Wind a screw!

「久保ちゃん!これ壊れちまった!!」

 朝っぱらから騒ぐ時任に起された。バイトの徹夜明けでかなり眠いんですけど。まぁいいけどね。

 持ってきたのは腕時計、けっこう前に麻雀の掛け金代わりに手に入れたものだ。負けがこんでるくせに何回も挑戦するもんだから文字通り身包み剥がされた奴がいたのだ。シンプルなデザインで一見そうとは思わないが非常に高額なブランド時計(らしい)。
 鵠さんとこ持って換金しようと思ってたら、たまたま時任がそれを見つけた。
 シンプルなデザインでお気に召したらしい、そのまま時任のものとなった。他人の(しかも男)がつけてた物が時任の腕を飾るなんてちょっと気に食わなかったが、時任が気に入ったのなら仕方ない。でも時任が早々に飽きて付けなくなったからそのまま忘れてた。久々に付けようとしたらしい。

「見たら止まってやんの、・・・電池切れか?」
「どれどれ・・・」

 文字盤を見ると秒針が止まってる。裏のムーブメントも止まっていた。ちょっと振ってみたら中の振り子が揺れカチカチと動き出した。
 何のことはない、ネジが巻かれてなくて止まってるだけだった。

「ネジ巻けば動くよ、コレ」
「ネジ?」

 ああ知らなかったのか。
 ネジ巻きなんて微妙な操作は時任の右手じゃ出来ないので教えなかったのかも。

 リューズを引き出してネジを巻く。手前に回して少し戻すを繰り返す。回しすぎでネジを壊す可能性があるので回しては少し戻すのがいいらしい。十分に巻いたら携帯画面で時間を確認して合わせれば完了。

「はい、もう大丈夫」
「サンキューな!」

 時任が嬉しそうに受け取った。すぐつけずにひっくり返して時計の裏のムーブメントを見ていた。歯車と歯車が噛み合った複雑な動きが面白いのだろう。

「これ電池じゃねーんだ。でも前はネジなんか巻かなくても動いてたぞ?」
「自動巻きだから」
「自動巻き?」
「そ、身に着けてればローターが振動して勝手にネジが巻かれるの」
「おー、賢いんだな」
「そね、でも今みたいに身に着けてないと止まるからこうやってネジ巻くの」
「ふーん、なぁ、どんぐらいほっておくと止まるんだ?」
「機種にもよるけど、一日か二日くらいが限度かな」
「わかった、気ぃつける」

 時任はひとしきり眺めた後、腕に時計を巻きつけた。

 時任の腕にはめられることでローターを振動させゼンマイを巻き上げ命を吹き込まれるネジ巻き時計

 時任の腕にあるからこそ動き出し

 時任の腕になければ止まってしまうソレ

 …どっかの誰かみたい。

 時任と出会う前はどうやって動いてたかよく憶えてなくて

 時任と離れれば壊れてしまい

 時任限定の出来の悪い時計みたいなオレ

 そのくせ自分からは止められないし止まらない

 全てが時任次第

 すごい親近感

 なのに俺以外のソレを身に着けるんだ。・・・ちょっと面白くないかも。

「時任」
「あ?」

 手を伸ばしてベッドに腰掛けてた時任をベッドに引き倒し、乗り上げて腕を拘束する。

「おいッあにすんだよッ!」
「それ、没収」

 時任が暴れて抵抗する前に素早く時任の腕から時計を外しポイと放り投げる。

 時任に時計は要らない。

 何もいらないでしょ、俺以外は。

「…なんなんだよ」
「別に」
「まぁーたろくでもねーこと考えたんだろ」

 時任が呆れたような顔してこっちを見上げた。顔に『馬鹿だなぁ久保ちゃんは』と書いてあった。妙に聡いお前のことだから俺の本音を透かし見されたかも。

「…ロクデモないことは確かかも」

 そのロクデモないことを誤魔化すために更にロクデモないことをしかけることにする。上体を倒し時任の上に覆いかぶさりTシャツの中に手を入れた。

「ちょっこらっ!何朝っぱらからサカってんだよ!」
「時計だけじゃなくこっちも構ってよ」
「関係ねーだろがッ放せよッッ」
「えー俺のネジも巻いてよ」
「勝手に自分で巻きやがれ!」
「自力じゃ無理ですー」
「なら進化しろ!電池式になれッ!ソーラー式になれッ!」
「それこそ無理な相談じゃない?(笑)」

 軽口を叩くとはまだ余裕だね。

「お前が巻いてくんないと、止まっちゃうよ?」

 笑いながら、でも若干の本気をこめて囁いてみる。
 そしたら時任はムッというように眉間に皺を寄せてしまった。

 あ、何か怒られそう。

「俺は、毎日巻いてなきゃなんねーような時計はいらねーぞ」
「・・・・・・・」
「そんなん面倒なだけじゃんか」
「まあ、そうね」

 確かに時任は普段から時計は身に着けない。気が向いたら付けるだけ。
 ただの例え話なのに、なんだかもう捨てられたような気分になる。

「・・・でも、自分で勝手に巻くやつなら持ってやってもいいぞ」
「自動巻き?」
「それなら持ってるだけでいいんだろ?」
「毎日持っててくれるんだ」
「まあな」
「・・・・」

 現金にも拾われた気分になった。
 うーん、お前ってばどれだけ俺を振り回せば気が済むのかね。
 悔しいので唯一主導権が取れる手段をとらせてもらおうか。

 手を止めたので油断してる時任から一気にTシャツをひっぺがす。

「ちょっ、ヤメロって!!」
「駄目」
「俺は出かけてーんだって!」
「駄目ー、持ち主の義務を果たしてくれないと」
「何のことだよッ」
「揺らしてよ、俺のこと」
「!!!」



 自分で止まることのできない臆病者

 止まるも動くもお前次第

 お願いだから飽きずにずっと持っててね



 その後、しばらくはその腕時計は時任の腕を飾ってたけどある日本当に壊れたので捨ててしまった。

 こちららの歯車は無事に動いている、今のところは・・・ね。






(終)

 
合同誌のタイトル「Mr.Yellow=臆病者」にひっかけて考えたネタでした。でも途中でライブパンフネタに変えました。オマケCDに入れようとしたけど間に合わなかったのでこちらにup〜。
因みにイメージしたのはビンテージの自動巻き時計で5〜60万くらいします。私は持ってません。腕に何かつけるのは好きじゃないので懐中時計とかのが好き。腕時計はアクセサリーと思ってます。
そういや心理テストで腕時計=異性ってのが昔あった。これって恋人にも変換出来るのか?よくわからんす。

2007.03.28
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