君がくれたもの 時任ver |
久保ちゃんにはいろんなもんをもらった。 服だったり、食いもんだったり、ゲームだったり、携帯だったり、・・・居場所だったりな。 でも誕生日にはなんもやらなかった。フツーはなんかやるらしーのに。 今度の俺の誕生日に久保ちゃんはまた何か俺にくれようとするだろうから、そのお返しとしてなんかやりたいんだよな でもよ、何がやれる? だってよ、今俺が持ってる物っていったら全部久保ちゃんからもらったもんなんだよな。 俺自身の物っていえるのってこの体ひとつのみ! 何か買おうにも俺が稼いだ金じゃねーしな。稼ごうにもモグリんとこくらいしか思いつかねーし、けどそれじゃ久保ちゃんにバレバレだしな・・・ こりゃ体で返すしかないな!何すりゃいいかなって、遊びに来てたおっちゃんに相談してみたらすっげー変な顔をされた。そんな変なこと言ったか? 「体はやめとけ、あー、バイトしたいんだったら俺が探してやっから、な?」 とやけに真剣な顔をして言われた。実は久保ちゃんにやりたいものがあるのでバイトが出来るならそれが一番だ。ありがたくお願いすることにした。 次の日に『引越し業者の一日手伝いがあっけどやるか』って連絡がきた。重労働だけど時坊の怪力なら余裕だろうし、夜までやるので手当ては結構いいし、帽子被るから顔が隠れやすいし、二人以上で行動するから危険もないだろ、ってことらしい。俺のためにイロイロ考えてくれたんだな、おっちゃんらしい。ありがたくやらせてもらうことにした。 バイトの日は9月6日に決まった。なんとかギリギリ間に合うな! その日は滝さんとこに遊びに行ってることにした。ゲームの新作をやりこむことにしたと久保ちゃんに話したら『ふーん・・・そう。楽しんできなね』って全然そう思ってないような調子で言われた。何不機嫌になってんだ?? そしてバイト当日。確かに結構な重労働だけどこの手のお陰で余裕だった。一緒にまわった人には『細っこいから心配だったけど俺よりか力があるんだもんな。驚いた。助かったよ!』って褒められた。へへん、この手もたまには役に立つんだな。 最後に社長さんから日給を受け取った。夏休みが終わってるのでバイトする学生が少なく人手不足らしい。よければまたおいでと言ってくれた。ちょっとくすぐったかった・・・。 * * * ガチャンッ 「ただいま〜」 玄関のとこで声をかけるとリビングの方から「おかえり」って久保ちゃんの声がした。バイトで汗だくになったのでバスルームに直行して汗を流す。さっぱりしてリビングに行くと久保ちゃんがソファーで煙草をふかしながら近代麻雀を読んでいた。 「楽しかった?」 「おう」 「そうだ、時任、8日の夜出掛けるから。俺は代打ちバイトで7日の夜からいないから駅のとこで5時に待ち合わせしよ」 ふーん、7日からいねーのか。まぁいつものことだけど・・・ 「さびしい?」 「・・・ぶわぁーか、ガキじゃあるめーし、んなんあるか」 「そお?」 「たりめーだろっ」 ちっ、にやにや笑ってやがる。 ふんっ、考えてみれば久保ちゃんがいない方が都合がいいしな。5時に待ち合わせなら余裕でプレゼント買えるもんな。 にしても外で待ち合わせなんて珍しいよな 「どこ行くんだ?」 「内緒♪」 「何だよ、教えろよ」 「な・い・しょ〜」 「・・・語尾のばすなよ、気色わりい」 「ま、いいとこ連れてったげるから楽しみにしといてよ」 「・・・ん」 誕生日だからどっか連れてってくれるってことだよな・・・ んじゃ待ってるしかねーじゃんか * * * pppppp、pppppp、ppppp.... 9/8当日、首尾よく久保ちゃんのプレゼントを買い終え、待ち合わせ場所に向かってると久保ちゃんから電話がかかってきた。 ピッ! 「久保ちゃん?」 『時任?今どこにいる?』 「今待ち合せ場所に向かってるとこ、あとちょっと」 『あ、こっちから見えた』 待ち合わせ場所の方を見たら軽く手を上げてる久保ちゃんが見えた。人ごみの中でも頭一個ぶん飛び出てるからすぐわかる。背が高いって得だよな。 「待ったか?」 「いや、んじゃ行こうか」 「おう」 そのまま久保ちゃんに連れられ電車に乗り、乗り換えとかして十数分後、見知らぬ駅で降りた。そしててくてくと歩いていく。 「なあ、久保ちゃんどこまで行くんだ?」 「んー、あとちょっと」 「さっきからそればっかじゃん」 「まあまあ、あ、ケンタがあった。夕飯買ってこ、あとどっかでビールも」 「?外で食うんか?」 「似たようなもんかな、あ、ケーキも買おうね」 「・・・でっかいのはパスな」 「えー(笑)」 何だかよくわからないけど誕生日パーティするときみたいにいろいろ買った。途中でケーキ屋もあったので小さ目のケーキも買った。いろいろ買い込んだあと、またてくてくと久保ちゃんの後をついていく。暫くして急に久保ちゃんが立ち止まった。 「ここ」 そこはビジネス街から少し外れた場所にあるけっこうデカイビルの前だった。マンションじゃなくオフィスビルみたいだ。でも最新って感じはしない。新しくもなく古くもない、そんな感じのビル。・・・こんなとこに何の用があるんだ? 久保ちゃんは来るのが初めてじゃないのか、迷うことなくさっとエレベーターに乗り込み9階のボタンを押す。途中で止まることなく目的の階に到着した。そこには3つの扉がありそれぞれ会社名のプレートが書かれていた。 久保ちゃんは一番奥の扉の前に行き立ち止まりポケットをごそごそしていた。その扉のプレートに何も書かれてない。空室ってやつか?ますますわけわかんねー 「あった、あった」 「ん?」 「カギ、今開けるからちょっと待って 久保ちゃんはポケットからカギを探してたらしい、ガチャガチャ扉を開けようとしてる。っつーかなんでカギ持ってんだよ。 ガチャリ 「あづッ!!!」 扉を開けた途端、むわっと熱気が顔を直撃した。残暑厳しいなか無人の室内は熱気がこもっていたらしい。久保ちゃんが急いで電気をつけてエアコンを作動させた。空室でも電気その他は無事らしい。 「今日も暑いね、コーラ飲む?」 「飲む!」 久保ちゃんからコーラの缶を受け取りプルタブを開け一気にのどに流し込む。・・・生き返る。 一息ついて室内を見渡してみる。道路沿いに大きい窓があり落ち着いた色の毛足の短い絨毯と明るいアイボリーの壁紙で覆われた室内は、眺めもよくなかなか良い雰囲気だ。でも空室なので当たり前に何もない。食事をするテーブルも椅子もくつろぐソファも無い。これでは自分たちの部屋のほうが絶対イイ。連れてこられた理由が全くわからない。 「で?何でココ連れてきたんだよ」 「んー、ココで時任の誕生パーティしようと思って」 「・・・だから何でココでやるかがわかんねーんだって!思わせぶりなのもイイ加減にしやがれ!」 「怒んないでよ。もう少しでいいことがあるから。それまでこれ食べながらちょっと待って?」 言いながら、久保ちゃんは新聞紙を広げた床にフライドチキン、お菓子、ビール、ケーキを次々と並べていく。そういやもう6時をとうに過ぎてる。腹減ってきたな・・・。 「・・・ホントにいいことがあるんだろうな!」 「うん、それはホント」 「ふーん、んじゃ食いながら待つか」 床に座り込んでフライドチキンに手を伸ばす。絨毯の上だから座っても痛くない。 「時任」 久保ちゃんがビールを渡してくれた。受け取ると久保ちゃんも自分の缶を持ち上げて俺のにカツンとぶつけた。 「遅くなったけど、誕生日おめでとう」 ・・・朝起きて、今日は俺の誕生日だと思っても全く実感がわかなかった。そりゃ2週間前に決めたんだから仕方ねーかと思ったけど、そうじゃないって今わかった。 誕生日って誰かに『誕生日おめでとう』って言われないと有り難味ねーのかも。 だってよ、誕生日って生まれてからどれだけ生きたかって記録の日なだけだよな。 でも誰かがこいつが生まれて嬉しい、メデタイって思うから誰かにおめでとうって言われるんだよな。 それって、嬉しくね? いいもんかもな、誕生日。なんか嬉しくなってきた。 さっきまでちょい機嫌悪かったけど、久保ちゃんにおめでとうって言われたらすっかりいい気分になっちまうなんて、ちょっと現金だよな。 「へへへ、サンキューな!久保ちゃん」 なんか色々思ったけど、言う必要もねーし、上手く言えねーから簡単にそれだけ言った。 それからは、ここはモグリから紹介してもらっただとか、今日は徹夜マージャンだったとか、ケンタの期間限定商品イマイチだったとか、やっぱスタンダード味がいいとか、そんなどうでもいいいつも通りの会話をしながらそれなりに盛り上がっていた。 「もうそろそろかな」 と、急に久保ちゃんが言い出して立ち上がり入り口へ向かって歩いていった。 もしかして何か届くのか!? テレビで見た中にバニーガールが入ってる特大ケーキとか! それとも出張コーラス隊とか!マジシャンとか! それらなら確かにマンションには呼びにくい ドキドキして待つと パチンッ 突然電気が消えて真っ暗になった! 「!!!久保ちゃん!?」 久保ちゃんが入り口に行ったのは照明スイッチを消すためだった。何のつもりだと言おうとすると 「時任、窓のほう見ててごらん、これが俺の誕生日プレゼント」 そう言って久保ちゃんが窓の方を指差した。見てみると・・・ 「え・・・」 夜空に花が咲いていた。 赤、黄、青、緑・・・ 菊に柳に玉簾・・・ 様々な色と形の大輪の花達 「・・・花火じゃん・・・」 「そ、ココってば花火がよく見える穴場なの」 遠くでやってるのか、打ち上げのドォン、ドォンという音は少ししか聞こえない。 それでも花火は空一杯に広がり、圧巻だった。 「時任さ、前に花火見たいって言ってたっしょ?今年の9/8は土曜日だからどっかで花火やってると思ったんだよね。でも見に行くと混んでるし暑いから室内でのんびり見れる場所を探してココに来たってわけ」 「・・・・・・・・」 「ど?いいことあったっしょ?」 花火の光に照らされた久保ちゃんの顔が、やけに優しくて・・・ 胸がぎゅっとなった。 ・・・ちくしょう、なんか負けた。 「すっげーキレイだな!」 「うん」 「・・・久保ちゃん、ありがとな」 「どういたしまして」 それ以上話すこともなく、二人してただ花火を眺めた・・・ * * * あ、そういや俺のプレゼントやるの忘れてた。 「久保ちゃ・・・」 そう思って見やると腕を枕に寝転んでる久保ちゃんがいた。その胸は上下に緩やかに動いていて・・・ ・・・寝てるよ、コイツ。 やけに静かだなと思ったらいつの間にか眠ってやがる。ま、徹夜あけじゃ仕方ねーか。 あーあ、メガネしたまんまだよ。 ちょいと手を伸ばしてメガネを外してやる。 久保ちゃんのメガネはフレームが少し曲がってる。たまにこうしてつけたまま寝てしまうせいもあるかもしんないけど、ちょっと前に俺が踏んづけちまったせいってのが一番大きいと思う。 久保ちゃんは『平気、平気』って言ってたけどこれって使いにくいと思うんだよな。 普段使ってるのが壊れて今使ってるのはスペアだから取り替えることも出来ない。 だから、誕生日プレゼントはこれって決めてた。 久保ちゃんのメガネ、これが俺のプレゼント バイトが決まった日におっちゃんに久保ちゃんの眼鏡はどこで買えばいいか聞いた。いつも駅前の眼鏡屋で買ってるからそこで久保ちゃんの名前をだして前回と同じものっていえば出来るはずだって言われた。実際行って頼んだら出来るっていうんでプレゼントはこれに決定。ホントは一週間くらいかかると言われたけどなんとか早くなるようお願いして今日受け取ることが出来た。ラッキーだった。 寝てる久保ちゃんのすぐ傍にプレゼントのメガネをそっと置く。 こうしとけば起きたとき久保ちゃんはこのメガネを手に取るはずだ。 新品だって気付くかな? 気付かなかったらお仕置きだな! 気付いたら驚くよな、どんな顔するだろう? 俺も驚かされたんだからお前も驚きやがれ(笑) 俺は滅多に見られない久保ちゃんの驚いた顔を楽しく想像しながら、目の前のプレゼントを堪能した。 俺にとっちゃ生まれて初めての誕生日はすっげ楽しかった。 この日のことはぜってー忘れない ありがとな、くぼちゃん。 (終) |
時任verです。男同士があげるプレゼントって実用的なものかなーって思いこうなりました。公式でのあれもそうですしね。 2007.10.26 こちらへ収納 |