最後の日 -07- 
 パーティ会場は大きな洋館で行われていた。
 思ったよりキンキンキラキラじゃないけれど、落ち着いた品の良いゴージャスさが漂っていた。さすがヨーロッパのお貴族さまの邸宅だ。庶民の私は気後れしてしまう。
 リンさん、まどかさんと見つけると凄く安心した。
「ドリー卿のところへご挨拶は?」
「これからだ」
「そ、頑張って♪」
会った早々、手をひらひらとさせて見送られてしまった。

 サー・ドリー。 
 SPRの重鎮でナルのお世話になってる人。
 そんな人にこれから会いに行くんだと思うと足が震えた。
「大丈夫かな…」
「何が」
「私なんかがナルの恋人で怒られないかな」
「安心しろ。僕をひっぱたける女なぞそういない」
「それ、安心材料?」
「度胸は僕の折り紙つき」
「嬉しくない…」
「覚悟を決めろ」
 ナルはある扉の前で立ち止まった。ここにドリー卿がいらっしゃるのだろう。しらず、喉がなった。
『失礼します』
 中に入ると、また品の良い豪奢な部屋に通された。
 中には車椅子に座った老紳士と、その付き添いらしき壮年の男性がいた。
 ナルは老紳士のところへ行きいくつかの挨拶をして、私を紹介してくれた。彼がドリー卿なのだろう。彼は私をみて嬉しそうに目を細めた。
『これはこれは可愛らしい。ナルも隅に置けないね』
 分かりやすいお世辞でも慣れない私は過剰に照れてしまった。お陰でしどろもどろの挨拶になってしまった。
 いくつか会話をした後に、ドリー卿は私に質問をした。
『オリヴァーのことを愛してるかね?』
 真摯な目で尋ねられた。
 これには真剣に答えなくてはならない。
 嘘は言いたくない。
『いいえ』
 ハッキリと言った私に、ドリー卿は目を見開いた。何故か隣のナルも体を硬くしたのが腕から伝わった。
 でも私は構わず続けた。
『愛という言葉は重すぎて未熟な私にはまだ頷けません。でもナルのことはとても大事に思っています』
 私の答えを聞いたドリー卿はニッコリと微笑んでくれた。
『誠実な答えをありがとう』
 …もしかして私が恋人というのは嘘だとご存知なのかもしれない。そう思わせる笑みだった。それでも敢て問う意味は何なのだろうか?
『ナルをよろしく頼むよ。そして私が死ぬ前に、人並みに彼が結婚して幸せになる姿を見せておくれ』
『け、結婚!』
 突然の言葉にボンッっと顔が赤くなるのが分かった。
『ドリー卿、彼女はまだ学生です。気が早すぎます』
『そうかね?年寄りはせっかちになっていかんな』
 ドリー卿は片眉を上げて目を細めた。
『しかし時間は有限だ。今日あるものが明日あるとは限らない。特にこんな素敵なレディは、うかうかしてると誰に盗まれてしまうか分からないよ』
『………』
『年寄りの忠告は聞くものだ』
『…肝に銘じておきましょう』
 謎の会話を最後に、会見は終了した。




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2011.10.23発行「彼と彼女の関係Ⅱ」より一部削除して掲載
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