげーいろんなもん見えて、気分イイな!」 「そりゃ良かった」 「久保ちゃんほど背の高いやつなんてそうそういないかんな、俺がいっちゃん高い!」 「そうね」 「・・・実はさ、遊園地に来たのも初めてなんだよな」 「実は俺も」 「え!?、久保ちゃんも?」 「子供一人じゃ来れないからね。一人で来れるようになってもここ禁煙しなきゃならないっしょ。だから来たことなかったの」 「ふ〜ん・・・」 「お互い初体験ってことね」 「ヤラシー言い方すんなッ」 「えーお互いがハジメテなんて嬉しいじゃない」 「久保ちゃんッ」 「俺はね、時任といるといろいろ初めてな事が多くて楽しいよ?」 「・・・久保ちゃん・・・、その・・・サンキューな」 「どういたしまして」 久保田は時任を肩に乗せたまま歩き続けた。 時任は久保田にもたれてその視界を楽しんだ。 二人だったけど、その影はひとつで、ゆっくりと動いていった。 Cへ |
ありー?二人でネズミーランドに行く予定なんかなかったんだけどなあ・・・しかもちょっと切なめエピソードなんて皆無だったのに・・・不思議だ・・・ 荒磯の時任の過去って不明だけどなっちゃんの話のときに『ひとりぼっちのクリスマスは寂しいでしょ』『・・・そんなもんか?』っていうような遣り取りをしてますので普通じゃないんだろうなと思います。同意でも否定でもなく疑問形、これは知らないってことなのかなって思うのです。それも自分はこうしたかったって切望するよりそのまま受け入れてそう。だから親に遊園地連れて行ってもらったことないけどそれはそれでいい。でも連れて来てもらったら楽しかった。そんなふうにサラリと乗り越えてくような子じゃなかな、時任は。ある意味すごく大人です。でもんなことは全て私の勝手な妄想です。夢見がち?深読みしすぎかな?(苦笑) えー、次は私の趣味丸出しです。ちょとアレな表現がありますのでお気をつけ下さいませ。うーん・・・引かれないといいな・・・ 2007.6.11 |
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