7年後 小姑登場 | ||
ピンポーン! 平日の昼間チャイムが鳴り響いた。 いつものごとくゲームをしてた時任は手を止めて玄関に向かう。 ちなみに今日は久保田はバイトで不在だった。 帰ってくるにはちょっと早い時間帯、誰でしょう? ガチャッ 「誰だ?」 見るとそこには17〜18才くらいの見知らぬ少年が立っていた。 でもどっかで見覚えがある気が・・・ 「俺のことわかる?時任兄ちゃん」 左右の目元に黒子がある、何より自分のことをこう呼ぶのはたった一人しか覚えがなかった。 「お前・・翔太か?」 「えへへ、覚えててくれたんだ。久しぶり!」 「おう、久しぶりだな!」 そう言って時任はニッカリと笑った。 翔太はその顔を見て、兄ちゃんは変わってないなあと嬉しく思う。 「ま、とにかく上がれよ」 「うん、お邪魔しまーす」 リビングに入るとこれまた変わってない。コーナー型のソファにテレビに散乱したゲームソフト。なんか小学生に戻った気分だ。でも空気清浄機があったり若干物が増えていた。 「コーラでも飲むか?」 「うん、ありがとう」 「でも驚いたよな〜、今日はどうしたんだ?こっち帰って来たのか?」 「うん、今度こっちの大学に来るんだ。一人暮らしするんでここら辺の物件探し歩いてたんだよね。懐かしくてここのマンションにも寄ってみたらまだ”久保田”の表札があるんだもん。もしかしてって思ってチャイム押してみたんだよね。ホントに会えるなんて思わなかった」 「俺もまた会えるとは思わなかったな。・・・にしてもお前でっかくなったなあ」 そうなのだ、翔太は中学に入ってからにょきにょき背が伸びて今や181cm、時任を見下ろすまでに成長していた。しかも優しそうな柔和な顔立ちの結構なイケメンである。 「時任兄ちゃんは変わんないね。年取ってないみたい」 「ふんっ当然だろっ。俺様はいつまでもカッコいいの!」 「でもカッコいいというか・・・」 「何だよ」 「ううん、何でもない」 昔は顔の美醜は興味がなかったけど良く思い出すと時任兄ちゃんはかなりの美少年だった気がする。でも笑うと子供っぽかった印象がある。でも今は・・・なんか美青年って感じ?目は相変わらず釣り目だけど綺麗なアーモンド形でまつ毛長いし、髪なんかサラサラだし、髭はえてんのか?ってくらいなめらかだし、腰も細くてこう華奢でスタイルいいし、そこらへんのモデルなんて目じゃないよね。でもこの目つき悪さは変わんないなー(笑) 「?何にやにやしてんだよ?」 「何か昔を思い出して笑っちゃってさ、久保田さんは元気にしてる?」 「おう、元気にしてるぞ。相変わらず年がら年中すぱすぱ煙草すってるけど肺ガンにもならずにすんでるしな。もうそろそろ帰ってくるんじゃないか?」 「禁煙するタイプじゃないしね、ねえ、久保田さんとは仲良くやってるの?」 「?当たり前だろ?でなきゃ何年も一緒にいられるわきゃねーじゃん」 「だよね、何か安心した」 拾った猫とどう接していいか戸惑ってた男はもういないらしい。多分、いや絶対、今ではうるさいぐらいに猫かわいがりしてることだろう。なんか時任兄ちゃんを見ててそう思った。 「なんだそりゃ?まあ、小さなケンカはしょっちゅうするけどな」 「あーしてそうだよねー」 「大体は久保ちゃんが悪いんだかんな!俺は悪くねー」 「そうなの?」 「この前は俺のバイト先のおっちゃん達と飲みに行ってた時にさ、これから3軒目行こうっ!って盛り上がってんのに無理矢理乱入して連れ帰るんだぜ。信じられるか?場所も教えてねーのにどうやってか調べてくんだよ、あいつ。ムチャクチャ腹立つっ!」 「・・・ははは、久保田さんならやりかねなそうだね」 「その前はさ、よく行くコンビニの兄ちゃんがさ間違って多く注文したからあげるって言ってくれたキットカット1ダース捨てやがったんだぜ!俺すげーハマってんの知ってるクセしてさー、あの兄ちゃんが気に入らないからって物には罪ねーじゃんか!」 「・・・ははははは・・・・(それって・・・)」 「その前もさー・・・」 話してる間に怒りがこみ上げてきたのか、時任が次々とケンカした内容を告白すること約30分、翔太は悟らざるを得なかった。 『久保田さんと時任兄ちゃんはデキてる!』 何故ならケンカの原因は久保田さんの独占欲、もしくは嫉妬によるものとしか思えないものがほとんどだったのだ。 しかもさっきから見える時任兄ちゃんの首の付け根・・・あれキスマークだよね(照) 時任兄ちゃんは自覚してるのかしてないのかとてもモテルみたいだ。この容姿なら当然か。なのに兄ちゃんは警戒心が無さそうだし、久保田さんは心配なんだろうなあ。 それにしても今なら想像できるけど、昔は全然想像つかなかったな。確かにあの頃から時任兄ちゃんは久保田さんにとって特別な存在なのは知っていたけどさ ・・・イロイロな意味でショックだ。 「?どしたんだよ、黙りこんじまって」 「いや、変わってないようでも色々あったんだろうなあって思ってさ。昔より二人は全然仲良さそうだし(良すぎな気もするけど)、久保田さんも人間っぽくなった気がするしね(嫉妬までするくらいだし)」 「お前もそんなでっかくなっちまったくらいだしな、7年もあれば色々あるよな」 「うん、うちは結局両親が離婚してさ、俺は母さんについていったんだ。でも今年再婚して幸せそうだよ。だから一人暮らしはじめようと思ったんだ」 「ふーん・・・」 「ねえ、兄ちゃん、今は幸せ?」 あの頃の一番の友達だった時任兄ちゃん、久しぶりに再会できて今でも大好きだとわかった。 だから幸せでいてくれれば誰とくっついていようがそれでいいなあと思う。 「何だよ急に・・・、まあな、そこそこ幸せだぜ?」 照れたようにニッカリと笑ったその顔は昔と変わらないままだ。 でも昔は冗談でも「幸せだ」とは返さなかっただろう。 ・・・それが7年分の違いなのだ。 「良かった。安心した」 「そか?」 「うん、あ、もうこんな時間だ。そろそろ帰らないと」 「もう?もうそろそろ久保ちゃん帰ってくるぞ」 「俺も会いたかったけど、人と会う約束してるんだ」 「彼女か?」 「残念ながら違うんだよね。じゃあまた来るから!久保田さんにもよろしくね」 「おう、またな!」 「うん、またね」 ガチャン、扉が閉まる。 「またな」「またね」、7年前では当たり前だった挨拶を当たり前にして別れた。 昔と違うのは隣の部屋に行かないでエレベーターに向かうとこ。残念だがここにはもう住んでないのだ。 今日はこれから編集さんと会う約束になっていた。時任兄ちゃんに言い忘れたが高校在学中に漫画家デビューをてたのだ。まだ無名だけどポツポツと短期連載もさせてもらっていてコミックスもでている。今日は読み切りのプロットを見てもらう予定なのだ。待ち合わせ時間を気にしながらふと前を見ると背の高い男の人がこっちを見て立っていた。 咥え煙草でちょっと猫背気味、眼鏡しててちょっと髪は長め、手にはコンビニの袋をぶら下げている。 ・・・久保田さんだ、すぐ分かった。 「君、今そこの部屋から出てきたよね。どちらさん?」 久々に聞いた声は思いっきり不機嫌そうで、『内容によっては殺っちゃうよ?』なオーラを垂れ流し、笑いながら凄まれてしまった。久々の再会だってのにあんまりだ・・・。 もともと老け顔で年齢不詳だったから見掛けはそんな変わんないけど得体の知れなさ度がアップしててかなり威圧感がある。普通の格好してるのに目には見えない凄みを感じる。一体どんな7年間を過ごしたんだろう。 「7年前まで隣に住んでた漫画家志望の子共って言ったら分かる?」 あ、『殺っちゃうよ?』オーラが無くなった。記憶にあったらしい。 「・・・翔太か?」 「そう、憶えててくれたんだ」 「まあ、忘れないっしょ?あんときは時任が世話になったしね」 「こっちこそよく遊んでもらったよね」 「時任が遊んでもらってたと言ってもいいんじゃない?」 「あはは、聞いたらお兄ちゃん怒るよ?、今日はもう帰るけどまた遊びにくるね」 「どーぞ?」 「じゃ、また!」 そのまま久保田さんの横を通り過ぎて帰ろうとしたけど、ちょっと言いたくなって振り返る。 最初が肝心だって言うし、思ったことは言っておこう。 「久保田さん」 猫背の背中に声をかける 「?」 怪訝そうな顔をして久保田さんが振り返る。 「俺さ、実は16のときにデビューして漫画家になったんだ。いつか連載するチャンスがあったら書きたい話があるんだ」 「・・・」 「猫を拾ったけど飼い方がわからない男の人とその猫の話」 「・・・」 「昔からキャラクターを暖めてていつか書きたいと思ってた。でも二人の最後が思いつかなくてまだプロットになってなかったんだよね。でも今日会えてなんだか書けそうな気がしてきた」 「・・・そう」 「うん、ラストはハッピーエンドにしたいからさ時任兄ちゃんを泣かすなよ!」 「肝に銘じときましょ?」 「じゃ、また!」 言いたいことだけ言って少年は走り去り、言いたいことだけ言われた久保田は一人ごちる。 「・・・小姑宣言?」 当たらずとも遠からずである。 一方、小姑は・・・ 久保田さんは時任兄ちゃんのこと大事にしてるだろうけど、かーなーりー猫っ可愛がりしてて、独占欲強くて、嫉妬深くて、時任兄ちゃん大変だろうなあ・・・。ちょっと心配だよ。 うん、やっぱりこの近所に住もう!絶対!! そんな決意を固めているのでした。 (終) |
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再会編を書きたかっただけなのに何時の間にか小姑宣言の話に・・・?幼い頃から只者ではない洞察力を持った翔太くんは将来有望だと思います。彼らと出会った年になったら久保田にも対抗できるんじゃないか?と思ったらこうなりました。うーん。彼は荒磯の桂木ちゃん的役割をしてくれそうです。書きやすかったのでいつか続き書くかも。「ヒトデナシ」はこれと一緒に書いたんですが長いので2つに分けました。よければそっちもどうぞv 2006.11.24 |
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