10年目 The 10th year

 2006年12月31日
 久保ちゃんと出会ってからもう10年が過ぎていた。
 ・・・久保ちゃん気付いているかな?

 俺達はかわらず2人で住んでいて、あの頃とあんまり変わらない日々を過ごしている。
 けれどWA関連の事件はもう無い。
 たまにヤクザに追っかけられてるけどほぼ久保ちゃんのせい。

 久保ちゃんはあんまり変わんない
 ヘビースモーカーだし
 商品好きの甘党だし
 今日も代打ち行ってるし
       ・・・やっぱり雨は嫌いみてぇだ。

 俺もあんま変わんない
 またスニッカーズに嵌ってるし
 昨日も徹夜でゲームしてたし
       ・・・右手に手袋はめたまんま

 それでもちょっとずつ変わってる

 久保ちゃんは煙草の量が日に1・2箱と減ったし(・・それでも多いけど)
 最近は代打ちバイトの他に株とかやっててなんか儲けてるらしい
 実は最近ちょっと白髪が出てきた(葛西のおっさんと似てきたかも?)

 俺はたまにモグリんとこ以外のバイトとか行ってる。
 そこで知り合った気のイイおっちゃん達と飲みにいったりとかもする。
 そんで俺の肺はぜってー黒くなりつつある。

部屋には2代目の空気清浄機があるし
ベッドはダブルベッドになったし(俺が買った)
カレーは週1回になった(我慢できなくなったら俺様が作る)

そんな変わったようで変わらない俺達

 10年目になると気付いたのはほんの偶然。
 テレビつけたらカルト教団特集がやってて邂逅の牙がでた。あれから9年たってるらしい。ってことは確かあん時久保ちゃんと会ってから1年くらい経ってたから、久保ちゃんと会ってもう10年たってたのかぁと気づいた。

 10年目といったら特別だよな
 こういうの何て言うんだっけ、そだ節目だ、節目
 なんかこうスペシャルなことでもすっか、節目だかんな

 ・・・でも何しよ???



 *

 *

 *



「・・・寒っ」

 雀荘から一歩でて一人ごちる。空からは雪がちらほらと舞い落ちてくる。道理で寒いはずだ。
 昔は暑い・寒いなんて言わなかったけど今ではひとりでも言うらしい。そうなった原因を思い出すだけで自然と口がゆるむ。

 なーんだかねえ・・

 暑いも寒いも呟いて伝えるようになったし
 年末も年始も録に興味ないけど大晦日は早めに帰ろうかなんて思うようになった

 冷蔵庫にはお節なんかあるし?(コンビニのだけど)
 これから帰るなんてメールも打っちゃうし?
 まるっきり所帯じみてきた自分に笑える

 あれからどんだけ経ったかねえ

 ひのふのみ・・
 あれま、前の2月11日で10年経ってたわ
 ちょっと遅いけど、こりゃ愛しの奥様へダイヤでも買うべきかな?
 すうぃーとてんだいやってやつ?(笑)

 そんな馬鹿なことを考えつつ、ちょっとだけ家路を急いだ



 *

 *

 *



 ピンポーン

 「時任、開けて〜」

 鍵は持ってるけどチャイムを鳴らしてちょっと待つ

 バタバタバタ
 カシャンッ

 「寒みいから早く入れってば」

 たいてい時任が開けてお出迎えしてくれる、これは10年前から変わってない。
 時任は気付いて無いけどこれって新婚さんノリだよね(笑)

「ただいま」
「おかえり」

 暖かなぬくもりが欲しくてつい抱き寄せちゃう

「久保ちゃん冷たいっ!」

 あらつれない、ついでにキスしちゃえ

「っだ〜〜!!冷たいからあっちいけっ!」

 昔は顔を真っ赤にしてわめいてたけど今じゃ全然動じない
 あの頃は初々しくてかわいかったなあ(親父的発想)

 温まるようコーヒーを入れてリビングのソファで並んで紅白を見る。
 時任がじょんがら節が無いと文句を言ってる
 特に好きなわけじゃないけど目出度い感じがするんで紅白で見るのが好きらしい。
 紅白が終わったら年越しそばを食べながらゆく年くる年を見るのが最近のパターン

 まさに人並みの正月を迎えようとしてる俺ら
 10年前には想像もつかなかった
 葛西さんが老けるはずだよね(笑)

 そばをすすりながら時任がふと言い出した

「なあ、久保ちゃんさ。俺達が会ってから今年が10年目だって気付いてた?」

 おや偶然、以心伝心てやつ?

「今日気付いた」
「俺も、んで何か特別なことやろーって思ってたけど全然思いつかねえの」
「ふーん?」
「10年目って言ったら節目じゃん、特別だろ?」
「実はさっきすうぃーとでんだいやを買おうかと考えてた。いる?」
「いるわけねーっての!・・・ていうかさ、まあそんなんしなくていいかなーって思ってさ」
「何で?(ちょっとあげたかったなあ)」
「んー、色々あったけどいつのまにか10年過ぎたしな、なんかこう当たり前にさ。
それに俺らはまだ28で先は長いじゃん?80まで生きたとしたらあと50年以上あるんだぜ?
10年目なんてまだまだ序の口だよなーって思ってたらどうでも良くなってきた」
「・・・・・・」
「久保ちゃん?」
「・・・そうかもね」
「そっ!んでまた当たり前のように10年過ぎんだよ、ぜってーにな!」

 平気で何十年後の未来も一緒にいると断言するお前
 俺は10年かかって明日・明後日・来年くらいはお前が傍にいると思えるようになった。
 そして何よりも『生きたい』と思えるようになった。

「でもせっかく気づいたんだからどっか旅行でも行こうか、温泉とか」
「いーけど、なんで温泉?(テーマパークとかのが良いらしい)」
「ほら、何十年も続けるにはマンネリ化が一番の大敵って言うっしょ?時にはリフレッシュしなきゃね?温泉ていいよねえ(意味深に)」
「その前に枯れろ、バカ」
「ひどいなあ(笑)」
「あ、久保ちゃん、カウントダウン」

 5,4,3,2,1、ポーン

「今年もよろしくな!久保ちゃん」
「今年もよろしくね、時任」


 そうして俺達は今年最初のキスをする
 11年目を迎えられたことを喜び
 無事に12年目も迎えられますようにと願いながら・・・



(終)

実はこれが生まれて初めてのSSです。このネタを思いついたら無性に書きたくなって書きはじめました。私の中では二人は何とか無事に生き残って二人でひっそりと暮らしていくというのが根本にあります。それを形にしたくて書いたんですね。いろんな意味でこのSSはうちの基礎となってます。

2006.11.15修正
>> NOVEL TOP >>