7年後 似たもの親子

 とある日曜日の7時ごろ、時任兄ちゃんちの前でばったり葛西さんと新木さんに会った。

「よ!小姑も来たか」
「こんばんはー(小姑は止めて欲しいんだけど・・・)」
「翔太くんも鍋に呼ばれたの?」
「そう、新木さんたちも?」
「うん」
「時坊がちゃんこ食いたいっつーからな。あれは大人数分作らないとうまくねーからな」
「だから皆呼ばれたんだ」
「僕はオマケだけどね、葛西さんに誘われたんだ」
「へぇ」

 ガチャリ

「よっ、皆来たな」

 時任兄ちゃんが出迎えてくれた。

「邪魔するぞー」
「「お邪魔します」」

 それぞれ入って中に進むとコタツと鍋が見えた。うーん、いい匂いだ。

「いらっしゃい」

 久保田さんはまだキッチンにいた。何か用意してるようだ。

「おう、邪魔してるぜ」
「何か手伝おうか?」
「大丈夫、もう終るから座ってて」

 既に葛西さんはコタツの中にもぐりこんでた。お言葉に甘えて俺もコタツにもぐりこむことにした。このコタツは背の高い久保田さんでも大丈夫なように選んだらしく大きめサイズだった。細い時任兄ちゃんなら二人くらい入りそうだ。

「おーい、誠人、あれどこだ?」
「何?」
「あれだあれ」
「ああ、新木さん、これ渡したげて」
「あ、ああ、灰皿ね」

 久保田さんはキッチンに洗っておいたあったらしい灰皿を取ってカウンター越しに新木さんに渡した。
 よく”あれ”で通じたなぁ。まあ落ち着いたら一服やりたいもんね。

「久保ちゃんまだか?」
「もう終った。始められるよ」

 久保田さんが小振りなボールを持ってキッチンから出てきた。コタツの上に置かれたそれにはネギが入ってたのでネギを刻んでたらようだ。

「んじゃ食べようか」
「待ってました!」
「おお」
「頂きます」
「いただきまーす」

 鶏肉やつみれやいろんな野菜が入った鍋だった。そっぷ鍋とかいうらしい。うーん旨い。久保田さんて料理うまいよねー。昔はカレーばっかだったのにさ。

「そういや誠人、おめぇあそこ行ったか?」
「昨日行ったけど、やっぱ自動だった」
「あーやっぱな。ちっ、どこもかしこも自動にしやがって、手で積むのがいいのによ」
「そうなんだよね」
「・・・久保ちゃんあそこってどこだ?」
「ん?駅前に新しく出来た雀荘」
「ふーん・・・」

 また”あれ”だ。ホントよく通じるよね。血は争えないなぁ・・・それとも付き合いの長さかな?

「お、8時になったな。おい誠人」
「いいけど、15分からだからまだだよ」
「あーそうだった。けどよく分ったな」
「・・・自分でもちょっとびっくり」

 今度はまったく話が見えないんですけど・・・
 まだ何も言ってないじゃないか。

「ねぇ何のこと?」
「あぁ、葛西さん大河ドラマ好きだから『テレビのチャンネルを1chにかえてくれ』ってことかなと推測したら見事ビンゴだったわけ」
「へぇそれで通じるなんてホントの親子みたい」
「ケッ、こんな可愛くねぇガキなんざ持った覚えはねー」
「またまたー、良く似てるよ二人とも。あれそれで通じるんだからすごいよ」

 本当の親子でもこうはいかないよなーなんて思ったのに

「葛西さん!あれとかそれとかばっか使うのって老化が進むんですよ!」
「人をジジイ扱いすんじゃねぇ」
「いいから、あれそれ言うのは止めて下さい!」
「へーへー」

 ううん、思い出せないというより言うのが面倒なだけだったと思うけど・・・

「そうだぞ!久保ちゃんもあれそれで返事すんなよッ」
「通じちゃうんだから仕方ないっしょ?」
「おっちゃんがちゃんと言葉を言うまで待てよ!」
「ほーい」

 こっちも、言葉がでるまで待つのが面倒なだけだと思うけど・・・

「まぁまぁ、食えや」
「食べますけどね」
「ほら時任の好きなつみれ、入れる?」
「・・・入れる」

 何やら機嫌の悪い二人を葛西さんと久保田さんが宥めるように世話を焼いている。二人はそれであっさり気分をなおした感じだ。もう普通に話してる。

 突然二人が怒り出したので何なんだと思ったけど、どっちも怒るというより拗ねただけっぽい。久保田さんと葛西さんがあれそれで会話してたのが時任兄ちゃんと新木さんは面白くなかったってことかな?本当の親子でも出来そうにないあ・うんの呼吸だったもんね。やっぱ血のつながりって入りこめないものがあるから疎外感を感じのかな。

 んーでも疎外感というより

 義理の父や実の息子に嫉妬する奥さんって感じ?

 そっちのがぴったりだよね(笑)


『夫婦でも、勝ち目の無い、あれとそれ』



 鍋の湯気の向こうでこっそり小姑は心のネタ帳に書き留めた。




(終)
 
葛西さんと久保田って『あ・うん』で通じそう。久保田は勘いいしやっぱ似てるしね。でもそんなシーンを間近にみたら時任は拗ねそうだなーと思ったのが元ネタです。
 因みに大河ドラマのあれそれはうちであったことです。私と父は非常によく似てるのでこういうのがよくあります。母より通じるので血のつながりって怖いなと思う。しかしそれも過ぎると脳の退化に繋がると考え最近はわざと単語を言わせるようにしてます。脳も使ってやんないとね!

2007.11.24
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