★ タコさんウィンナー ★


 ある日の夕食、珍しく家主たる叔父の葛西が台所に立ち何やら作っていた。
 そして食卓に並べたのは赤いウィンナー炒め、 それもただの油炒めじゃなく…

「…可愛いね、コレ」
「だろ?」

 なんと足が8本ある。
 身の半分くらいまで切れ目を入れて8本足となっていた。

「足が8本て…もしかして、タコ?」
「まぁな、いわゆる『タコさんウィンナー』ってやつだ」

 タ コ さ ん ウ ィ ン ナ ー

 この咥え煙草が似合う燻し銀の不良刑事が言うことか?しかも作ったって?
 どんな顔して作ったんだか見てみたかったかも。

 甥は無表情に驚いていた。

「・・・食べてもいい?」
「おう、食えや」
「イタダキマス」

 やけに可愛いソレを、一つ箸でつまむ。
 8本の足は可愛らしくカーブしており、立たせることもできた。ちゃんとタコのかたちに見える。鉢巻をつけたいくらいだ。葛西さんて滅多に台所なんか立たないけど、イカサマできるだけあって器用だよね・・・。

 甥はタコウィンナーの出来栄えをこれまた無表情に感心していた。

 食べるのがちょっともったいない。そんなふうに思う自分を珍しく思いつつも、ポイっと口に放り込み、噛む。ぷちりと皮がはじける感触がした。そして咀嚼する。口の中に塩と油と肉の味が広がった。
 
 そこで初めて甥の表情が動いた。僅かばかり眉が下がった。

「…ウィンナーの味だね」
「…そりゃウィンナーだからな」
「可愛くて、食べるのに少しばかり罪悪感を抱かせるくせに、それでも食べたらやっぱウィンナーの味しかしないって、なんか騙された気がする」
「何だそりゃ」
「どうせなら本当にタコ味とか、全く別の味だったら食べた甲斐もあるのにね」
「文句言うなら食うな」
「文句じゃないんだけどねー、美味しいし。でもタコの形にする意味って何だろうって」
「そりゃ・・・」

 子供ならタコの形を見て単純に喜ぶんだ。
 そして親は子の喜ぶ顔が見たくて作るんだ。

 そう、すぐ頭に浮かんだが、何も言わずにのみこんだ。

 なぜなら

 俺はこいつの親じゃねぇし、こいつも俺の子供じゃねぇ。
 こいつが喜ぶことを期待して作ったわけでもない。

 ダメ中年叔父とひねた甥の間に横たわるタコウィンナーの意味

「・・・全く意味なくはねーぞ」
「ん?」
「食事中の話題くらいにはなったじゃねーか」
「……………」
「……………」

 ヒネクレた甥は細い目をさらに細めて無くなっている。驚いてるのだろう。
 らしくないことを言った自覚のある叔父はちっとばかしいたたまれない。

「・・・ナニその『熟年離婚目前夫婦の悪あがき』のような発想」
「・・・せめて『ひきこもり息子を持つ男ヤモメ』の発想くらいにしとけ」

 どっちも似たようなもんである。

「・・・まぁ、麻雀よりかは食事中の話題に相応しいかも」
「・・・あー、だろ?」
「でもさ」
「ああ」
「くくく」
「ふん、我慢しなくてもいーぞ」
「・・・ごめん・・・なんか、、笑える」
「・・・俺もだ」

 まったくもってらしくない会話だ。
 二人して笑ってしまった。

「ねぇ、何でまたタコウィンナなんて作ったの?」

 麻雀雑誌にタコウィンナーがでてくる漫画があって、読んだら妙に食べたくなって、『そういやうちの甥っ子はこんなん食べたことなさどうだな』と思ったら、つい赤ウィンナを買って、ついタコにしてしまった。
 別に喜んだ顔が見たいだとか、驚かせようとか考えた訳ではない。
 あえて言うなら食べたかっただけだがそれだけじゃ作らないだろう。第一この歳でタコウィンナーが食べたかったからなんて言いにくい。
 自分ですらはっきりした理由がわからないのに答えられるはずが無い。

「・・・たまたまだ、たまたま」

 そう、適当にごまかして、ぐいっとビールを呷りタコウィンナーを一つ口に放り込んだ。

 うん、美味い。




 END
   
深/夜/食堂を読んでたら出来ちゃった☆な小話です。
葛西さんがタコさん作るわけないと思うけどカレー作れるんだから大丈夫よ!親父スキーの妄想ということで許したって!!
漫画では食堂で出されたタコさんウィンナーをヤクザのおっさんが食べてました。あーいう可愛いのをオジサンがつまんでるのがいいんだよなー、萌え。
2009.7.4
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