□ 大きな違い □

3月13日ホワイトデー前日

先月も全く同じだったよな・・・

目の前にはホワイトデー用チョコの特設売り場、そこに人並みはずれてデカイ男が一人立っていた。

「限定品って、これとこれとこれだけ?」
「はい、それで全部です」
「VDに比べて少ないんだね」
「そうですねー、2/14ほど盛り上がらないので」
「男はシャイだから、んじゃこれとこれとこれ頂戴」
「ありがとうございます。お返し大変ですね〜」
「いんや?自分で食べるの。どもね〜」

久保田は何気に恥ずかしい会話をしながら会計を済ませて、終わるのを待ってる時任の元へ戻ってきた。

「前回の時と違って今回は待っててくれたんだ」
「今日ならいーんだよ、今日なら」
「ささいな違いだと思うけどね」
「でっけー違いだっ!!」
「そっかなー」

久保田はくすくす笑いながら、時任は青筋立てながら、二人仲良く家路についた。


* * * * *


家に着いたら、久保ちゃんは買ったチョコをテーブルに並べて点検し始めた。

「やっぱVDほど種類が無いし、面白そうなのは無いね」
「ふーん・・・」

見てみると、確かにバレンタインデーの時に買ってきた物より種類が少ないし、ラッピングも凝ってない気がする。あれっ?

「久保ちゃん、これ二つあるぞ」

みんな1個ずつあるのに1つだけ2個買ってるチョコがあった。一番大きく可愛くラッピングされているチョコだった。食べたいだけなら2個買う必要は無いはずなのに・・・

「あ、それ桂木ちゃん用、他の人はともかく桂木ちゃんにはお返ししないとね。二人分のお礼ってことで明日一緒に渡そ?」
「あー忘れてた・・・」

先月のバレンタインに桂木から執行部全員がチョコをもらっていた。『義理だからね!』と言いつつも渡されたチョコは小さめだけど手作りで、可愛くラッピングしてあった。桂木らしい心遣いがちょっと嬉しかった。

「何だよ、そういう時は呼べよ、俺も選ぶの付き合ってやったのに」
「ん〜何となく嫌だったから」
「何が」
「時任が誰かの為にチョコ選ぶ姿を見るのが」

ドキリ、と心臓が跳ね上がった。

久保ちゃんは何でもないような顔をして、するりと、とんでもないことを言う。

「・・・・・ただの義理じゃん」
「義理でもね、嫌」

久保ちゃんはズルイ
肝心なことは何にも言わないくせに、時にこういう思わせぶりなことだけ言うのだ。

「何だよ、俺からのチョコ欲しかったのかよ」

久保ちゃんの思わせぶりな態度にイラついてきたのでズバリと聞いてやった。お前はホントは一体どうしたいんだ?冗談なのか?本気なのか?ハッキリして欲しい。

「うん、欲しかった、2/14にお前から」
「・・・・・・・」

意外にも直球だった。

「あんまり興味ないバレンタインチョコをわざわざ特設会場で買ったのだって、一緒にお前も買ってくれないかな〜って思ったからなんだよね」
「・・・あてつけかよ」
「それもちょっとあるけど、男も女も関係ないんじゃない?ってパフォーマンス」
「俺は出来ねーぞ、あんなの」
「だよねー・・・、恥ずかしがり屋の時任がくれるはずないよね。だから今度は俺から上げることにした。WDにはちょっと早いけど、これ、俺の気持ち」

そう言って久保ちゃんは大量に買ってきたホワイトデー用のチョコを俺の前に差し出した。

「・・・俺はやってねーんだぞ」
「チョコはもらってないけど、別のものもらったし」
「別のもの?」
「お前のファーストキス、あんときお前初めてだったっしょ?」
「!!!!!」

顔が真っ赤になったのが分かった。
事実その通りだったわけで…

「考えてみればチョコよりいいもんもらっちゃったよねぇ」

久保ちゃんはにんまり笑ってこっちを見ていた。俺をからかかうように言ってるけれど、実際は笑ってなくて、目で俺に訴えかける。『お前はどうする?』って…。

冗談で終わらすか、本気を出すか、どうしたい?

俺を探るように、試すように、挑発するように、問いかける。

ではその挑発に乗ってやろう

でもそしたもう後には引けない。

「…そんじゃおあいこだな。おれも久保ちゃんのお初もらったしな」
「俺のお初?」
「そ、お初」

久保ちゃんが何だっけ?って顔をして首を傾げる。

「お前の初恋」

久保ちゃんが目を見開いてびっくりした顔をしてこっちを見ていた。ふんっザマーミロ。

「お前って、誰かを本気で好きになったの初めてだろ?だからお前の初恋は俺がもらったことになんだよな」
「・・・で?、そのもらったものを時任くんはどうするのかな?」

はったり半分、本気半分の俺の言葉に、久保ちゃんは肝心なことは認めずに答えを促す。

ちぇっ、仕方ねぇよなぁ・・・

「捨てるのも目覚めが悪ぃからな、受け取ってやる」

できるだけ高ビーに見えるよう言い放つ。
でも実際はドキドキびくびくしながら言ってたりする。

「・・・ありがとう、って言うべき?」

どうせ俺の虚勢なんか見抜かれてっだろうけど、最初が肝心だかんな、せいぜい偉そうに言ってやる。

「当たり前だろ?」
「うん、ありがとね」

久保ちゃんは、俺の虚勢も何のその、何のてらいもなく嬉しそうにお礼をいいやがる。
聞いてるこっちが恥ずかしい。顔が赤くなるのが分かる。

しかも抱きついてきやがったっ!重いってのっ!!

「おい、重いっての!」
「まぁまぁ、感謝の気持のあらわれですから」
「いらねーってのっ」
「遠慮しないの」
「してねーっての」

くすくす笑いながらいつものようにじゃれあっていた。

そして2度目のキスをした。

・・・いつもと違うってこれくらいか?

あんま違いないかもな

そんなことを思いながらWD前夜が更けていく。

男も女も恋心に違いはありません。

相手が同姓でも異性でも好きになる気持ちに違いはありません。

しかし

友達と恋人の間に大きな違いがあります。

それを時任くんが身をもって実感するのはもう少し先のようです。

ご愁傷様〜(笑)











終わり

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