深海魚 |
出雲会のタンカーから飛び降りて水の上を漂っているとモグリの手配したボートが来た。2時ジャスト。 暗くてよく見えなかったけどがなんかぼろっちい感じのボートで奥の方に隠し部屋みてーなちっさい物置部屋があった。 やべーもん隠すようのボートってわけか。 横浜にそのまま行くのはよくないってんでどっかの港に行くらしい。 夜明けには着くから3~4時間くらいその中に隠れてろと言われた。 中に入るとモグリが気を利かせてくれたのか中に毛布と着替えが置いてあった。『これも有料か?』『込み値段じゃない?』なんて言いながら着替えることにした。 脱いだら久保ちゃんの肩にでかく包帯が巻いてあってどうしたんだと聞いたら『ちょっとね』なんてかわされた。言いたくねーならそれでいいけどこれ包帯とか替えなきゃならない傷なんじゃね?『手当てしようぜ』と言ったら『平気。舐めときゃ治る』なんて言いやがった。そんなハズねーだろが!しまいにゃ怒るぞ。ちったぁ体を大事にしやがれ。そう怒鳴ったら『といってもここには何もないしね』『~~ッモグリの野郎も救急箱入れとけっての』そう八つ当たりしたら久保ちゃんが『うーん、あっても後で請求されそうだから使いたくないかな。今金欠なんだもん』なんて言うもんだから笑っちまった。久保ちゃんも笑った。 ああ、笑えるんだと、なんだか安心した。 「あーあ・・・お前の手も傷だらけだね。これどうしたの」 赤い痕がついた俺の手を久保ちゃんがしげしげと眺めて呟いた。 「ピアノ線で両手縛られた。あれやられっと千切れないのな。参ったぜ」 「ピアノ線ねぇ・・・」 そんな見るなよ、照れるじゃんって思ったら ・・・・・・!!!こいつ舐めやがった! 「ちょっ何すんだよ!」 「しょっぱいね・・・痛い?」 痛いっつーより恥ずかしいっての!!汚いし何考えてんだ!と文句言おうとしたら真剣な顔した久保ちゃんが傷の具合を尋ねてきたのでいいそびれた。 「痛い?」 また聞かれた。 「・・・もう痛くねー、平気」 嘘だけど。海水がしみて結構痛い。 「そう、他も痛いとこある?」 「・・・ちょっとだけ痛いトコあっけど平気」 「ふうん、痛いんだ。ちょっと見せてよ」 って全然人のハナシ聞いてねーし!信じてねーし!! でもなんかその時の久保ちゃんには妙な迫力があって逆らいがたかった。上を剥ぎ取られてしげしげと見られた。せっかく見つかんないようちゃっちゃと着替えたのに台無しだ。 「やっぱ痣だらけ。これは痛いっしょ」 「・・・おめーだって肩に怪我してんじゃん。おあいこだろ」 「まあね」 わけわからないことを言ってごまかした。でもそんなん全然聞いてないようで生返事しながら久保ちゃんは俺のあちこち触って確認してる。ちょっとイテー。一番痛いトコ押されたときはビクってしてしまった。 「ここは?」 「・・・ちょっと痛い」 「正直に」 「~~~痛いけど我慢できねーほどじゃねぇ」 「そう、まあ骨とかは折られてなさそうだね」 「俺様丈夫だかんな」 「うん、知ってる」 だろ?そんな心配すんじゃねーと笑おうとしたけど久保ちゃんの顔を見たら笑えなくなった。 「知ってたけど・・・ね」 久保ちゃんは呟きながら俺のことを抱きしめた。 『痛いし重いっての!』と言いたかったけど何も言えなかった。 俺だって同じ気持ちだったから 絶対なんとかして逃げ出してやると思ってたけど何も出来なかった。 もしかして久保ちゃんとは会えなくなるかもしれねーと思った。 ちっとだけだけどな。 久保ちゃんが来た時は ちょっと 泣きたくなった。 嬉しいっつーより、悪いとか、やっぱなとか、イロイロ あいつが『お前のダチは化け物だ』って言った。 あいつがバケモンならおれもバケモンだよなとか そんでバケモンにしちまったのは俺んせいかもなとか思った。 なんかごちゃごちゃしたもんが溢れて何も言えなかった。 何も言えねーから俺も久保ちゃんのことをぎゅっとして 俺も ここにいる ここにいた って伝えたかった。 「時任・・・」 「ん?」 「触っていい?」 「・・・ん」 もう触ってんじゃんとか思ったけど、頷いた。 もっと ここにいる ここにいた を実感したかった。 * * * * * * クチャ、チ 「あ・・・」 「ハァ」 湿った音と荒い息遣い。せっかく着替えた服はもう脱いでいた。つか脱がされた。 張本人は目の前で、距離はゼロ。それどころかマイナスだ。 「ん・・・ぅ」 執拗に口んなかさぐられた そんなにされっと水んなかでもねーのに溺れるっつの すっげ息が苦しい にしても久保ちゃんてばあんな時でも煙草吸ってたのな。煙草の味と臭いがする。それとももう染み付いて離れねーのかも。しょっぱくて苦いへんな味。久保ちゃんも俺の胸やら首やら腕やら舐めてっけどやっぱしょっぱいはずだ。おあいこだな。 腹まで舐められて段々下にずれていく。 ちょ・・その先は・・ 「ッ!!!・・・ちょっそこ・・・んんっ」 し・・信じられねぇ!んなとこ銜えるかよ!!! 「・・・は・・はなせよッ・・・」 「だめ」 口に入れたまましゃべんなっつの!・・・くやしーけど、すっげイイ。 頭んなかがぐちゃぐちゃになる。 何度ヤメロといっても離さない。 ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ・・・!!! 「・・・んッ・・イッ・・・!」 くっそ、イカされた。目がちかちかする。 「まだびくびくしてる」 出して敏感になってる場所をまた手でいじくられた。 「や・・・触んなッこのエロ親父!」 「まだ足んない」 そう言って久保ちゃんはまた動き始めた。その手が股の割れ目のその先に伸びる。そんなとこも気持ちイイ。ビクビクするのが止まらない。 「・・・イッ!っておい、どこに指入れてんだよッ」 「前準備」 答えになってねぇ!どんどん中に指が入り込んで中を掻きまわす。気持ち悪ぃのに気持ちイイ、変なざわざわする感覚。何だこれ、何だこれ。体がビクビクして止まらない。久保ちゃんの指で口でビクビクさせられてる。 外からも内からも支配されている。ヤダヤダヤダ。も・ヤめて欲しい。 「くぼちゃ・・・も・・やだ」 「ん、俺もきついから・・入れるね?」 「入れ・・・?・・!?」 何を入れるんだ?と聞く前に身をもって知らされた。さっきまで朦朧としてた意識が一気に覚醒する。痛いなんてもんじゃない。メリメリと裂けるような感覚。殴られるよりイテーんじゃねーか? 「・・ぅ・・時任、息して」 「ん・・ぅあ・・は・・・ッ」 必死で息を吸って吐いた。それにあわせてまた久保ちゃんが入ろうとする。もヤメロ!と言っても止めやしない。こんのエロメガネ!痛いッての! 久保ちゃんのアソコが俺んなか入ってるんだと実感したのは全部入ってからだ。女と違うから入れる穴はひとつっきゃねーよな。あそこに指入れられた時点で気付くべきだった。にしても痛てぇ。必死に呼吸したら少し楽になったけど痛てぇ。 「ッッッ・・・イッテェっての!」 「・・・ごめんね?」 「ヘタクソ」 「ひど・・・初めてなんだから勘弁してよ」 あ?初めてだっけか? ああ・・・初めてか・・・ 別に久保ちゃんとならヤッテも良かったけど、特にヤリタイとも思わなかったからな。 こんな痛いとは思わなかったけど。 でも実際してると何かずっと前からしてるみてーだ。 「・・・サイテー」 「ん?」 「ハジメテがこんなとこなんてサイテー」 久保ちゃんがびっくりしたような顔をして、次に笑った。 それにつられて俺も笑う。 なんて俺ららしい 人を殺して、たくさん殺して、そして生きてる。 そんな時に初めて抱き合ってる俺ら 「動くよ?」 「ん」 再びぐちゃぐちゃと室内に粘着質な液体音が響き渡る。 「あうっ・・・ん・・・」 めちゃめちゃ痛ぇ 全然気持ちよくない けど胸の奥が疼く 「時任」 「ん・・・あぁ?」 「辛い?」 「ちっとな」 「泣いてる」 「・・・ちげーよ汗だよ汗」 「そう」 久保ちゃんが俺の目を舐めた。 泣いてるのかもしれないし泣いてないかもしれない。 そのまま口を塞がれた。 海水が残ってる少ししょっぱいキス。 それとも俺の涙が混じってるのか。 もうぐちゃぐちゃでよく分らねない。 「ふ・・・」 「ん・・・」 久保ちゃんは俺より大切なものは無いという。 『俺も』とは言えなかった ぐちゃぐちゃと卑猥な音と息遣い。 突き上げられる痛みと同時に湧き上がる疼き。 どこからともなく溢れてくるこの疼き 痛くて甘くて苦しくなる。 「んッ・・・あぁ・・」 俺のなかに 何が入っているのか 何が大事なのか 俺ですら知らない でも今は 今だけは 俺の中に久保ちゃんがいる。 久保ちゃんだけがいる。 今だけは・・・ * * * * * 『触れてもいい?』と聞いたらお前は頷いた。意味がわかってないで頷いたんだろうけど、触れたかったから確認もせずに触れることにした。それほど触れたかった。 手で、足で、口で、舌で、鼻で、息で、自身で、全てを使って触った。 時任の顔を口を舌を目を髪を首を手を指を爪を腕を付け根を胸を臍を足を中心を中を全て触った。 触れたい、と言うより、食べたい、ってのが本音だけど。 食べて溶けて全てを一つにしたい。 お前がどこにも行かないように、どこにも行けないように お前に食べてもらって溶け合えたら最高なんだけど、お前はそれをしないだろう。 一人で立ち上がろうとするお前 落ちていくのをよしとしないお前 離れられない自分 落ちていくのも構わない自分 もう どっちでもいい お前が傍にいさえすれば もう 面倒だから 溶け合えたらいいのにね ハァ、はァ・・ ぐち、ニチャ 湿った音とお互いの荒い息。 湿った音は下の方から、荒い息は目の前から。 初めてだからかなり痛いだろう。慣らしたけど十分じゃないはずだ。ごめんね、我慢できなかった。 お前の涙目なんて初めて見た。いつもいつも一人で我慢してたから。手に激痛が走っても俺には見せてくれなかったから。 「・・あっ・・・んぅ・・」 辛そうな声と涙がこぼれる。ねぇ、泣いてるの自覚して無いでしょ。聞いたら汗なんて言われた。お前の強がりは一級品だね。そういうとこがイイんだけど。 次第に時任のイイとこがわかってきた。そこ中心に衝くと辛そうな声から高い甘い声になってくる。涙もこぼれた。もっと泣かせたくてお前の辛いトコを強く揺さぶる。 もっと、もっと、声あげてよ お前がいるって実感できるから もっと、もっと、泣いて? 強く衝いてあげるから もっと、もっと、一杯にさせて? 俺が一杯になるから もっと、もっと、もっと、もっと・・・・ その先にあるのは何だろうねぇ 「ねぇ、時任、どう?」 「ん・・なっ・・き・・きくなッ!」 駄目、聞きたい。 「ねぇ気持ちイイ?」 強く揺さぶってもういっかい聞いてみる。 「!!!ッ・・・んっあっ・・・ぁ」 言葉になってない。イキそうなのをせき止めてしつこく聞く。 「ねぇ教えてよ」 だって 不安だから 自分は痛みだけじゃなく他の何かも与えられるのだろうか 「~~~イイよッ」 ヤケクソのように答えてくれた。 そう、イイんだ。 俺で イイ んだ 「じゃ、イこうか」 せきとめていた手を外し、イクよう手助けする。そして自分も一際強く突き上げた。 「・・・イッ・・あぁぁッ・!!」 「ふ・・・んッ・・」 時任の中に満ちる自分。 境がなく溶けあったような錯覚に陥る瞬間。 今だけは お前が 俺が 溶け合った。 ほんの一時の錯覚だけど それでも満足する自分がいた。 今だけは * * * * * まるで深海魚のように 暗い 昏い 水底でうごめいてた 何も見えないそこで ほんのわずかに何かが見えた 近づいてみると 仄かに光るお前がいた 暗い 昏い 水底で 光を放つお前 その光はほんの僅かで 淡く 仄かに 瞬いていた 俺に見えたのが不思議なくらいに ねぇお前は誰? なんで見えたの? もっと見たくて もっと知りたくて その光に近づいた そして 手を取った 暖かくて 冷たくて ちょっと痛い 不思議な光を放つお前 手を放せば もう 何も見えない そんな 昏い 水底で出会った俺達 もう 離さない もう 離れない 二度と (終) |
あとがきもどき 記憶の無い時任は何が一番大事かも自信がないんじゃないだろうか。久保田が「お前以上に大事なものあったっけ?」と言った時に何とも言えない表情をした時任をみて「俺も」とも「俺は」とも言えないんだろうなと。自信を持って言えるのは今だけなんだろうなと思ったのです。そう思ったら、今をこの上なく感じる瞬間の一つとしてHしている二人を書いてみたくなりました。久保田さんも時任に告白したのでいい加減ヤラせてあげてもいいかなぁと。そんで一度時任に「ヘタクソ」と言わせたかった(笑)。そしたらこんなポエムエロとなりました。 こんな6巻発売記念ですが少しでも楽しんで頂けたなら幸いです。 お付き合い下さりありがとうございました。 (2008.3.16発行『深海魚』より再録、一部性表現削除.2008.10.1) |