うそつき | ||
※麻雀放浪記のネタバレをしていますので、これから読もう、もしくは観ようとする方はご注意ください。 リビングで久保ちゃんとボケッとテレビ観ていたら『麻雀放浪記』ってのがやっていた。白黒で暗いから変えようと思ったら、久保ちゃんが『この原作好きなんだよね』と言うから観てみることにした。 観てみると・・・麻雀をやるために恋人を担保にして借金したり、麻雀で家を巻き上げたり、最後の方では麻雀の最中に爺さんの麻雀士が役満を仕上げたとこで死んでしまい、仲間に金を取り上げられ家の前に放置されちまう。その様を仲間が見ながら『いい麻雀だったぜ』なんて呟いている。そしてまた麻雀をするため家に向かう、そんな終わりだった。 暗い・・・暗すぎる・・・しかも救いがねぇ・・・ 麻雀のために恋人に『女郎になってくれ』なんて言う奴は信じられねーし瞬殺もんだと思う。爺さんもすんげー役作って死ぬという最期も確かに満足かもしれねーけど、家の前で爺さんが死んでるのを見つけた奥さんはどうすっだろう。そう思うと俺だったら、こんな死に方は、嫌だった。 でも久保ちゃんはこういうの好きそうだよな・・・ 「なぁ、久保ちゃんはこの爺さんってどう思う?」 「なかなかイイ最期だよね」 「どこがだよっ」 「役満を作って息果てるなんて麻雀打ちにとっちゃ最高よ?」 「わっかんねーよなぁ・・・」 「分からない方がいいんでない?それが健全」 「・・・久保ちゃんは何でそんなに麻雀が好きなんだ?すっげー賭け事好きだよな」 「賭け事が好きというか・・・生き物と向き合って生きてるって感じがイイんだよね。牌を囲んで相手の手を読んで、場の牌を読んで、お互いを出し抜きあって、せめぎあう。勝つか負けるかギリギリのとこで向い会えるのがイイ。こう、生きてるって実感できるから」 「ふー・・・ん・・・」 「そして自分が思った通りの手が来たときは堪らない快感だぁね。これは止められない」 「・・・・・」 「金を稼ぐだけなら株なりなんなりいろいろあるけど、あの感じは生きてる者と向かい合ってやらないとならないから、だから麻雀は好き」 「・・・あんな爺さんみてーに死にたいってのかよ」 「・・・そう思ってた時もあったかな」 「・・・・・・・・・・・・・・・・」 やっぱり・・・ 久保ちゃんはなんかふらふらしていて、ふと気がついたらどっかに消えてしまうようなとこがある。まるで元からいなかった人間みたいに。久保ちゃんも何時死んでもいいみてーなこと言うし、痛みとかに鈍感だし、黒服とドンパチやってても危ねーって思うことが多い。あんま自分を守ったりする気がねぇみたい。爺さんみたいにいつのまにか俺の知らないとこで死んじゃってるってのもすごくありそうな感じがする。考えただけで腹が冷えて重くなる・・・。 なぁ、身包みはがされた爺さんを見た奥さんの気持ちって考えたことあるか? 辛いに決まってんじゃん。 自分が奥さんの立場になるって考えたことねーのかよ。 ・・・俺はあんなふうに死ぬつもりはねーけどさ、有り得ねー話じゃない。 俺達はそういう生活をしている。 それなのにあんなこと言うなんてデリカシーが無いってのにも程がある! ・・・・なんかだんだん腹が立ってきた。 「・・・もし、久保ちゃんがある日俺の前で転がって死んでても、ぜってー泣いてやんないかんな」 「・・・うん」 「抱き起こして家に運んだり、埋葬とかもしてやんねぇ」 「うん」 「見た瞬間、キッパリお前のこと忘れてやるからな」 「・・・・・・・・・」 「お前と出会ったことも、一緒に過ごしたことも、全部、忘れてやる」 「・・・・・・・・・」 「覚悟しとけ」 脅すように睨みつけながら宣言してやった。 死ぬってそういうことだ。久保ちゃんの俺よりちょっと低い体温も体に染み付いた煙草の臭いも全て無くなっちまうんだ。思い出は残るなんてよく言うけど、思い出の中の久保ちゃんはもう久保ちゃんじゃねー。どんなに好きでも大事でも思い出なんてあやふやなもんはいずれ消えるかもしんねーし、俺ん中でちょっとずつ変わってくんだ。そしたらもうそれは久保ちゃんじゃねー。目の前にいる久保ちゃんが全てで、それ以外は、久保ちゃんじゃない。だったら忘れてしまったほうがいい。・・・だから、生きて、俺の前にいるのが、大事なんだ。 「・・・それは・・・嫌かも」 「んじゃせいぜいあんな死に方しねーよー頑張れよなっ」 「うん・・・」 本当はどう思ってるか知んねーけど、とりあえずは『うん』って言ってくれたことにホッとする。『忘れてやる』なんてホントは嘘だ。憶えていられたらずっと忘れないに決まってる。けど、今の俺じゃその保障はない。ホントに忘れてしまうかもしれねぇ・・・。 ホントにそうなったら俺はどうなるだろう? 考えてもどうなるかなんてわかりゃしねー ま、そうならないよう見張ってやるしかないよなっ、うん。 * * * * * * 『・・・そう思ってた時もあったかな』って言ったら、時任がむぅって顔をしてこちらを睨みつけてきた。こういうこと言うと怒られそうだなって思ってたけどやっぱりそうみたい。うーん、怒ってるよなぁ・・・ そう思ってたら『忘れてやる』なんて叩きつけるように、俺のことを睨みつけながら宣言された。『お前は俺がお前のことを忘れていいのか!』って脅すように言ってるくせに、言った本人の方が傷ついたような顔をしていて目が不安に揺れていた。怒られると思っていたけれど、怒るというよりは不安にさせたらしい。死んだ後ならどんな風になっても構わないと思ってたけどね・・・ だから、ホントはどうでもいいのに『嫌だ』って嘘をついた。 そしたらホッとしたように時任が笑ってくれたのにホッとする。 本音を言えば看取ってもらいたいんだけど、それを言ったら怒るだろう。『老衰で死ぬから看取ってね』といったら怒られずにすむだろうか?でも俺たちがそんな最期を迎えられるとは到底思えない。それこそ映画の世界だ。 死んだ後などどうでもいい。煮るなり焼くなり、それこそ死姦されても別にイイ。どうせ死んでるんだし。それならどう死ぬかのほうにこだわりたい。そういう意味ならあの爺さんの死に方なんて最高だ。役満をを完成し勝ちを実感しつつ、生を実感しつつ死ぬなんて願っても無い最期だ。 けど、あの爺さんのような最期を迎えた俺を見たらあいつはどうなるだろう。『全て忘れてやる』と言うがそれもいいかもしれない。もし俺が看取る側だった場合どうなるかなんて想像したくもない。そんな目にあわせるなら俺のことを全て忘れてしまうほうが楽だろう。 全く忘れられるわけじゃない。過去の記憶の無い今でも時折りフラッシュバックしたり何かにうなされている。空白の記憶の中に暗い影があるみたいに・・・。 俺の死があいつの中に暗い空白を落とすのかと思うと、それも悪くない。 下手に思い出になるより、あいつの深く、消せないどこかに俺が棲みつくのだ。 そう思うとじわりと腹の底が熱くなる・・・ こんなこと考えているなんて知られたらどうなるだろう。 怒るか、傷つくか、悲しむか、もしかすると泣くかも・・・ お前の泣く顔も傷ついた顔も見たくない だから、嘘をつく できだけ、俺の本音はバレないように、ね・・・ (終) |
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ある日チャンネルを回してたら麻雀放浪記がやってたので観てみました。そして久保田は時任と出会わなければあの爺さんみたいな最期を迎えてそうだなって思ったのが元ネタです。 今の久保田はあー言ってて株とかしなさそうですけど、7年後くらいの落ち着いた久保田は株とかしてくれてないかな。リスクが大きく賭博の快感が味わえるけど安全なので。スリルを求める性は変えようがないけど時任との穏やかな時間の方を大切にして欲しいので、あんま物騒な賭け麻雀はしてほしくない・・・(願望) ※朝、こっそり修正し時任サイドを入れました。そしたらどっちもうそをいってることに・・・時任はこんなこと言わないって思った方はすんません。なんとなく、私はこう思っただけです。 2007.4.1 ←エイプリルフールに合わせてupしました。 |
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