デイビス家 -02- 

(休んでと言われても、座りっぱなしだったから逆に体を動かしたいんだよね・・・)

 与えられた部屋で荷ほどきをして服をクローゼットに仕舞い、細々としたものを配置する。調査のお陰でこの手の作業は手慣れているので一時間もかからない。片づけを終えると途端に暇になってしまう。麻衣は夕飯のお手伝いでもしようと部屋を出て階段を下りた。

 教えてもらったキッチンに向かう途中、居間が見えた。入口から大きな暖炉が見えて、珍しくてよく見せてもらおうと中に入る。ナルはまだ自室にいるのか誰もいなかった。
 居間の広さは10~12畳程度か。レンガ作りの暖炉を中心に5~6人くらい掛けられる大きな革張りのソファが置かれていた。暖炉の反対側にはダイニングテーブルがある間へと続いている。ダイニングで食事して、この居間で寛ぐようになっているのだろう。ソファや壁にルエラお手製と思われるキルトやリーフが飾られていて暖かい雰囲気を醸し出していた。どこもかしこも別世界で、本当にどっかの映画に紛れ込んだ気分だ。
 珍しい暖炉の方へそろそろと近づくと、その上に写真立てがたくさん並んでいるのに気付いた。
 外国の人は家族写真をよく飾ると聞いていた。本当なんだなと思って見させてもらうと・・・息が止まった。

(・・・たくさんの、ジーンが、いた)

 ナルと二人で並んでいる写真、誰かとスポーツをしてて笑ってる写真、何かの卒業式の写真、家族全員揃ってる写真、数々のジーンがそこにいた。まどかさんとリンさんと写っている写真もあった。
 私が持ってる写真は二人並んで少しだけ畏まっている姿だ。
 でもこの写真のジーンは生きていた。生きて、生活してる姿が写っていた。

 ジーンは本当に生きていて、ここで暮らしてたんだ・・・。
 言葉にならなくて、涙が出そうになった。

『麻衣?』

 出そうだった私の涙を引っ込めてくれたのはルエラだった。

『もう片づけ終わったの?』
『はい。なので夕ご飯のお手伝いをしようと思ったんですが、この写真に見とれてしまいました』
『ふふ、よく撮れてるでしょう?マーティンの趣味なのよ』
『そうなんですか。どれも素敵ですね。この写真とかすごくいい顔』
 麻衣はジーンが何かのスポーツで点をとったのだろう。仲間と一緒にガッツポーズをしている写真を指差した。
『これは校内対抗ポロチームで優勝したときのなの。懐かしいわ・・・』
『・・・・・・・・・』
 ルエラは写真を手にとって、ため息をついた。そのため息には様々なものが詰っているのだろう。かけられる言葉は何もなかった。
『麻衣はジーンのことを知っているのよね?ナルからジーンが麻衣の指導霊のようなことをしていたと聞いたわ』
 ナルがジーンと私の事を話していたらしい。少し意外に思いつつも、黙って頷いた。過去形ということは今も会っているとは話してないのかもしれない。
『お墓参りに一緒に行ってくれるのよね?』
『はい、ぜひご一緒させて下さい』
 ルエラは淡く微笑んで『嬉しいわ』と言ってくれた。

 明々後日はジーンが発見された日だ。
 ジーンが亡くなった日はわからない。発見された日を命日として埋葬されたと聞いている。
 普通、イギリスでは日本のような法事の習慣はないらしい。
 でもジーンのように若くして外国で客死した場合にはその限りではないらしい。マーティンとルエラは年に一回、懇意にしている牧師様にお願いして命日に墓前でお祈りを捧げてもらうそうだ。ナルがクリスマスではなくてこの時期に帰省するのはそのせいもあるのだと思う。素直じゃないナルは絶対認めないだろうけどね。
 明々後日、私は念願だったジーンのお墓参りに行く。
 私はジーンに会えるのだろうか・・・?
 

03へ


プロテスタントなら埋葬してから5年くらい祈りを捧げることもあると聞いたんですが、イギリスの国教会はよくわかりません・・・。違ってたらすいません。何事も例外はあるって感じでご容赦下さいませ。

2011.4.24
× 展示目次へ戻る ×