7年後 お大事に!

チャッチャラッチャ〜♪

枕元の携帯から着信音が鳴り響く
徹夜明けで昼まで寝ていた翔太は5回ほど鳴ってからやっと目が覚めた。正直まだ眠いので出たくない。

「・・・誰から?」

チャッチャラッチャ〜♪

7回目の着信音が鳴り響く、あきらめて出ることにした。
ベッドから出て携帯の表示を見ると時任からだった。
こんなに鳴らすなんて珍しい、短気な時任兄ちゃんはワン切りが多いのだ。

「はい、翔太です」
『おっせーよ、まだ寝てたのか?」
「うん、昨日締め切りだったから徹夜明けでさ」
『そりゃお疲れさん、お前今日暇か?』
「特に予定は無いけど・・・どうしたの?何か声が変だよ」

電話から聞こえる声はくぐもっていて酷くかすれている。体調でも悪いのか?

「時任兄ちゃんもしかして風邪引いてる?」
『おう、そんな声変か?』
「うん、すっごくかすれてる」
『それでちょっと頼みたいことがあるんだ。こっち来れるか?』
「わかった。20〜30分くらいでそっち行くから」
『悪い、サンキューな!』
「じゃ後でね」

珍しいこともあるもんだ。時任兄ちゃんは10代の僕ですら付き合いきれないことがあるくらいの力自慢の体力自慢なのだ。カラオケでオ ールしても全然平気で潰れるのは俺のほうだ。滅多に風邪なんぞ引かないと聞いている。
適当にそこらへんにあるGパンとトレーナーを着て洗面所で歯と顔を洗う。台所に行って適当に腹に詰込んで準備オッケーだ。
部屋を出て部屋の鍵を閉めてエレベーターに乗って下ではなく4階のボタンを押す。
実は春から同じマンションに住んでいた。さすがに前と同じくファミリータイプの隣の部屋は借りられなかったけどその下の階の303号室に住んでい る。なんと兄ちゃん達の真下だった!。1DKのシングルタイプは人気がないのか予想外の安さだった。立地はいいけど築20年近くでバブルがはじけた今はこんなもんかもしれない。
時任兄ちゃんの電話から20分後、身づくろいを済ませた俺は403号室のチャイムを鳴らした。

ピンポーン♪

ガチャッ

玄関を開けてくれたのは久保田さんだった。珍しい。

「こんにちは、久保田さん。時任兄ちゃんいる?」
「・・・・・・・」

?口をぱくぱく開けてるが何も聞こえない。見ると手に紙を持っていた。

『風邪で声が出ないから気にしないで。時任は寝室にいるから』と書かれていた
「う、うん。お邪魔しまーす」

風邪ひいてるのは時任兄ちゃんだけじゃないんだ。だから呼ばれたのだろう。こりゃ大変だ・・・。
勝手知ったる寝室に入ると時任兄ちゃんが寝ていた。熱が高いのだろうか氷枕が頭の下に敷かれていて頭には熱冷却シートが貼られてい る。顔も赤くて眼が潤んでいて吐く息が荒い。うわー結構目の毒かも(笑)

「よう、悪いな、翔太」

やっぱり声はかすれていて弱々しい。

「いいけど・・・二人とも風邪引いちゃったの?」
「一週間前からな。最初は俺だけだったんだけど昨日から久保ちゃんにもうつって、今日は声も出せなくなってさ・・・。そんでとうとう食い物が無くなっちまったんだ。悪ぃけどちょっと買い物とかしてくれるか?」
「わかった。んじゃ買い物行って、ご飯作ればいい?洗濯もしようか?」
「頼む」
「うん、今度何か奢ってね」
「おう、何でもいいぞ。どうせ払うのは久保ちゃんだ」
「ははは、じゃ期待しちゃおうかな。熱はどんぐらいあるの?薬はある?何か欲しいものは?」
「俺は38度、久保ちゃんは微熱って言ってるけどホントはどうだろ?薬は知り合いの医者からもらってるからへーき。食えりゃなんでもいい」
「わかった、じゃご飯が出来たら起こすから寝てて」
「ん」

話したら疲れたのかすぐ寝てしまった。ちゃんとした病院行かなくて大丈夫かなあ・・・。どうせ行けないけどさ。寝室を出てリビングに行ったら久保田さんがソファーで寝ていた。僕に気づいて「やあ」って感じに手を上げた。
寝室は時任兄ちゃんに譲って自分はソファーで寝てるんだ・・・さすが愛猫家。

「久保田さんも熱高いの?」

親指と一指し指で「少し」と返したけど本当かどうか疑問だ。

「買い物行くけど何か欲しいのある?」

声が出ないせいか近くにメモを用意してた久保田さんはすぐにさらさらと何か書いて僕に見せた。

『ポカリお願い、テーブルの上の財布自由に使っていいから。よろしくね』と書かれていた。
「分かった。とにかく寝てて」

こっくりと頷いてそのままソファーに沈む。やっぱりだるそうだ。よく見ると熱冷まシートを貼っただけで氷枕も無いようだ。二人同時に 風邪引いたから足りなくなったのだろう。冷蔵庫の中を確認したらやっぱり何も無い。買出しから始めないといけないようだ。二人とも風邪引いちゃうと家のことをやる人がいなく なるのでホント大変だ。
それからは洗濯機回して、買い物して、洗濯物干して、料理してと大忙しだった。その間少々困ったことがあれど問題無くやりすごした。
母子家庭だったので家事は得意なのだ。特に料理は好きでそこらへんの女子よりか上手だと思う。それを知ってるから時任兄ちゃんは僕を 呼んだのだろう。

午後1時30分、ご飯が出来たので時任兄ちゃんと久保田さんをを起こしてご飯にしよう。
コンコン、一応ノックして中に入る。眠りが浅かったのかすぐ目を覚ましてこちらを見ていた。

「ご飯できたけど食べれる?」
「食べる、腹減った」

お腹が空くくらいならすぐ治るだろう。安心した。

「こっちに持ってくる?」
「へーき、そっち行く」

久保田さんも起こしてリビングでご飯にすることにした。
メニューは病人定番のおかゆに梅干、それと肉じゃがに甘い卵焼きに茶碗蒸しに冷奴、風邪に効くという生姜をすりおろした豚汁、とにかく柔らかい物をたくさん作ってみた。残したら冷蔵庫に入れとけばいいしね。

「・・・すげー、お前ホントに料理上手だったんだな」
「大丈夫?食べれそう?」
「おう、美味そうだ。頂きます!」
「・・・・・・」(久保田さんが手を合わせながら何か言ってる、頂きますと言いたいのかな?)
「翔太は食べないのか?」
「先に食べてて、ちょっと先に洗濯機回してくるから」
「ん、お先ー」
「召し上がれー」

二人とも順調に箸を進めている。喉を痛めた久保田さんが心配だったが問題ないようだ。
二人が食べてる間に時任兄ちゃんののシーツと氷枕を取り替えようと思い寝室に入る。幸いにも天気が良かったので洗ったシーツはすぐ乾いていた。汗で湿ったシーツと洗ったシーツを交換し氷枕を引き上げる。氷は完全に溶けていて持ち上げてもチャプンという音しかしなかった。
湿ったシーツを洗濯機に放り込み、氷枕には自動製氷で出来た作り置きの氷を入れ替えて、新しくシーツを引いて、寝室がすっきりしたと思って見回すと、ふと、小さなゴミ箱が目に入った。鼻かぜも引いたのかティッシュで満杯になって溢れそうになっていた。中を空けようと思ってキッチンのゴミ入れに持って行く。
そしてボソっと中を捨てようとすると嫌〜なものが目に入った。
まあ知らないではないブツではある。使ったことが無いわけではない。
でも出来る限り他人の、しかも男の部屋で見たいものじゃあない。
使用済みのコン○ームなんてっっ!!
実はさっき洗濯をしていたときも困ったことがあった。どう見ても固まった○○がついたシーツがあったり、パンツがあったりしたのだ。
そりゃ二人が恋人同士なのは知っているけど見たいもんじゃあない。
健全な青少年にとっては目の毒にしかならないのだ。

『・・・勘弁してくれよ・・・』

洗濯だけで止めときゃ良かったと後悔しながら恨みの視線を込めてリビングの二人を見る
仲良さげに食事をしていててなんとなくムカつく。

『・・・あれ?』

時任兄ちゃんの後ろ首に赤い痣が見える。
どう見てもキスマークだ。
しかも濃い色で最近のものと思われる。ということは・・・

『・・・時任兄ちゃんが風邪引いてるってーのにサカッたってこと?(怒)』

とはいえさすがの久保田も高熱を出してる時任を襲うことは無いだろう。
ということは一度は快方に向かっててほぼ治ってたってことだ。
でも自分も一昨日から風邪ひいてるってことは・・・

『もしかして、風邪治りかけの兄ちゃんを襲ってぶり返させて自分も風邪引いちゃったってこと?(怒×2)

そして・・・

『そんな理由で徹夜明けだってーのに振り回されておさんどんしてるの?しかも二人の仲を当てられながら?(怒×∞)

さてどうしてくれようか・・・かと言って病人相手にやりあうのも大人気ない。
考えつつもゴミ箱を片付けてリビングの椅子に座る。

「どう?口に合う?」
「おう、美味いぞ。ホントお前料理上手だな」
「良かった。料理は好きなんだよねー。久保田さんはどう?」
「・・・」(手をかざしながら頷いてるので大丈夫そうだ)

その様子を見ながら唐突に良い案が思いついた。
二人の風邪が早く良くなるし、ちょっと久保田さんを懲らしめることが出来る一石二鳥の案だ。

「にしても二人同時に風邪引くと大変だね、ベッドも一つしかないから久保田さんはソファでしか寝られないし・・・」
「・・・まあな」
「氷枕も普通は一家に1つしか無いもんね」
「そうなんだよな・・・」
「どっちかが看病するわけにもいかなしね」
「・・・」

ちらっと久保田さんを見ると『気にすることないのに』って顔をして時任兄ちゃんを見てる。
そしてこっちを見て『何を考えている?』って顔をしている。
それににっこりと笑って時任兄ちゃんに話しかけた。

「ねえ兄ちゃん、どっちかが治るまで俺の部屋にこない?」
「へ?」
「時任兄ちゃんは熱が高いからまだ看病が必要だけど今の久保田さんの状態じゃ無理だから僕がするよ。それなら僕の部屋に来てくれたほうが楽なんだよね。それに僕の部屋ならアシさん用に予備の布団があるから気兼ね無く休めるよ、氷枕もあるしね。どう?」
「・・・いいかもしんねーなぁ」
「うんそうしなよ。そしたら久保田さんもゆっくりベッドで休めるしさ」

『久保田さんもゆっくり休める』これが決めて。
時任兄ちゃんが久保田さんへ風邪をうつしてしまったのを悪いあなあと思ってるだろうし、ちゃんと休めないのを心配してるはずなのだ。そして時任兄ちゃんがそうすると言えば久保田さんも否やは言わないだろう。

「じゃあ悪ぃけどそうさせてもらうわ・・・」
「久保田さんもそれでイイよね!」

にっこりしながら久保田さんを見てみた。案の定すんごい仏頂面をしていた。
へっへーんだ。題して『時任兄ちゃん隔離作戦!』だ。
久保田さんには時任兄ちゃんから引き離すのが一番堪えるはず、しかもそれぞれがちゃんと休めるので風邪も治るだろう。我ながら良い案だ。

「久保ちゃん、いいだろ?」
「・・・」

不承不承という感じで久保田さんが頷く。
そうと決まったら善は急げでテーブルを片付けて洗濯物を取り込んで時任兄ちゃんのお泊り準備をする。
薬と数枚の着替えを持つだけなのですぐ済んだ。

「時任兄ちゃん、行こうか」
「んー」

時任兄ちゃんと玄関に向かうと久保田さんが見送りについて来た。

「じゃ、久保田さん、時任兄ちゃんは俺に任せてゆっくり休んでね」

ちょっと嫌味っぽいセリフを吐いて久保田さんに笑いかける。
久保田さんは眉間に皺を寄せてじとーっと横目で僕を睨んでいる。
でも『仕方ない』って顔をしている。
ホントは判ってるんだよね、そうしたほうが良いって、それでもムカつくって感じだ(笑)
意趣返しを覚悟してたけど声が出なくてそれも出来ない。
こっちも調子が狂うから早く治して欲しいよ。
お大事にーだ。

「おい、久保ちゃん、早く治せよ」
「・・・」(右手を上げてこっくりと頷く、了解と言いたいようだ)
「そんで早く俺を迎えに来いよなっ」

・・・うわー、最高の特効薬投入だ。意地でも早く治すだろうね。

「じゃ、また明日来るから」

そう言って扉を閉めて下の階の僕の部屋に向かって歩き出す。

「あーだりぃ・・・ったくこんな風邪長引いたのは初めてだぜ・・・」
「兄ちゃん体力ありそうだからすぐ治りそうだもんね」
「一旦治ったんだけどなぁ、久保ちゃんのせいでぶり返した」
「(あー、やっぱり予想通りだったみたい)・・・そうなの?」
「おー、あげく自分もうつりやがって・・・独りでちったぁ反省しやがれってんだ」
「あ、引き離そうとしたるの判った?」
「まあな、でも実際そうしたほうが良いと思ったかんな。どっちかが完治するまで離れてたほうがいいよ。お互いうつしあいっこしてたら洒落になんねーし」
「(性病のピンポン感染みたいで嫌・・・)でも、あー言ったら久保田さん意地で治しそうだよね。どの位で治すと思う?」
「んー、2日位して完治したら来るんじゃねーの?」
「意地で治して明日来たりして」
「それはねーよ、ちったあ反省してるだろうし中途半端で来ねぇと思うぞ」
「いや久保田さんのことだから1日で完治するかもよ?」
「さすがに無理だろ、今回の風邪しつこいぜ?」
「賭ける?」
「いいぞ、何賭ける?」
「ファイナル○○シリーズの新作」(どうせ久保田さんが払うので高額狙い)
「いーぜー、んじゃ俺は1週間出張メシ作りね」
「乗った!」
「よっしゃ!」

病人とその介護人はギャハギャハ笑いながら部屋へ向かいました。

こんだけ元気ならすぐ治ることでしょう。

では、賭けはどちらが勝ったでしょうか?

久保田は時任への愛で驚異的な速さで治すと思いますがご想像にお任せいたします

とにかく二人ともお大事にー






(終)
 
久保田が一言もしゃべってない・・・久保田ファンの方ごめんなさい。あと38度もあるのに時任がしゃべりすぎかなーとも思います。ほんとは翔太にもっと久保田を懲らしめてもらおうと思ったんですが翔太君は久保田も好きなので意地悪しづらくてこういうオチになりました。穏やか君なのでヒドイ仕打ちが似合わないのよね。うーむ。
なんかオチに不満を持ちつつも間に合わないのでupしました。

2006.12.7
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