デイビス家 -00- 

「うぅぅぅ、お尻が痛い・・・」

 隣のナルが呆れたような溜息をついた。
 仮にも20歳になったばかりの若い女性が言うことではないと自分でも思うけど、痛いものは痛いのだから仕方ない。
 飛行機に乗ってしばらくは窓から見える景色に感動し、座席のTVで遊んだ。お酒を飲んだせいで眠くなるのも助けて、6時間以上しっかり眠ることも出来た。
 海外旅行は初めてで、どれも珍しく退屈しなかった。
 でも乗ってから10時間過ぎた頃には、やることも尽きてくる。持ち込んだ本は読み終わってしまったし、ゲームも飽きた。元々じっとしているのが苦痛なタイプだ。座りっぱなしのお尻が痛いし、腰もだるい。
「あとどんくらい?」
「一時間ほどだ。我慢しろ」
「うん・・・」
 でも飛行機から降りても、ナルの家があるケンブリッジに行くためには更に電車に乗って移動しなくてはならない。
「二人とも毎回大変だったんだね・・・」
 二人とも年に一回くらいしか里帰りしない。もう随分大人なリンさんはともかく、ナルはご両親のためにもう少し多く里帰りしたほうがいいのではと思っていた。でもこれだけ遠いなら一年に一回でも仕方ないかもしれない。イギリスが遠いとは知っていたけれど、実際に移動してみてその遠さを体感した。

「わかったなら帰国直後に仕事させるな」
「うん・・・って何年前のこと持ち出すのよ!あん時のことまだ根に持ってるの?悪かったって謝ったじゃん」
「たかが2年前のことくらい、忘れたくても忘れられませんので」
「忘れたふりしないでわざわざ言うところに人間性が現れてるよね」
「ほう?」
「何さ」
 睨みあい、舌戦開始か!・・・と思いきや
「二人とも、そこまでにして下さい」
「はーい」
「・・・・・・・・・」
 ひっそりと、ナルの通路を挟んで隣に座るリンさんに止められた。引率の先生のような注意に、近くにいたスチュワーデスさんにもクスクスと笑われてしまった。今はナルとリンさんと私の三人でイギリス向かっているけれど、リンさんは家族に会うため今日はロンドンに泊るので別行動になるそうだ。
 日本から離れて約11時間。あと少しで下降体制に入るとアナウンスが入り、シートベルトを締め直す。手持ち無沙汰で窓を見ると、海とイギリスの大地が見えた。

「こんな遠くから来てたんだね・・・」

 ナルもリンさんも、そして・・・ジーンも。

 一度は訪れてみたいと思っていたイギリス。
 こんなに早く叶うとは思わなかった。
 
 飛行機が下降しはじめて大地が少しずつ近づいてくる。

『ジーン、会いにきたよ』

 心の中でそっと呟いた。



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イギリスへ向けて出発しました。
席順は、窓際:麻衣・ナル・通路・りんさん。麻衣は窓際希望、ナルは煩いから麻衣の隣を拒否、けど一人じゃ可哀想ですとりんさんに拒否された。知らない人の隣より麻衣の隣のがいいと思って我慢。こいつらビジネスだよ、生意気な。

2011.4.21
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