神々のおわす島にて
 … Bulan madu ke Bali …

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■ バリ島一日目 そのA ■



 ホテルに着いたらチェックインを済ませ、部屋へ案内してもらった。

「うわ・・・すっげ広いじゃん!」

 予約した部屋はスウィートヴィラタイプで一戸建ての独立した建物だった。上下二階それぞれバス付の寝室がある。本来なら二人でとる必要も無い大きさだが急だったのでここ以外空きがなかったのだ。といっても一人一万くらいなのだから正月のこの時期なら十分安いといえた。
 部屋の探検に余念が無い時任の代わりにホテルマンから大体の説明を受けといた。

「久保ちゃん風呂も見てみろよ!花びらが浮いてっぞ!」
「へぇ〜・・・なんか新婚さんいらっしゃいって感じ」
「馬鹿、んなわけあるか」

 すげなく言い捨てられた。『///何いってんだよ』みたいに照れてくれた昔がちょっと懐かしい・・・。
 因みにこの花びら風呂は通常のウェルカムサービスらしい。あと果物とペットボトルの水が備え付けられていた。これは毎日新たに届けてくれるらしい。

「二階も行こうぜ!」
「んー」

 二階の部屋に行く。

「これが天蓋付のベッドか!」
「そうね」
「俺ここで寝る!王様みてーじゃん!」

 王様と言うより王子様っぽいけどね。

「景色も良さそうじゃん!」
「あー田んぼが見えるね」

 二階のテラスから一面の田んぼが見渡せた。一階に比べたら狭いけど、煙草も吸いやすいしこっちの部屋のがいいかもね。

「んじゃこっち使う?」
「おう、俺様こっち使うから久保ちゃん下な」
「・・・部屋別々にするの?」
「せっかく二部屋あんだからどっちも使わないともったいねーじゃんか」
「まあね、寝るときだけこっち来ればいいか」
「ヤダ、俺様このベッドで一人で広々寝てみてー」
「・・・ここまで来てそれはないんじゃない?」
「二人で寝たら狭めーじゃんか。それに久保ちゃんここで寝たら絶対足はみ出るぞ」

 確かに、女の子と二人で寝たら丁度いいかもしれないが男二人で寝るには狭いかもしれない。でもシングルのパイプベッドで寝てたこともあるんだから何てことはないはずなんですけど。
 不満そうな顔をしたんだろう、こちらを見た時任が頑迷に言い放った。

「とにかくここは俺様のもん!久保ちゃん下な!」
「はいはい・・・」

 とても納得はできないがとりあえず頷いといた。
 忍びこむなり、下に連れ込むなり方法はいくらでもあるからね。

「じゃ適当に荷物ほどいたら食事に行こう。終わったら下に来て」
「おう」


 ほどなくして二人でホテル内のレストランに行った。





 田んぼに面したオープンな感じのレストランだった。
 ここは元々はレストランだったのでなかなか美味しいらしい。

「うー、英語でわかんね。久保ちゃん適当に頼んで」
「了解、飲み物はビールでいい?」
「ん」

 時任が好きそうなのをいくつか適当に頼んだ。名物らしいアヒルを丸ごと揚げたアヒルクリスピーとトマトスープとチップス。それとビール。
 ビールとつまみがすぐ運ばれてきた。

「乾杯しようぜ」
「何に?」
「バリ島に!」
「バリ島に(無事に入国できたことに・苦笑)」

 カチン

 グラスを鳴らして一気にあおる。こちらの国産ビール『ビンタンビール』は日本より色が薄くて味も薄めだ。

「こっちのビールってやけに軽くね?」
「うん、なんか水みたいね。値段も水みたいだし」
「水みたいに安いのか?」
「一本30円くらい」
「ゲッやっす!ホントに水みてー」
「生水より安全だけどね(笑)」

 バリ島の生水は飲めない。歯磨きだってペットボトルの水を使えと言われてるくらいだ。だからペットボトルが毎日無料で届けられるのも当然かもしれない。

「俺ここ気に入った」
「うん、いーとこだね」
「なんかさ、ここの空気ってすっげ眠くなるってーかまったりするってーか・・・落ち着く」
「言えてる。ほどほどの湿気があって過ごしやすいね。このままゴロゴロして過ごすのもいーかも」
「ダメだ!明日はいろいろ回るかんな!」
「はいはい、でも明後日はのんびりしようね」
「なんかオススメあんだって?」
「うん、いいとこ見つけたから二人で行こ?」
「ん」

 このウブドはバリ島の山側にあたるので暑くもなく、寒くもなく、過ごしやすい。しかし湿気は多く非常に密度の濃い空気がただよっていた。この濃密な空気がだめだという人もいるが俺達二人には心地よく感じられた。時任じゃないけど非常にまったりする。
 最初バリ島と聞いて『飛行機の中禁煙だし遠くて面倒』と思っていたが来てみると案外いいかも。日本やアメリカとかと違ってどこでも煙草吸い放題だし、気候はいいし、それなりに食事も美味い。辛いもの多いしね。何より時任の機嫌が良くてニコニコしてて可愛い。ちょっと新鮮な感じだ。たまには二人で遠くへ出かけるのもいいかもね。

 二人で明日の予定を話しながら運ばれてきた夕食を食べた。頼んだアヒルクリスピーが案外あっさりしていてとても食べやすい。ビールがついすすむ。

「ビールお代わり!」
「・・・いくら軽いからって飲みすぎじゃない?」
「平気平気!」

 時任は酒が弱い。ビールちょこっと飲んだだけでも赤くなる。
 でもバカンスだからいっか、ちょっと酔っぱらうと可愛いしねー。
 バカンスの開放感(+若干の下心)にまかせ時任と自分の分もお代わりを注文した。





「ほら、階段あるから気をつけな」
「わーってるって!だーいじょーぶ!!」

 酔っ払った時任にガッハッハと笑いながらバンバンと背中を叩かれた。

 ・・・失敗した。完全に親父と化してる。ほろ酔いだと可愛く色っぽくなるけど、酔っ払うと一気に親父と化すんだよね。これじゃ今夜は無理だね。せっかくのバカンスだっていうのに・・・。

「くぼちゃんおやすみ〜」
「うん、おやすみ」

 バタンッ

 時任は軽い足どりで階段を上がり、無情にも俺の前で扉を閉めた。無理やり入ってことに及んでもいいけど酔っぱらって親父化した時任は危ない。力の加減を失敗して握りつぶされかねない。

 仕方ない、今日はさっさと寝て明日の朝にでも強襲するか(ヲイ)

 と思ったところ・・・

「んぎゃーーーッッ!!!」

 いささか色気に欠ける時任の悲鳴が響いてきた。『こんなとこで痴漢?まさかね』と思いつつも急行する。

 バタンッ!

「どした?」

 部屋に入ると天蓋付きのベッドの上でちょっと青ざめた顔の時任がいた。何かから避難して威嚇してるみたい。まるで毛を逆立てた猫だ。うーん、しっぽがあったらさぞかし膨らんでいることだろう。

「そこにでっけーゴキブリがいんだよッ」

 時任が指さす方を見てみる。

 どれどれ・・・

 あーいたいた。日本では滅多に見られないようなでっかいゴキブリが椅子の下に隠れていた。

「ベランダの窓開けたら飛んできやがったんだよッ」
「・・・そりゃ災難だったね」

 もともと時任はゴキブリが苦手(見ると鳥肌が立つらしい)だが悲鳴をあげるほどではない。けどこんな大きいのが自分めがけて飛んでくるなんて・・・そりゃ悲鳴をあげるよね。
 いつもの武器(ゴキブリ退治スプレー)もないのでベッドに避難したらしい。

「ふ〜ん、南の島だとこんなのまで大きくなるんだ」
「感心してないでどっかやれよッ」

 はいはい、お姫様(?)を塔から降ろしてあげなきゃね。
 早速そこにあったスリッパで速やかに悪者(?)を退治した。

「ごみ箱なんかに捨てるなよッ!トイレに流せッ!!」

 ・・・同じ部屋にあるのすら嫌なのね。

 仰せのとおりにトイレに捨てて

「ごめーんね?」

 ジャーゴボゴボゴボ・・・

 水を流した。これで悪役は跡形もなくいなくなった。手を洗うのも忘れない。

「もう大丈夫だよ」

 ベッドの上の時任に声をかけた。

「うーびびった!なんだよあのおっきいのは!!!」
「ここは田んぼに面してるし、シャワー室は天井がなくてオープンだからイロイロ入りやすくなってるみたい。ほら、上見てごらん」
「あ?・・・んげッ!!!」

 天井にはヤモリが這っていた。

「さすが南国だねぇ」
「・・・・・マジかよ・・・」
「どう?これでも一人で寝る?」
「う・・・」
「またゴキブリがでて叫んでも、俺が下にいちゃ助けられないかもよ?」
「久保ちゃんずりぃぞ・・・」
「どうする?」

 時任は悔しそうに下唇を噛んで俺を睨んだ。
 驚いたせいで酔いが冷めたようだけど、まだ眼元に名残がある。うっすら赤い。うん可愛い。

「・・・明日ここのプールに行きてーんだけど」
「うん」
「いろいろ見て回りてーし」
「うん」
「だから、その・・・」
「うん、ほどほどに、っていうことでしょ?」
「・・・ん」

 ベッドの上に乗り上げて、不承不承といった顔で頷いた時任に軽くキスをする。そして天蓋付きのベッドについてるベールを降ろして邪魔モノが入らないようにした。
 このベールの一番の目的は虫除けだけど、なかなかムードがあっていいかも。時任も気に入ったらしいから買って帰ろうか。

「ん」

 押し倒して深くキスをするとすぐ時任もすぐ答えてくれた。こういうことは嫌ではない(むしろ好き)、けど照れくさいし、いいようにリードされるのはちょっと悔しいという時任のスタンスはいつまでたっても変わらない。そこが可愛いくもあるんだけど今日はいつもより抵抗が少ない。やっぱバカンス効果ってやつ?時にはこういうのもいいかもね。

「何だよ・・・」

 にやついてるのがバレタらしい。睨まてしまった。

「たまには海外旅行もいいなーって思って。時任、連れてきてくれてありがとね?」
「へへ・・・感謝しろよ!」
「はい、たっぷりと」

 照れくさげに、でも嬉しそうに笑った時任はとても可愛くて・・・

 ヤバ、ほどほどって難しいかも・・・

 久保田は感謝の気持ちをたっぷりとあらわしたそうな。







 こうして二人はバカンス一日目の夜を堪能した。

 翌朝、仲良く花びら風呂を使ったのは言うまでもない。








二日目に続く・・・



部屋に入ってその広さと素敵さに感動しました。友達と交互に部屋を使用しました。
ちなみにゴキブリに驚いたのは友人です。私にはそんなカワイー神経はありません。この友人はバリ島へは何回も来てるので殺虫剤持参でした。でもあっちのゴキブリは強くてすぐ退治できなくて結局私がスリッパで退治しました。あはは。
アヒルクリスピーはオススメですよー。

2008.2.5




















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