7年後 二人のカウントダウン | ||
ピンポーン♪ 「ときとー、俺ー」 ガチャッ 「お帰り!久保ちゃん!」 「ただいま〜」 時任は嬉々として俺を出迎えて荷物を受け取る。 待っていたのは荷物と俺とどっち?なんて思っちゃうほどのはしゃぎようだ。 ま、いーけどね。 「おっしゃー!ウマそう!頼んでよかったな、久保ちゃん!」 「うん、美味しそうね(お前の顔が・笑)」 今まではコンビニでお節セットを買うぐらいで適当に済ましてたんだけど今年は中華街をふらふらしていたら『お節承ります』の文字が目に入ったので頼むことにした。 なぜなら今年の時任は”ちゃんとしたお正月”というのにこだわっていたからだ。 きちんとしたお節を注文したり、29日から大掃除をはじめたり、門松や鏡餅を買ってきたりと忙しく立ち働いていた。 「これで完璧だな!見事な年越し&正月の準備だぜ!」 「時任頑張ってたからねー」 「おうよ、気合入れたかんな! んじゃ後は紅白でも見てのんびりすっか」 「賛成ー」 時任はいそいそとこたつに入ってチャンネルを紅白に合わせた。俺もこたつに入って近代麻雀を読み始める。時任は紅白を流し見しながらごそごそゲームをしたりお菓子を食べたりしている。 一見いつもと変わらない風景だけど、部屋はすみずみまで綺麗になってるし、玄関の表扉にには松飾を飾り、内玄関には鏡餅が飾られていて少しばかり厳かな正月ムードが漂っている。 なんとなく気分が良い。 準備は面倒だったけどやった甲斐はあったかもね。 * * 12月31日 午後8時 紅白に突っ込みをいれてみたりする 「久保ちゃん、こんなアイドルいたっけ?」 「いたんじゃない?」 「なーんか皆おんなじように見えるんだよなー」 「同感」 * * 12月31日 午後9時 空腹を訴える 「腹減った、そろそろ年越しそば作っか」 「そーねーどっちが作る?」 「んじゃ勝負!」 「はいはい」 * * 12月31日 午後10時 年越し蕎麦、ならぬ年越しラーメンの完成 「ねぇ時任、年越しそばって言ったら日本蕎麦じゃない?」 「いーんだよっ、寿命が延びますようにって願うんだから長い麺ならいーのっ」 「・・・だからチャーシューにこだわったのね」 「そ!いっただっきまーす!」 「頂きます」 * * 12月31日 午後11時 じょんがら節を聞く 「これこれっ!これ聞くと正月が来るなぁって思うんだよな!」 「確かに、なんかお目出度い気がするね」 * * 12月31日 午後11時45分 紅白終了、カウントダウンまであと15分 「あと15分で来年か・・・」 「久保ちゃん!明日はどっかへ初参りに行こうな!」 「う〜ん、混んでるからあんまり行きたくないなぁ。お前だって混んでるとこ行くの嫌じゃない?」 「駄目、完璧な正月すんだから初参りは欠かせねー」 「・・・今更だけど、なんでそんなに”完璧”な正月にこだわってるの?」 「んー?正月くらいは大掃除して家中のホコリをはらって綺麗にして、ご馳走を用意して新年を迎えないと福が来ないぞってバイト先のおっちゃんが言ってたから」 「・・・それだけ?」 「それだけ」 うーん、まあもともとお祭り好きだからね、そんなもんかもしれない 「あ、あと賭け事する人は縁起を担ぐのが大事って言ってたかんな。 久保ちゃん麻雀するだろ?だから正月くらいは縁起担いどいた方がいいじゃん」 ・・・時任くん久々のストライク、久保ちゃん完敗。 つい顔が緩んじゃう 「何にやにやしてんだよ」 「だってねー、俺のためだったんだ、正月の準備」 「・・・ちびっとだけな」 「それでも十分デス」 「こらっひっつくな! 「ひっつきたいから」 「は〜な〜れ〜ろっ!」 「いや〜、ぺとっ」 そんな風にじゃれいていたら・・・ ゴーン・・・・ 『新しい年の幕開けです』 テレビから除夜の鐘の音と新年を伝えるアナウンスが流れている。 「お、新年じゃん」 「新年だぁね」 「久保ちゃん今年もよろしくな!」 「今年もよろしくね」 時任が隣にいて、一緒にこたつに入りながらテレビを見て、年越しそばを食べて、のんびりと新年を迎えて挨拶を交わす。至極穏やかで満ち足りた年越しだった。 俺にとってこれ以上の”完璧”な正月って無いんだけどね。 年越しも正月も時任さえいれば満足で完璧だった。 俺のためにイロイロ考えてくれたのは嬉しいが初参りまでは遠慮したい。 人混みの中に行って利くか利かないか分からない神様に賽銭投げてお参りするよりは二人でごろごろする方が望ましい。 「時任さー、初参りは別に行かなくてもいいと思うよ?俺ら信心って皆無だし」 「・・まあな」 「だったら身近な人に感謝した方が良くない?見知らぬ神様より近くの知り合いって言うし」 「てめーは何が言いたい」 「だから時任くんに感謝したいなー」 「おう、感謝の心は受け取った。もういいぞ」 「いやいや、言葉だけじゃ足りないっしょ、初参りん時はお賽銭投げるしね?」 「そんなんいらねー」 「遠慮しないでよ、賽銭よりもっといいもんあげるから」 「いいもんって何だ?生贄なら却下だぞ」 「・・・お前も強くなったよね」 「お前がワンパターンなんだよ」 「反論できないかも・・・」 いつだって、どこだって時任欠乏症の俺なのですぐ先が読まれてしまう さーて理想の正月を迎えるにはどうするか?、あさって向いてちょっと戦略を練っていたら 「久保ちゃん」 時任が呼ぶので振り向くと口元の煙草を抜かれて時任の顔が近づく・・ ちゅっ 「俺からの賽銭」 時任がちょっと頬を染めながらボソッと呟く まったく・・・敵わないよねー・・・これだけで幸せになれてしまう どこの神も仏もお前には敵わない、俺限定の神様 「んじゃ俺からの賽銭も受け取ってくれる?」 「払いっぱなしじゃ癪だかんな」 今度は俺からちょっと長めの賽銭を渡した。 そして理想の正月を迎えるべく二人して寝室に向かう 除夜の鐘ごときじゃこの煩悩も執着も祓い清められはしないのだ。 どうやら二人は幸せな年越しと新年が迎えられたたようです。 誰にとっても良い年になりますように! (終) |
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時任は自分のためなら初参りも福を呼び込む為の正月準備もしなそうですが、久保田のためならやりそうだなと思ったのが元ネタです。久保田は大掃除くらいなら普通にしそうな気がします。でも新年を迎えるためと言うより時期だからくらいにしか思ってなさそう。時任がいれば満足だろうしね。でも正統派な正月を迎えた二人が書けて満足でした! ではでは今年最後の更新終了です。皆様良いお年を! 2006.12.30 |
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