とりあえず。



「#%HSZ*$※zzzz!」

 クリスマスのイルミネーションがきらめく冬の繁華街。とある店の前でそれらをぼーっと眺めていたら突然女の叫び声が聞こえた。

『…ひったくりか?』

 クリスマスの浮かれたカップル狙いの輩もいるかもしれない。そう思いながらそちらに目をやると女が男に向かって叫んでいるのでよくある痴話喧嘩のようだった。赤と緑がおめでたくもキラキラ輝いた町になんとも不似合いな二人。道行く人がちらちらと見ていたがお構いナシに女は続ける。

 話す、というより、怒鳴る。もしくは叫ぶ。
 
 ワタシノコトアイシテイナイノネ
 バカバカモウシラナイ
 ワタシノコトドウオモッテルノヨ
 
 答えを求めていない。一方的な叫び。理解できない言葉たち。
 男は何も言わずに黙って聞いていた。呆れてるのか、困っているのか、悩んでいるのか、こちらからは顔が見えない。
 暫く叫び続けた女はやがて落ち着いたのか静かになった。
 そのとき、男が息をすった。
 さて、何と語りかけるのか。暇にあかせてすっかり野次馬気分で眺めていると

 トン、肩に軽い感触

「久保ちゃん、お待たせ!」

 振り向くと時任が笑っていた。待ち人来る。バイトの後食事しようとここで待ち合わせていたのだ。
 走ってきたのか軽く息があがっていた。鼻も少し赤い。
 俺相手にそんな急がなくてもいいのにね。

「悪ぃ、ゲームに熱中してたら家出んの遅くなっちまった」
「平気、俺もさっき来たトコ」
「そか?」

 時任は10分の遅刻、対して俺はほぼ時間通りに到着していた。10分くらいは”さっき”と言ってもいいだろう。

「んじゃ行こか」
「ん、…あそこスゲェな」

 時任の視線の先には抱き合ってる男女がいた。なんとさきほどの二人だ。
 あんなに険悪だった二人が今では抱き合ってラブシーンを演じているのだ。なんと変わり身の早い。
 ちょっと目を離した隙に何があったのか。
 衝撃の告白?プロポーズ?それとも黙って抱きしめただけ?
 何をすればあの女を宥められたのだろう、聞き損ねたのがちょっと残念かも。

「さっきまでは大喧嘩してたんだけどね」
「嘘だろ?」
「ホント」
「へぇ…」

 時任は信じられないという顔でまた横のカップルを見やった。まだ抱きあっている。自分達の他にもちらちらと見る人はいれど非難する感じはない。さすがクリスマスといったところか。喧嘩してるよりかは相応しい。

「アレあったかそうね、俺達もやる?」
「バカなこと言ってねーで、ほら、行くぞ」
「ほーい」

 あったかそうな二人を指差してふざけてみたら時任に軽くこづかれた。
 そして二人並んで歩き出す。

 そう言えば時任と喧嘩したことあっただろうか。
 あると思えばあるし、ないと思えばない。喧嘩というより怒られたことはたくさんあったけど。
 それも全て時任が自分に向かって何かを伝えようと声を荒げただけ。
 そして自分はそれを黙って聞いて「うん」とか「そうかも」とか返事をしただけ。
 時任は色んなことを伝えようとしてくれたけど自分から伝えたことあっただろうか?
 自分から時任に何かを伝えた憶えはない。

「久保ちゃん?」

 凝視しすぎたのか時任が視線に気付いて訝しげにこちらを見上げた。
 大きなつり目を見開いて首をかしげてこちらを見ている。

 時任を見るたびに何かがこみあげる。

 何かが胸に宿る。

 これを何と言うのか。

 胸の中をさぐるが言葉にならない。

 言いたいような、言いたくないような、そんな何かだ。

「どしたんだよ」
「いや、言ってないなーって…」
「何を?」



「めりーくりすます?」




 言葉を知らない男はこれが精一杯。




 END
 
時任に対して抱く感情をなんて言うかわからない。好き、でも、愛しい、でも違う気がする。久保田も私も言葉を捜してる最中なのかなーと、それだけのひとり言SSでした。昨年書いといてちゃんと纏めなくて今頃UP。あっはっは。
 これ書くきっかけは、先日偶然会った友人の痴話喧嘩に巻き込まれ軽く仲裁というか緩衝材の役をしたから。上みたいに激しいのじゃなくこんなことで何喧嘩してんのよ、ヲイ。ってな内容でいつの間にか仲直りしてました。だったら廻りを巻き込むんじゃねーと言わずにはいられない。ネタにさしてもらう私もどうかと思うが(苦笑)

2009.1.13
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