Happy Birthday ! TWINS !! |
9月19日AM7:00 PPP、PPP、PPP・・・ オリヴァー・デイヴィス22歳は一本の電話で目覚めた。 『Happy Birthday!Noll!』 ・・・自分と同じ声で起こされるとは思わなかった。 午前7時にセットしてある携帯のアラームの代わりに着信音が鳴り、通話ボタンを押すとジーンの声が飛び出した。電話で自分の声=ジーンの声を聞くのは稀だ。ジーンは一週間前から休暇を利用してイギリスへ帰国していた。小さい頃は大西洋を挟んでもホットラインで会話出来たが今は同じ国内にいないと難しい。同じ国内にいない証拠だ。 『おはようナル!誕生日の朝の気分はどう?」 「たった今悪くなった」 『またまた〜、お兄ちゃんからの誕生日限定スペシャルサービスのモーニングコールだよ!素直に喜びなよ』 「日本でやれば褒めてやってもいいんだがな」 『それは無理!』 英国と日本では9時間の時差がある。あちらは18日の午後10時だ。万年寝坊助のジーンがナルより早く起きてモーニングコールすることなど出来る筈が無い。 『ところで麻衣はそこにいる?』 「いない」 『えー?せっかく二人きりなのに、バースデーイブの熱い夜は過ごさなかったの?』 「お前と一緒にするな。切るぞ」 『あああ待って!今ルエラとマーティンに代わるから!』 電話口でくぐもったルエラとマーティンを呼ぶ声が聞こえる。ナルは溜息をついて二人を待った。 * * * 9月19日AM7:30 「ナルおはよう!」 電話を終えてリビングに行くと麻衣が朝食の支度をしていた。自分に気づくと近寄ってきて、自分からキスをしてきた。しかも口にだ。「チュッ」と触れるような軽いモノだが麻衣にしては珍しい。少々驚いた。 「お誕生日おめでとう!」 麻衣は照れるようにはにかんだ笑みを見せた。バースデーモーニング仕様か、悪くない。こちらからもキスのお返しをする。少々濃い目になってしまい「まだ朝なのに!」と赤い顔で抗議されてしまった。 その後に用意されていた紅茶を飲むと温くなっていたが、自分のせいなので文句を言わずに飲み込んだ。 * * * 9月19日AM10:00 事務所へ行くとリンが先に来ていた。 「おはようございます」 「おはよう」 「カードとプレゼントが届いてますよ」 「・・・・・・」 所長室の応接セットの机の上には二つの山が出来ていた。右には二つの箱と四通のカードが置かれていた。左には数えたくない数のカードの山と触りたくもない箱の山が築かれていた。 「右はご両親、まどか、ヒネルズ博士、ヴィアニー氏からです。左は支援者やそれ以外の方々からですがどうしますか?」 「任せる」 「分かりました。中を確認した後に不要と思われる物は処分します。生花、食品などは谷山さんに任せますがよろしいですか?」 「ああ」 自分は全て処分しても構わないが、ごみ箱に捨てられた生花や食品を見つけた麻衣は盛大に怒り抗議してくるだろう。好きにさせた方が被害は少ない。 リンも予想通りだったのだろう、異を唱えず黙々と左の山を運んで行った。 そして所長室を出る手前で立ち止まり 「ナル、言い遅れましたが、誕生日おめでとうございます」 リンは軽く微笑んで、所長室を出て行った。 * * * 9月19日PM1:00 午後出の麻衣が出勤してきた。 リンから生花や菓子を渡されたのだろう、いつもより1オクターブ高い声が響いたのですぐ分かった。今回のプレゼントの中に麻衣の好きな何かあったらしい。「ここのクッキー好きなんだ!うわーいww」「あ!これ日本未入荷のチョコだよ!すっごーい!!」と大きな声で騒いでいる。 実は支援者の中に麻衣のことを気に入ってる者が幾人かいる。僕が好まない菓子類が贈られてくるのはそのせいだ。 古くから支援してくれている支援者から「オリヴァーへのプレゼントは小切手が一番だろうが、それじゃ味気ないから麻衣が喜ぶようなものを添えさせて貰うよ」と書かれたカードと小切手が入った封筒が菓子の箱に添えて送られてきた事がある。 機嫌のいい麻衣はすぐ適温の紅茶を持ってくるだろう。悪くない案だった。 * * * 9月19日PM2:00 事務所に複数の人間の気配がした。案の定、イレギュラーズだ。目的は分かっていたが一言言わずにはいられない。 「ここは飲食店ではないのですが?」 お決まり文句の『喫茶店』から『飲食店』に代わったのは、応接スペースの机の上いっぱいに広がった食べ物のせいだ。アフタヌーンティーのような三段重ねになったサンドイッチ・スコーン・ケーキに、ピンチョスなど一口サイズのオードブルが並べられていた。 「ナルちゃんは宴会よりアフタヌーンティーのがいいと思ってだなー」 「ええ、所長は英国人ですし、やはりお国柄に合わせた方が良いかと思いまして」 「夜は麻衣と過ごすんでしょ?お邪魔しちゃ悪いからここにしてあげたのよ」 「外に呼び出されるよりマシでございますでしょ?」 「お邪魔させてもろてます」 誰一人ここをパーティ会場にすることに遠慮する者はいない。ジョンですら皆に毒されて、当たり前のようにパウンドケーキを広げている。 昨年も、その前も、勝手にここを自分の誕生パーティ会場にされた。 3年前だけは外に呼び出されたが読書に夢中で時間を忘れてしまい、泣きそうな顔をした麻衣が迎えに来た。誕生日パーティなど自分をダシにして集まりたいだけなのだから仕事を犠牲にしてまで出席する理由はない。だが本気で嫌だった訳でもない。それくらい彼らとの付き合いは長い。だから麻衣にあんな顔をさせるつもりはなく、少々罰の悪い思いをした。あれがあったせいか、翌年から誕生日はこうして事務所で集まるようになった。 自分の事務所で勝手にされるのは腹立たしいが、何故か本気で怒れない。我ながら不思議だ。溜息をつきつつも、用意されたお誕生日席とやらに座った。 * * * 9月19日PM3:00〜6:00 今年のイレギュラーズは珍しく気が利いている。仏教系統図に、神道の文献に、エクソシズム講座の資料に、世界マジック大会の業界DVD、○大教授の最新論文、日本未発売の専門書、どれも興味のある内容だ。一時間も付き合えば十分だろう。早速所長室で読むことにした。 そんなナルをドアの隙間から眺めるイレギュラーズ。 「所長ってばウハウハですね」 「おーおー、嬉しそうに読んじゃって・・・」 「ああいうところは可愛いわよね」 「同感ですわ」 「玩具を与えられた子供のようでおますね」 「男はみんな子供ですよ」 リンがそっとドアを閉めた。 * * * 9月19日PM7:00 自宅に戻り書斎でイレギュラーズからのプレゼントを読み耽っていると 「ナルー、ご飯だよ!」 麻衣に呼ばれたので仕方なく読書を中断してリビングに向かう。本に未練はあったが区切りの良いとこまで読み終えたし、記念日に無視すると麻衣を怒らせて面倒だ。しかしキッチンテーブルには何も用意されていなかった。 「麻衣?」 「こっちでご飯食べながらマジックのDVD観ない?」 麻衣がいるのはソファの前。手招きされて見てみれば、ソファの前に置かれたローテーブルにディナーが用意されていた。軽いつまみとシャンパングラスもある。ただ食事するよりも、DVDを観ながらの方が時間を有効活用できるので自分の好みではある。だが麻衣の好みでは無い。 「テレビを付けながらの食事は嫌いじゃなかったか?」 「だってTV付けたら何も話してくんないじゃん」 麻衣がぷくりと頬を膨らませた。確かにそうだ。資料DVDなど心当たりがあるので何も言わずにおく。 「でも今日はナルの誕生日だからね〜、それにマジックは私も観て楽しいし?」 「なるほどな」 「はい、座って座って〜♪乾杯しよ?」 「昼間しただろうが」 「あれはあれ、コレはコレ、だよ」 背を押されてソファに座り、シャンパングラスを握らされる。 「Happy Birthday!Noll!」 満面の笑顔な麻衣につれられて、グラスをカチンと鳴らした。 暫く二人でDVDを鑑賞しながら互いに感想を言いあったり、麻衣がテクニックについて質問してきたりしたが、酒に弱い麻衣はすぐ酔って自分にじゃれかかってきた。 酔っ払った麻衣は普段より数倍甘たがりになる。素面の時は恥じらいながら遠慮がちに触れてくるのに、酔うと体中の力を抜いて寄りかかるように身を擦り寄せてくる。 (まるで猫だな) くったりと身を預けて甘えてくる姿は猫を思わせる。頭を撫でてやると気持ちよさそうに額を擦り付けて、「んん〜」と喉を鳴らす。まるっきり猫だ。 「ナル・・・」 「?」 「だーい好きww」 「・・・酔っ払いは寝ていろ」 「えへへへ〜」 こうなると会話はなくなり、擦り寄って体を丸めてそのまま寝てしまう。ニコニコと屈託なく笑う顔は子供のようだが、擦り寄せて来る体のサイズは子供ではない。暖かく、ひどく柔らかい。この柔らかさを堪能したい欲求が首をもたげるが、安心しきった無防備な姿を見ているとその気が失せる。どちらかと言えば自分も麻衣も穏やかな触れ合い方を好む。こうして穏やかに流れる時間を心地良いと感じる。 左手に本、右手に恋人、目の前には心尽くしの料理、穏やかに流れる時間。 何も不足は無く、満足している。悪くないBirthdaynightだ。 そう結論付け、ナルは胸に顔をうずめる恋人の茶色い髪を撫でながら頁を捲った。 ・・・ ふと目が覚めた。麻衣につられていつの間にか寝ていたらしい。 時計を見ると午後10時をさしていた。面倒だからこのまま寝てしまうか、麻衣を寝室に運ぶかと逡巡していると、テーブルの端に置かれた携帯が目に入った。 そして珍しく、本当に珍しい気まぐれを起こした。 携帯ボタンを操作し、押す。 TRRR・・・、TRRR・・・、TRRR・・・ コール音が繰りかえされる。10回鳴ると勝手に留守番電話に切り替わるので、9回まで待って出なければ切ろうと思っていた。 だが9回目にしてプツッとコール音が途切れた。 『・・・Hello』 予想通り、寝ぼけた自分の声が聞こえてきた。あちらではもう昼過ぎなのに未だ寝ていたらしい。だから皮肉たっぷりに言ってやる。 「Good morning , Happy Birthday Eugene」 電話越しに、喉がつまった音がした。 『え、え、ナル!?』 「自分と同じ声をした者が僕以外にもいるのか?」 『いない。でも僕が知るナルはバースデーモーニングコールなんかしない。君は本当にナルかい?』 「さあ?」 お互い笑いながら軽口をたたく。 『ふふふ、ナルと僕の誕生日が一緒じゃないなんて変なのって思ってたけど、こういうのも悪くないね。何か、お祝いしたって気分にもなるし、ちゃんとお祝いしてもらったって気分になる』 「時間がずれただけで同じだと思うが」 『そうだけど、そうじゃない。僕とナルは別人だけど、ラインで繋がってるから完全に別人じゃない。ナル=自分みたいな感覚がどっかにある。近くにいると、自分にお祝い言ってお祝いしてもらったような感覚が抜けないんだよ。ナルはそういうの無い?』 ジーンの言い分は少し分かるので黙って肯定する。 『こうしてホットラインが届かない場所に居ると僕達は本当は別々なんだと実感する』 「当たり前だ」 『少し寂しいけど悪くない。最愛の別人からお祝いされるのって嬉しいもんだね。ありがとう、ナル』 「・・・ナルシストめ」 『それはナルの専売特許でしょ?』 「どうだかな」 別人な気がしないと言う相手を最愛というなどと結構な自己愛精神だと思う。 『麻衣いる?』 「ああ、ちょっと待て」 話声で起きたのだろう、胸元の麻衣はぼんやりとこちらを見ていた。「ジーンだ」と言って携帯を向けると、ふにゃりと笑って話し始めた。「うん、うん」と相槌をうちながらふわふわと夢見がちに笑っている。恐らくまだ寝ぼけているのだろう。最後に「うん、いいよ、帰ったらね。約束ね」と締めくくり通話口にキスをして携帯を戻してきた。 『麻衣ってば寝ぼけてるね。可愛いww』 「もう切るぞ」 『あ、ちょっと待って!イイこと教えてあげる。酔って寝ぼけた麻衣ってばすっごい積極的なんだよ。知ってた?それじゃ良い夜を!お休み〜』 言いたいことだけ言ってプツっと切られた。ジーンの”イイこと”は碌な事がない。溜息をついて携帯を閉じた。 「どうしたの?」 キョトンとした麻衣はまだ酒が残っているのか、頬がうっすら赤い。つつ・・・と指で撫でるとくすぐったそうに首をすくめた。 「ジーンと何を約束した?」 「約束?」 「電話で言っていただろう」 「ああ、あれね。んーと、キス?」 「それだけか」 「うん。プレゼントにいっぱいキスして欲しいって言われたの。ナルもプレゼント欲しい?」 「もう貰っている」 麻衣からは少し前に眼鏡のフレームをプレゼントされた。眼鏡の予備の購入を検討している時に「私にプレゼントさせて!」と麻衣が言い出したからだ。自分好みのフレームを探してプレゼントされた。軽くて邪魔にならないのが気に入っている。 「ジーンにもプレゼント上げたもん。不公平になっちゃう」 「・・・麻衣の好きなようにすればいい」 「うん!じゃキスしてあげる♪」 麻衣はナルに乗り上げ、顔を寄せてくる・・・、が寸前で止まり離れた。 「どうした」 「んーと、キスは・・・朝したもんね。だから違う事してあげる」 ふにゃんと笑った顔はとても無邪気だった。麻衣は馬乗りになってた体をずらし、僕の腰辺りまで下がる。そして予想外な行動に出た。 「麻衣?」 チー・・・と下ろされるチャック音。 そこから出されるモノ。 それに向かって下ろされる茶色い頭と赤い舌。 予想外過ぎる行動に不覚にも動けなかった。 「ま・・・ッ」 突然訪れた強烈な快感。意識を全て持ってかれるような感覚を味わうのは二度目だ。一度目は初めて麻衣と寝た時だ。それ以来の感覚につい手に力が入ってしまう。 目の前の光景は視界の暴力だ。 粘着質の水音に否応なく煽られる。 「ふ・・・麻・衣・・」 一番敏感なところを赤い舌でくすぐられ、つい声が漏れた。麻衣が恥ずかしがって声を抑える気持ちが初めて分かった。 このまま本当にさせて良いのか? 明日の麻衣は記憶があるだろうか? ためらいも無く口に入れ、動かす様はとても初めてには見えない。 ジーンと経験してたのだろうか? それともこれが寝ぼけ効果か? ぐるぐると疑問が渦巻くが強烈すぎる快感に思考が纏まらない。 (ジーンが帰ったら問い質してやる) それを最後に理性を手放した。 オリヴァー・デイヴィス22歳、初体験の夜だった。 >>in England |
苦情は無しの方向でお願いします・・・。 2011.9.19 |
× 展示目次へ戻る × |