最初は
立てない赤ん坊は既に立つ事が出来る赤ん坊と遊ばせると立つようになるらしい

外国語のビデオを見せても憶えないが外国語で直に学習すると憶えるらしい

人は笑いかけられることで笑うことを憶え

話しかけられる事で会話を憶える

人は人の間にいて初めて人間らしさを学ぶのだ

だから優しくされたことの無い人は優しくできないし

愛された事の無い人は愛しかたを知らないのかもね

じゃあお前は誰から教わった?

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時任はよく笑うし、よく話しかける
人に優しくする事ができるし、手を差し伸べる事もできる
多分人を愛する事もできるだろう
どんな環境で育ったか知らないがあの手と足のネームタグからしてろくな環境じゃあないだろう。なのにその瞳はとても真っ直ぐで、時にこちらが目を逸らしたくなるほどに真っ当で真っ直ぐだ。
時任も誰かに教わったんだろうか?誰に?
もしそうだとしたら、ちょっと・・いやかなり、妬けるよね?
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久保ちゃんはよく気がつくから面倒見いいんだなーって思ってたけど無関心な相手にはなんもしない。つーか面倒見がイイのは俺様限定っぽい。
しかも自分のことも無関心つーか鈍感で、前に指から血をだらだら出してるのに気づいてないのにはマジでびびった。
他人にも自分にも無関心だけど、沙織を家に連れてきたりするんだから容赦なく切り捨てるってわけでもない。子供とかにも優しいし。でも自分から何かするわけじゃない。でもつっかかってきた奴や黒服の親父どもには容赦なくぶちのめす。やりすぎてやべーくらい。

来る者拒まず、去る者追わず、邪魔者は徹底排除

しかも自己防御本能が低い

分かったのはつい最近

見張ってないとなーんか危なっかしいんだよなー

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とある日の午後、二人はリビングにてだらりと過ごしていた。邂幸の牙でのゴタゴタからまだ1週間しかたってないのでほとぼりが冷めるまでできるだけ家にいることにしていた。俺は床に座り込んでゲーム、久保ちゃんはソファに腰掛けて近代麻雀を読んでいた。

「久保ちゃーん、腹減らね?」
「ああもうお昼?」
「冷蔵庫ん中なんもないから買い物行こうぜ」
「うーん、どうしよかね・・」
「・・・久保ちゃん腹減ってねえの?」
「なんかね」
「ふーん・・・なんか久保ちゃんダルそうだな」
「そお?」
「おーよ、いつもダルそうだけど今日は1.5倍ダルそう」
「言ってくれるじゃない、・・・でもちょっとダルイ、かな?」
「熱でもあんじゃねー?」

久保ちゃんの額に左手を乗っけてみる。右手だと熱いも冷たいのも分からないからだ。ちょっと熱い気がするけど久保ちゃんの体温てこんなもんだっけ?確認するために自分の額にも手を乗せて比べてみる。俺のがぜんぜん熱くない。久保ちゃんは寒がりで冬の間はよく俺にひっついて『お前ってば体温高いね、子供みたい』なんてぬかしてたからぜってー俺より体温低いはずだ。

「久保ちゃん熱ぃよ、熱あるんじゃん?」
「んー・・・?そうかな?」
「体温計持ってくっから測ってみろよ」

救急箱を持ってきて体温計を取り出して久保ちゃんに渡す。久保ちゃんは大人しく脇の下に挟んだ。暫く待つとピピピッ!って音が鳴った。久保ちゃんが取り出して表示を覗いた。

「どうだ?」
「・・・38.5度」

俺にはその温度が低いのか高いのか分からない。普通の人の体温てどんくらいなんだ?

「いつもより高いのか?久保ちゃんの体温ていつもどんくらいだ?」
「さあ・・・ちゃんと測ったこと無いし憶えてない」

・・・話しになんねー。仕方ないので久保ちゃんから体温計を奪い取って自分の体温を測ってみる。ピピピッ!と鳴ったので取り出して確認する。36.8度だった。

「久保ちゃんて俺より体温低いじゃん。だから久保ちゃんの体温はいつもは36.8度よりぜってー低いハズっ!だから38.5度なんてめちゃめちゃ熱あるんじゃんっ!」
「・・・そういう平熱の憶え方もあったのね」
「ほらっ早くベッドに行って寝ろっ、あとで薬持ってってやっからっ!」
「んー・・・」

久保ちゃんはノソリとソファから身を起して寝室に向かって歩き出す。でっかいくせして身が軽いのでひょうひょうと見えるのに今日はのそのそと動いて見える。やっぱりダルイんじゃん。無自覚にもほどがあるっての!

熱冷ましの薬ってあったけ?薬飲むんだからおかゆかなんか食わせた方がいいよな、あ!その前にアイスノンだ、頭冷さねーとな!、あと必要なのなんだっけ・・・?

久保田を看病すべくバタバタと走り回る時任だった・・・


* * * * *


寝室に入って上着を脱いでランニングと下穿きだけになってベッドに横たわる。
確かにダルく頭も痛む。普段体調なんて気にしないのですっかり鈍くなってたようだ。だがそこまで熱が高いとは思わなかった。それを指摘されるとも思わなかった。そういえば、熱があることを誰かに指摘されるのって初めてかも・・・。

ガチャッ

時任が部屋に入ってきた。手にはアイスノンとコップを持っている。

「久保ちゃん薬と水。食前でも大丈夫って書いてたから飲めよ」

もともと食生活が不規則なので常備している解熱剤は食前食後関係ないものだった。俺は知っていたけど時任はそこまでキチンと確認してくれたらしい。体を起して時任から薬と水を受け取り飲み下す。その間に時任はアイスノンを枕元にセッティングし、いつでも飲めるように枕元にポカリのペットボトルを置く。薬を飲んで再び横になると時任が額に冷却シートを張ってくれた。ひんやりとして気持ちいい。これも冷蔵庫に常備してるやつだ。

「・・・慣れてるみたい」
「あ?何が」
「看病」
「あぁ・・・そっか?」
「うん、意外にも気が利いてて手際がイイ」
「意外はよけーだっつの、第一、最初俺を拾って看病してくれたの久保ちゃんじゃん。そのとーりにやってるだけだぞ」
「・・・そいやそうだっけ」
「ボケるにゃ早えーって(笑)、メシ食えそうか?」
「あんまり食べたくないかな・・・」
「んじゃ暫く寝とけよ。それまでにおかゆでも作っとくから起きたら食えよ」
「うん」

時任が俺の頭をくしゃりと撫でてくれる。いつもとは逆だ。人に世話されるのって気持ちいいもんだね。人っていうより時任だからかな・・・。そんなとりとめのないことを考えながら大人しくベッドのなかで目を閉じる。

熱の高かった久保田は深い眠りに落ちていった・・・


* * * * *


時任の甲斐甲斐しい看病のせいもあって、久保田は翌日には熱が下がりほんの微熱程度になっていた。

「すぐ治って良かったな!ま、俺様の看病のお陰だな!」
「うん、ありがとね」
「にしても何で熱だしたんだ?こんなあっついのに風邪もねーよなぁ・・・」
「あー・・・多分怪我のせいだと思う」
「怪我?」
「ほら、邂幸の牙から逃げ出す時に銃弾が掠ったっからそのせいじゃない?掠りキズだったけど銃弾のキズって熱出しやすいから。ちゃんと炎症止めの抗生物質飲んでたんだけどなぁ」
「・・・ってもう1週間も前の話しじゃん。そんときからずっと調子悪かったんかよ」
「いや?そんなことは無かったけど」
「そんなことあったから昨日みたいな高熱が出るんじゃんっ!!!ずっと調子悪かったのにちゃんと寝ないでふらふらしてっから悪化したんだろっ!!!」
「・・・なのかな?」
「もういいっ!久保ちゃんの大丈夫は信用ならねーのが良ーくわかった!!」
「酷いなぁ、ホントにヤバくなったらちゃんと休むよ?」
「どーだかなっ!ったく野生の動物じゃねーんだから痛いときは痛いって顔しろよ。でねーと看病できねーじゃん・・・俺がいんのにさ」
「うん・・・」
「ホントに久保ちゃんは俺がいねーとしょーがねーのなっ」
「かも」


怪我の話しをするとこいつは怒るだろうなぁと思ったけどやっぱり怒られた。適当に誤魔化さなかったのは実は怒られたかったのかもしれない。お前はいつも怒ったり笑ったりいろんなものを教えてくれる。

でも看病の仕方は俺が教えたらしい

それを考えると胸がじわりと暖かくなる

顔も自然と綻んでしまう

「久保ちゃん何笑ってんだよ」
「んー、気分が楽になったなぁって思っただけ」
「そか、良かったな!」

うん、良かった。

お前に逢えて、ね・・・


(終)
 
テレビで子供の学習能力についてやってた番組で冒頭のようなことを言ってたんですよ。んで時任はあんなに真っ当なのは誰に教わったのかな〜って思ったのが元ネタです。まあアキラさんじゃないとは思うよ、安心しろ久保田(苦笑) 子供が何ヶ月で生まれるかすら知らない時任は人の平熱も知らないんじゃないかな。そう思ってあーいう久保田の平熱の割り出し方をしました。この部分は結構お気に入りですv

2007.4.2
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