神々のおわす島にて
 … Bulan madu ke Bali …

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■ バリ島二日 ■
「時任兄ちゃん?旅行楽しんでいる?」

 時任兄ちゃん達が旅立って3日目、どんな調子かなと思って電話してみた。帰ってからゆっくり聞くのもいいけどリアルにバリ島の雰囲気を味わうのも良いと思ったし、時任兄ちゃんはあの手なので無事入国出来たか、また何かトラブルに巻き込まれてないかちょっと心配だったのだ。
 ・・・決して明日がプロットの締め切りでネタ探しのためだけじゃぁない。
 案の定、時任兄ちゃんは初日に空港でカバンおじさんにつかまったとかイロイロあったらしい。期待を裏切らないとこは流石だよ。そこが心配でもあるんだけど・・・。

「で、今日は何してたの?」
「今日は観光がメインだな」

 時任兄ちゃんは旅行疲れなんて全くなさそうに元気にバリ島での出来事を話してくれた。




 観光で寺に入る前にサルーンを巻くよう言われたとか・・・

「へー、寺に入るのにこんなん巻くんだ」
「こちらでの正装ね」
「久保ちゃん似合わねーのな、案山子に布巻いたみてー」
「…案山子見たことあるの?」
「ない」
「やっぱね」

 寺に入ってこんな会話したとか・・・

「こっちの門て面白いのな。上が無くて柱?みてーなのしかないの」
「あれは割れ門って言うの。悪いモノが来たら間に挟んで中に入れないようにするらしいよ」
「ふーん、じゃぁ久保ちゃんは通れないんじゃん?」
「(言うと思った)何で?」
「エロ魔神だから」
「ソレ言うならお前もね」
「何でだよ」
「誘惑魔神だから」
「んなんしてねーよ!」
「無自覚なとこが危ないんだよねぇ…」

「寺っていっても大仏とかはねーのな」
「日本のご本尊とかは無いみたい。お寺は神様がいる場所じゃなくて呼び出す場所なんだって。何かお願いする時やお祭りの時に祈祷して呼び出すらしいよ」
「へぇ〜、フットワークの軽い神様なんだな」
「…そうとも言うね」

「賽銭箱とかねーのな」
「あそこにあるよ、喜捨箱」
「あ、ホントだ」
「日本と違うのは喜捨して名前書くことだね」
「やってみっか」
それぞれ入れてノートに名前を書いた。
「…みんな1万とか10万とかすごい金額入れてるのな。俺1000入れたけど少なすぎか?」
「喜捨は気持ちだから幾らでもいいんだけど1ルピアは0.01円だから10円か。日本の賽銭で10円は普通だけど記帳する喜捨にしちゃ少ないかもね」
「0の数が多すぎんだよなー」
「そうね、暫くは戸惑いそう。チップは1万ルピ以上が基本だと憶えた方がいいよ。1000とか5000ルピの端数だと嫌がられるから」
「わぁーった」


遺跡見に行ったとか・・・

「時任が見たいっていってた遺跡はここから階段を400段も降りなきゃいけないんだど…ホントに行く?」
「たかが400段じゃんか、行こうぜ!」
「はいはい・・・」
・・・5分後
「あれ?ここ遺跡の中だろ?なのに畑があるんじゃん」
「普通に住民がいるみたいね」
「段々畑ってやつか?キレイだな」
「そうね」

・・・10分後

「結構遠いのな」
「ヤメル?」
「まさか!」
「だよね」

・・・15分後到着

「ふ〜ん、コレかぁ。写真で見るよりか小さく感じるな」
「だぁね(疲れてもうどうでもいい)」
「こんな下のほうによく作ったな」
「だぁね」
「だぁね、ばっかじゃん!」
「・・・俺に感動とかそういうの求める方が無理じゃない?」
「・・・そうだったな。じゃ、戻るか!」
「もう?」
「見たら満足した」
「そう(もう少し休みたいんだけど…)」
「こういうのはダラダラ行くと疲れっからサクサク行くぞ!」
「ほどほどにね」
猛烈に上りはじめる時任とそれを追いかける久保田。

・・・10分後

「あーやっぱ上がりはキッツイのな。なぁ久保ちゃん?」
 そう話しかけて後ろを見ると誰もいない。
「え?久保ちゃ・・・」
 キョロキョロとあたりを見回すと・・・階段の遥か下に黒い人影が!いつの間にか時任は久保田を大きく引き離していたのだ!
「・・・仕方ねぇ待っててやっか」
 階段のふちに腰掛けて待つことにした。

 ・・・5分後。ようやく久保田が時任に追いついた。

「・・・お待たせ(ゼイゼイ)」
「おう、待たされたぞ」
「・・・お前早過ぎ・・・(まだゼイゼイ)」
「そかー?コレくらいの階段でゼーゼー言うなんて久保ちゃんがナマッてんだよ」
「俺もう20代後半よ、無理言わないで」
「ふん、タバコ吸ってるからだ」
「お前が元気過ぎんの」
まだ息が整わない久保田を見かねた時任は
「仕方ねぇ、ホラ手かせ。引っ張ってってやる」
 時任は久保田へ手を差し出した。
 久保田は『もちょっと休みたいんだけどなー』と怠け心を抱きつつも、『時任から手を握ってもらえるなんて珍しいし嬉しいかも・・・』との男心が買った。差し出された時任の手を握り立ち上がる。
「んじゃよろしくお願いしマス」
「へーへー」
 二人でゆっくりと階段を上がって行った。





「なーんてことがあったんだぜ。しかも階段上がったとこで『ひと休み〜』なんて言って紅茶飲みながら『生き返る』なんて呟いてんの!あいつちょっと親父が入ってきたよな」
「ははははは、ちょっと親父くさいかも」
 内心はこのバカップルめ!と思いつつも和やかに相槌をうちながらしこしこメモを取る。なかなか可愛いネタは揃ったがもう少し変なネタも欲しいとこだ。
「他にはなんか困ったこととかあった?」
「んー・・・、そういや久保ちゃんのカードが壊れた」
「カードって…銀行の?」
「おう、買い物してカードを使おうとしたら決済機にカードが反応しねーの。磁気かなんかが壊れたらしいってよ」
「ちょ…それ大変じゃない?」
「多めに現金持ってたから平気。俺のカードもあるし」
「そう・・・(時任兄ちゃんがカードってちょっと似合わない)」
「やっぱ現金が一番だな」
「うーん…なのかな」
「お、久保ちゃんが風呂から上がってきた。俺も入るから、またな!」
「うん、またね」

ピッ!

 予想外なアクシデントもあったが元気そうで安心した。現金が足らない時の保険としてカード持って行くのにそれが壊れるなんて普通はない。カードの磁気なんてそうそう壊れないもん。

「・・・久保田さんて手から電波でも出してるのか?」

 電波眼鏡…、どっかのマジシャンと被るけど悪くないかも。こういうキャラ使ってプロットおこしてみるか・・・。

 想定外のネタにぶつぶつ言いながら凄いスピードでノートに描きこんでいく。なんとか編集さんとの打ち合わせには間に合いそうですね(笑)。
 
 日本は相変わらずのご様子です。

 一方バカンス中のバリでは・・・


 ピッ!

 
 風呂に入るべく携帯を閉じた。

「翔太?」

 風呂から出てきた久保ちゃんが頭をふきふき聞いてきた。

「そ!あいつも来れれば良かったのになぁ」
「あ、そういうこと言う?せっかくの二人きりのバカンスに」
「だってよ、皆で旅行とかしたことねーじゃん」
「・・・したいの?(特にしたいとも思わないが)」
「んー、ちっとだけな」
「ふ〜・・・ん、じゃあ(面倒だけど)今度みんなで温泉でも行く?」
「おっいいな!俺一度温泉卓球ってやってみたかったんだよな!」
「何で卓球・・・」
「久保ちゃん絶対だかんな!」
「はいはい」

 子供のように目をキラキラさせておねだりする時任。
 とても無邪気な顔だが、凄惨な過去を持つお前。
 普通なら当たり前にやってることを自分以上にやっていないのだろう。

 自分がやりたいとも思わないのでほとんど思いつかないし
 あんまり口にださないけど
 そういう普通と言われることをイロイロやってみたいのだろう。
 
 俺の願望としては閉じ込めて、外に出したくないくらいだけど
 それ以上にお前の笑顔には弱いから
 ぐっと我慢して
 出来るだけ叶えてあげる。

 それくらい余裕のある大人にはなったんだぁね(笑)。

「じゃ明日もあるしもう寝ようか」
「そういや明日は久保ちゃんが行きたいとこ行くんだよな?何処行くんだ?」
「まだ内緒」
「なんだよ、言えよ」
「まぁまぁ、行ってからのお楽しみね」
「ふ〜ん?、まぁいっか、お休み〜」
「おやすみ」

 歩き回って疲れた時任はさっさと眠りについた。

 明日行くとこのヒント『今晩は一緒に寝るだけ
 何故なら痕やらなんやら残すと困るから。
 でもこれ言ったら警戒して明日行ってくれなさそうだから言わなかったけど。
 こういう方面で落ち着くほど大人になったわけじゃないからね。

 あー、明日が楽しみ。




 こうして二日目の夜は平和に眠りについたようです…。




三日目に続く・・・



上のエピソードはほぼ実話です。遺跡を見に行くときに友人は「私パスする〜」と言ったので、彼女の現地友と二人で行きました。下りの途中で坂が急なとこがあり「濡れてて危ないから」と言って手をつないだりと紳士っぷりを発揮してくれたけど、帰りの昇り階段のとこでふと気付くと後ろにいない、私の遥か後方に彼はぜーぜー言いながら歩いていました。昇り切ってもぜーぜー言って紅茶飲んでんの。最近の男は軟弱でいかんな!
カードが壊れたのは友人です。しかも彼女は私より先にバリ島へ行ってたので「犬´〜来るとき現金多めに持ってきて私に貸して〜」とHELPメールが届きました。
他にもいろいろあったなー、良い思い出です。
2008.6.2




















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