プラット研究所 -00- 

 プラット研究所のフィールドワーク研究室。その入口には人だかりが出来ていた。

(やれやれ・・・無理もないけどな)

 フィールドワーク研究室所属のアレクセイ・アンドリュースは溜息をついた。
 なんせ新進気鋭の研究者であるオリバー・デイヴィス博士が久々に帰国しているのだ。しかも分室先での調査員&被験者を伴っていると言う。

 博士が極東の島国に渡って早4年、かの国で採れるデータは滅多にないほど極上かつ興味深いものばかりだ。あの国は心霊研究者にとっては宝の国と言っても良い。
 しかも協力者たちに真正のサイキックが多数いる。これもまた珍しい。
 ゴーストハントに協力者は欠かせない。博士のように自らがサイキックでない限りは必ず必要だ。だが真正の、しかも安定した能力者は数少ない。ジーンがいた頃には全く苦労しなかったが、その有難味は彼を失って良く分かった。それほど本当の能力者は少ない。
 それが日本にはタイプが違う能力者が4人もいる。これは心強く非常に助かる。
 研究者として最適な環境とは言い難いが、それに勝る研究材料に優秀な人員が揃っている。しかも面倒くさい上下関係も無い。博士が帰りたがらないのも納得する。

 日本から送られてくるゴーストハントの記録とレポートは、研究データとしても非常に興味深いものだが、そのドラマ性でも人気が高い。こちらでは考えられない現象が数々起き、それを解決する日本のゴーストハントは下手な映画より面白い。
 実は日本チームにはそれぞれファンがついている。
 一番人気は密教僧の滝川法師だが、日本人形のように美しい原嬢も人気だ。袴姿の綾子女史も一部のマニアに非常に熱烈な支持を得ている。残念ながら神父様はこちらでは一般的なので人気が高いとは言い難い。好感度は高いのだがファンだと言う者は少ない。同じように人気は高くないが高感度の高いのが、今回来英した谷山麻衣嬢だ。彼女は潜在的なサイキックのようで派手な活躍は無いが心温まるエピソードを残している。ジョン氏と麻衣嬢には皆が好感を持っている。
 因みに、自分は少数派のジョン神父大プッシュ派だ。彼こそ本物のエクソシストだ。いつか直にお眼にかかりたい。
 日本支部での調査員、谷山麻衣嬢が今日から研修生としてうちの研究室にやってくるらしい。ヒーロー達の一人が来ているようなものだ。皆がどんな子か見にきたくなるのはよく分かる。

『ハイ、セシル。噂のレディはもう来た?』
 人だかりの中の顔見知りに声をかけた。彼女も自分と同じく少数派の麻衣FANだ。くっきりとした美貌に波打つブルネット、大柄で見事なプロポーションを持つ彼女は、自分と正反対で小さな子が大変可愛らしく映るらしい。
『ハイ、アレク!来てるわよ。でもすぐ中に入っちゃったから話す機会はなかったわ』
『へぇ、可愛かった?』
『ええ、テープで見るより小さくて可愛いかったわ。・・・日本人て本当にミラクルね。あれで20歳なんて信じられない』
『そりゃ楽しみだ』
『あんたは良いわよね。後で紹介して頂戴』
『了解』
 気安くOKすると周りの人間が一斉にこちらを向いた。
『アレク!俺も頼む!!』
『私も!』
『俺も俺も!』
『ランチの時に連れだして頂戴!』
『紹介してくれたら奢るから!』
 口々に大声で言いだした。
『ちょっと!そんな大声出したら・・・』
 

 バンッ!

 乱暴に扉が開き、中から絶対零度の冷気とともに噂の博士が出てきた。

『ここはいつから野次馬の巣窟になりさがった』

 美しすぎる氷の微笑はこの場を極寒の地に変える。
 野次馬達は『おほほ』とか『またな』とか呟きつつ解散していった。セシルは別れ際『頼むわよ』と囁いたのでウィンクで応じておく。

『全く暇人どもめ』
『そう言うなよオリバー、無理ないだろ?』
『お前が遅いのが悪い。さっさと入れ』
『はいはい』

 オリバーの背中越しに、室内にいた谷山麻衣嬢が見えた。

 柔らかそうな栗色の髪、白い小さな顔の中の飴色の大きな目を瞬かせてこちらを見ていた。体も小さくとても細く見える。英国人の自分からしたら14か15歳にしか見えない。これで20歳なんてセシルじゃないが詐欺だと思う。
 どちらにしろ、小動物を思わせるとても可愛らしい少女だった。そして自分は小動物が大好きだった。

(暫く楽しい職場になりそうだ)

 アレクセイはにっこりと笑った。




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これから先はオリキャラが出張ります。嫌いな人はごめんねー。


20116.3
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