じゃじゃ馬7
月曜日の放課後、相浦は執行部の部室で一人ゲームをしていた。
今日は非番なので帰ってもいいのだが昨日のことが気がかりでなんとなく居残っていた。噂で今日は時任が休みらしいと聞いて余計に気になっていた。かといって久保田に詰め寄るわけにもいかず、もんもんとしながら機械的に手を動かしていた。

ガラッ!

「相浦いる?」

そんななか、当の原因がいつもの通りに飄々とした顔で部室に入ってきた。
しかも相浦を名指しだ。
ドキリと、心臓が跳ね上がった。

「何?」

平静を装って答える。

「今日さ時任休みだから見回り代わってくんない?」
「あ、あぁ、いいよ」
「悪いね、桂木ちゃんには言ってあるから」
「分かった」

何でもないような顔をして、普段通りに連絡事項を言い合う。
久保田はホント普段通りだ。時任とケンカしたり、時任が誰かといると、ちょっとばかり近寄りがたい雰囲気を醸し出すが今日はそれもない。
・・・あの後は何も無かったのか?
ちょっと安堵する。

「そうそう、相浦、時任からの伝言」
「え?」
「時任が相浦に『心配すんな』って伝えろ、だって」
「!?」
「昨日はうちの時任がお世話になったみたいね?」
「・・・・・・・・・・・・・」
「ありがとね」
「・・・どういたしまして」

やっと、それだけ言った。

「んじゃ後よろしくー」

普段どおりに見えるが、実はかなり上機嫌だったらしい久保田は軽く手を上げて帰っていった。

・・・時任・・・喰われたな・・・・

時任が休みなのに一人置いて学校へ来るということは、欲しいものを手に入れて安定してるからに他ならない。

昨日の今日でこれかよ・・・手ぇ早すぎだろ・・・

じくり、と罪悪感が首をもたげる。
いずれこうなることは目に見えていたけれど、この展開はちょっと早すぎだ・・・

先ほどの伝言は久保田の作り話だろう、照れ屋な時任があんなこと伝言するはずが無い。どうなったか心配していた俺に、牽制と若干の感謝をこめて、結果を仄めかしてくれたのだ。
もしかして自分の余計な一言のせいで、自分の男友達が男友達に喰われたかもしれないなんて、ヘヴィ過ぎる・・・。知りたかったけど、知りたくない結果だった。

ガラッ!

執行部のドアが開いて桂木が入ってくる。

「相浦くん、久保田くんから見回り交代聞いた?」
「さっき聞いた」
「そ、後で室田くんが来るからお願いね」
「わかった」
「でも変なのよねー、今日は時任が風邪で休みらしいんだけど、いつもの久保田くんなら一緒に休んで看病すると思うの、一人学校へ来るなんて珍しいわよね」
「確かにな・・・」
「なのに久保田くん妙に上機嫌でね、時々鼻歌なんか歌ってるの」
「へぇ・・・」
「何で家に残って看病しないの?って聞いたら『産後の猫みたいに気が立ってて近づけない』って言ったのよねー、変な表現だと思わない?」
「・・・・・・・・・・」
「またなんかあったのかしらね、あの二人・・・」
「・・・」

知らぬが仏とはこのことだ。
出来れば自分も知らない側に回っていたかった・・・
二人の問題には余計な口は挟まない、と心に決めた相浦だった。



* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * 



一方、産後の猫扱いされた時任はリビングのソファで毛布を被って唸っていた。

「・・・まだ痛ぇ・・・」

今は歩けるようになったが、朝は腰が抜けて立つことすら困難だった。
昨日の事後処理は全部久保田がしてくれたらしいが初心者にはキツかったらしい。
腹と腰が痛んでしょうがない。
心配した久保田が朝いろいろ世話をしようとするので、鬱陶しいっと言ってさっさと追い出した。本当は鬱陶しいというより照れくさいというのが本音なのだが・・・

「あんのエロ親父・・・」

腹が痛むのは突然だったのでゴムを用意してなかったせいだった。
こんなになるならあの時絶対頷かなかったのにと後悔する。
次は絶対つけさせよう。

「・・・次・・・もあるんだよな、やっぱ・・・」

久保田とこういう関係になったことには後悔してないが、こんなに痛いことに慣れることが出来るのだろうか・・・?やっていけるかどうか若干不安になってきた。

ガチャガチャガチャ

そんなことを考えていたら玄関の方で音がした。
久保田が帰ってきたらしい。
ガサガサ音をさせながらリビングのドアが開き久保田が入ってくる。
ソファに転がっている時任のそばに行き、毛布の上から頭を軽く撫でる。
なんとなく照れくさくて顔を出すのがためらわれた。

「時任、こっちにいたんだ、もう動ける?」
「・・・なんとかな」
「ご飯は?」
「・・・まだ」
「いろいろ買ってきたよ。なんか食べな」
「いらない・・・」
「そんなこと言わずに見てみな。お前の好きな中華まんもあるよ?」

最近お気に入りの中華まんに惹かれて、もそもそと毛布の上から這い出し、久保ちゃんのほうをチラリと見てみた。
目が合う。
久保ちゃんは嬉しそうに目じりを下げた。
付き合いが長いのでめっちゃ上機嫌なのが分かる。
なんか、腹立つ(怒)

「朝から何にも食べてないでしょ、何か好きなの食べな」

そう言って買い物袋からいろいろ取り出して見せてくれた。中華まんにお好み焼きパン、キットカットにおでんにモスチキンにポテチにアイスクリーム、etc・・・
どれもこれも一度俺がはまったことのある品々だった。
ちょっと嬉しい。

「久保ちゃん買いすぎ・・・こんなに食えない」
「好きなもののほうが食べれるでしょ、残りは冷蔵庫にいれるから大丈夫」

そう言いながら、俺に中華まんを渡してくれた。
一口かじりつく、美味い、なんだかんだ言って腹へってたんだな・・・
あぐあぐとあっという間に中華まんをたいらげ、次にお好み焼きパンを食べ始める。
そんな俺を久保ちゃんは嬉しそうに見ながら煙草を吸い始めた。

ソファに座りながら久保ちゃんが買ってくれたパンを食べる。隣には煙草を吸ってる久保ちゃんがいる。なんだかいつもと変わらない日常だった。昨日あんなことがあったなんて嘘みたいだ。

・・・恋人とかなんだかこだわる必要なかったかもな・・・

そんなことを考えながら、ふと、開けられてない紙袋が目に入った。

「久保ちゃん、それ何だ?」
「あ、これ?」

そういって久保ちゃんはごそごそを袋の中身を取り出していく。
相模と刻印された箱とボトルが出てきた。これは・・・・

「ゴムと潤滑剤、昨日は何の準備もしてなかったから時任に辛い思いをさせちゃったから買ってきた。必要っしょ?」
「・・・・その学校帰りのカッコのまま行って来たのか?」
「うん、知り合いの店で買ったしね、平気平気ー」
「〜〜〜〜〜っ!!!こんのデリカシー欠如男がぁっ!!!!!!」

知り合いの店ったらあの店しかない。
今度行った時どんな顔すりゃいいんだ!!!!

怒りにまかせてそこらへんにあった物を全て久保ちゃんに投げつけてやる。
クッション、リモコン、紙袋、久保ちゃんの煙草まで全部投げつけてやった。

「こらっ止めなさいって」

こしゃくにも久保ちゃんは俺が被っていた毛布で防戦していた。

「防ぐなっ!」
「防がないと当るでしょ」
「当てたいんだよっ」
「酷いなー、んじゃ反撃っ」

そう言って久保ちゃんは毛布をバサッと広げて俺に被せた!
そしてそのまま久保ちゃん自身が覆いかぶさって来る。

「捕まえた」
「捕まってたまるかっ」

押さえ込もうとする久保ちゃんとそれを防ごうとする俺
そうしてしばらくじゃれあってると、どちらかともなくクスクス笑い始めた。
次第に笑い声が大きくなり、いつのまにか腹を抱えて大笑いしていた。

「ったく、しゃーねーなー久保ちゃんは」
「ごめんね?」

なんだか幸せな気分になので、自然と二人でキスをした。
軽く触れるようなキス
うん、こういう関係も悪くない。

ご飯食べて、ちょっと運動して、久保ちゃんがいてあったかい。
いい気分だ。



友達でも恋人でも相方でも、呼び方なんて何でもいい

久保ちゃんがそばにいて

こうして笑いあったり、ふざけあったり出きればいい

それが一生続けばいい

それが一番大事

久保ちゃんと俺は人生の相方ってやつだな!

なんとなくしっくりする言い方が見つかった。

本人に言ったら調子に乗るので当分は言ってやらない。

気が向いたら言ってやろう、いつかな・・・


そんなことを考えながら、時任は再び眠りについた。


お預けくらいつつも、幸せそうな駄犬がずっとそばについてたそうな・・・




終わり
 
念願のじゃじゃ馬完結!ようやく荒磯のくっつく話しをお届けすることが出来ました!
この1ヶ月と少し、辛かったですよ、ホント。途中何度も『こんな甘ったるい話し書けるか〜〜っ!!』ってパソコンひっくり返そうとしたことは一度や二度ではありません。自分で考え付いたネタなのにね(笑)
私の好みのシチュエーションが『弾みのようにHから始る二人』か『無理矢理Hから始まり、時任が絆されて許して和姦成立』ってパターンが好きです。肉体関係から始るネタが好きなんです。ノーマルな男の子が同姓を好きになるってあんま考えにくい、それならHしちゃって『同姓でも有りか・・・』と体で納得させるのが好きです。ちょっと鬼畜?(苦笑)
そんで今回は後者を選ぶことにしたのですが、久保田ってば何かきっかけがないと時任を襲ってくれそうにないので、ありがちですが泥酔というシチュエーションを用意しました。そんで進めたはいいけど時任があっさり絆されちゃホントのAVになってしまうので、相浦くんに相談相手になってもらいました。この相浦くんは小宮が乗り憑いたような感じになっちゃってちょっと後悔してます・・・。しかも最後はらぶらぶすぎて砂吐くかと思いましたよ・・・自分で書いてて『うぜーよおめーらっ』って何度も叫んでました。
でも大好きなシチュで、書きたかった”いっぱいいっぱいで時任を手放せないことを自覚する久保田”が書けて満足でした!楽しかったです!こんな駄文ですが皆さんが楽しんで頂けたなら幸いです。感想お待ちしておりますv

2007.3.9
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