最後の日 -10- 
 日本語で会話している二人を、ドリー卿とまどか、リンが眺めていた。
『二人は何と言ってるのかね?』
『5回勝負でどちらがより多く勝てるか勝負しているようです』
『ははは、可愛らしい二人だね。ああしているとオリヴァーが年相応に見えるよ。・・・なんだかジーンを思い出すね』
『はい。彼女は少しジーンと似ています』
『そうか・・・。オリヴァーは良い子を見つけたね』
『はい』
 ドリー卿は若い二人をしんみりと眺めた。


 最初の勝負で入った玉は、赤の34番で二人とも勝った。

次の勝負は黒の2番、奇数に賭けてたナルが負けた。

 三番目の勝負は赤の25番、また二人とも勝てた。
 
 四番目の勝負は赤の1番、また二人とも勝てた。

(こ、このまま行けば勝てる!あのナルを負かすことが出来るかも??)
 あの俺様ナル様所長様をぎゃふんと言わせるチャンスだ。こんな日がくるとは思わなかった!
「ふふふ、ケーキバイキングは頂きだね!」
「勝負はまだついてない」
「さあどうかなッ!」
 麻衣は勝利の予感に震えながら最後の賭けに挑んだ。
 テーブルを見て赤か黒か予想する。ふっと浮かんだ色の反対を選べばいい。今度もそうするつもりだった。
(あ、あれ・・・?)
 一向に色が浮かんでこない。こんなことは初めてだった。
「どうした?賭けないのか?」
「ちょ、ちょっと待って!」
 でも何回考えても色が浮かばない。緑のテーブルのみが目にうつるのみだ。
(う~~、仕方ない!適当に賭けるか!ここで負けても悪くて引き分けだもん。いいや!)
 麻衣は思い切って黒に賭ける事にした。今までの勝負で連続して赤が出た。なら今度は黒かもしれないという予想だった。
「ナルは?」
「僕は・・・ここ」
 ナルはチップを一枚、数字のところに置いた。
「へー、一点賭けなんて、勝負に出たね。でもちょっと無謀じゃない?」
「確立が二分の一でも、三十六分の一でも、外れる時は外れる。黙って見てろ」
「はーい」
 いくらナルの勘がよくても一点賭けは無謀に見えた。そうそう当たるはずがない。
(ふふふ、勝ったね!)
 麻衣は勝利を疑わなかった。

 ルーレットが回され、ディーラーが手をかざした。
 回る円盤が赤と黒のマーブル模様を作り、白い玉がその上を踊っていく・・・。
やがて円盤の回転が落ち、赤と黒の境が大きくなっていき、完全に止まった。
そして、白い玉も踊るのを止めた。
白い玉が止まった先は・・・。

「ぜ、ゼロ・・・?」

 緑の0番だった。赤でも黒でもないグリーンゾーン。
 麻衣の黒予想は外れてしまった。
そしてナルが賭けたのは・・・
「嘘でしょ・・・」
 一枚だけ、0に置かれたチップがあった。
それがナルのチップだ。
0はそのテーブルに賭けられたチップの総取りだ。その場に賭けられたのは何十枚のチップがあった。それが全てナルの前に差し出されていく・・・。
対して麻衣のチップは8枚のみ。
もちろん、ナルの圧勝だった。

「僕の勝ちだ」

 嫌味なくらい綺麗な笑顔で勝利宣言をされた。

「あんたは悪魔か!」
「人聞きが悪い」
「だって!あんな最終勝負で0を当てるなんて人間業じゃないッ!」
「それはお前の頭が悪いだけ」
「何ぃ!」
「あそこを見てみろ」
 ナルが指差したのは電光掲示板。そこには今までルーレットの玉が落ちた番号と色が20個くらい表示されていた。
「この台は十回に一回程度の割合で0番が出ている。そろそろ出る頃だと予想できた」
本当だ・・・前は8回、その前は10回で0番が出ている・・・。
「だったら何でずっと0番に賭けなかったの?」
「手の内が読まれるのは避けたい。それに・・・」
「それに?」
「僕は0番が出るタイミングを当てることが出来た」
「えッどうやって!?」
 そんなことが分かるもんなの!?
驚く私にナルがうっそりと微笑んだ。
「麻衣、お前だ」
「へ?私??」
「お前は赤黒の二分の一の確立ならほぼパーフェクトで当てていた。だが赤黒で選べない時がある。・・・それが0だ。僕はお前を観察し、色の予想が出来ない時を待つだけで良かった」
「そんな・・・」
 自分がナルにヒントを与えていたなんて・・・。
 予想外すぎる答えに愕然とする。
 麻衣のその表情を見たナルは満足そうに鼻で笑った。

「僕に勝とうなど百年早い」

「はい・・・」

 ナルをギャフンと言わせる所か、逆に言わされてしまった麻衣だった。




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2011.10.23発行「彼と彼女の関係Ⅱ」より一部削除して掲載
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