突発駄文「あいつ」+α
家でだらだらテレビを見ていたら携帯電話が鳴った。
葛西さんだった。

「もしもし、葛西さん?」
『よぉ、誠人元気にしてるか?』
「ま、ほどほどね」
『時坊は?』
「あいつは元気よ、話す?目の前にいるけど」
『おう、代われや』

目の前にいた時任に携帯電話を渡す。

「ほい、葛西さん」
「ん」

葛西さんはこうして時折り特に用も無いのに電話をしてくる。
不詳の甥っ子の様子が気になるのだろう。
でも特に話が弾むことは無く、大体『元気か?』『うん』『そうか』で切れる。
まあ保護者と被保護者の会話なんてそんなもんだろうって思ってたらそうでもないらしい。
目の前では未だに会話が続いていた。

そういえば葛西さんとの間であいつに関する会話が増えている。
会話の無い親子や夫婦がペットを飼うと会話が増えるっていうけどそんな感じ?
あいつの方でも最初はあんなに警戒していた葛西さんに何時の間にか懐いててあんなふうに楽しそうに話してるんだからわかんないもんだ。

「んじゃな!」

ピッ♪

携帯を俺に戻した。

「おい、久保ちゃん」
「ん?」
「さっき俺のこと”あいつ”って呼んだよな」
「そうだっけ」
「言った!・・・それ止めろ」
「何が?」
「俺んこと”あいつ”って言うの止めろ」
「・・・」
「目の前にいんのに、”あいつ”って言われんのって、なんか物みてーで嫌だ」
「・・・」
「名前で呼べ、名前で!」
「・・・ん、分かった」
「わかりゃいい」

鼻息荒く、ふんっと息をついてゲームをすべくテレビの前にドカッと座る。

・・・物、みたいに扱った憶えはないんだけどね、猫扱いはしてるけど(笑)

確かに目の前にいるのに”あいつ”って言うのは相応しくない

もっと離れた場所で使うのが普通だ

でもつい、”あいつ”って呼んでしまう

つい言っただけかもしれないが、実はよく使ってるかもしれない

何故だろう・・・

うーん、あんまり考えたくは、無いな

とりあえずはご機嫌ナナメになった猫の機嫌をとってみよう

「時任〜、コーヒー飲む?」

ちょっと拗ねてる猫にミルク多めのコーヒーを献上することにした。
これでちょっとは機嫌直してよ
ねぇ、時任?


****************


久保ちゃんは時たま俺のことを”あいつ”って呼んでるのを知ってる。

”あいつ”って呼ぶだけじゃなくなんか俺と距離を置きたいようなことを言ったりする。

目の前にいるってーのに失礼なやつだ!

どっかの誰かみてーに言われりゃ誰だって不機嫌になるっつーの!

・・・ほんとにどっかの誰かを思い出してんのかもしれないよな・・・

久保ちゃんはたまに、特に雨の日なんか、遠くを見るようにしている。

雨の日になんかあったんだろーなーってくらいにしか思ってなかったけど、実は誰かを思い出してるのかもしれない。

・・・聞いたとしても答えてくれるとは思えねーけどな。

そんなふうにぐるぐる考えてたら久保ちゃんが猫撫で声で話しかけてきた。

「時任ー、コーヒー飲む?」

なんかムカつくので返事をしないでやった。

返事しなくてもどうせ持ってくるに決まってる。

久保ちゃんが俺を甘やかしてくれてるくらいは自覚がある。
我がまま言っても大抵聞いてくれるし、ベタベタ触ってくるし、いろいろ構ってくれる。

けど、だからこそ、余計にわかんねーんだよな・・・

俺がいるかいないか分かんねーみてーなこと言うの

なんか、こう、胸にくる・・・

「はい、時任」

そう言って久保ちゃんが俺にマグカップを差し出した。

「ん」

礼も言わずに受け取って口をつける。

ん?

「甘いっ、これココアじゃん!」

びっくりして久保ちゃんを振り返った。
なんかニヤニヤ笑ってこっちを見ていた。

「ほら、今日バレンタインデーじゃない?俺のキ・モ・チ♪」
「・・・野郎からもらってもなぁ・・・」
「あ、男女差別」
「当然だろ?」
「酷いなぁ、んじゃ返してよ」
「もう飲んじまった」

クスクスと何事もなかったように笑いあう俺達。

隣にいるのに近くて遠い俺達。

でもこんなふうに思うのは気のせいかもしれないし、実際はよくわからねぇ。

でも久保ちゃんは俺の隣にいる。

俺も離れるつもりもない。

それならどうでもいいのかもしれない。

「久保ちゃん、サンキューな」

機嫌を直して言ってみた。
久保ちゃんは目を細めてちょっと嬉しそう。

ま、いっか。

手の届く距離に久保ちゃんがいる

それが、一番大事。





(終)

 
峰倉.netのコラムを読んで急遽日記に上げた駄文に時任verをくっつけて無理矢理バレンタインデーネタに仕上げました。そのまま書きっぱなしにするのももったいなかったし、丁度バレンタインデーでイベント時期だったし、拍手をいい加減代えたかったので再利用。
精神的な距離と実際の距離、近いようで遠く感じるのは同一人物じゃないので仕方ないと思う。それなら傍にいたほうがいいと思うのです。どんなに傷つけあっても離れるよりは傍にいたほうが修復できる可能性が大きいので。この二人の場合は特にね。
頑張れ時任!久保ちゃんを離すなよ!そして久保田!いい加減離れられないって自覚しろ!(笑)

2007.2.14
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