ニオイ


『犬の肉球のニオイは焼いたチーズのニオイ』

犬好きのお客がそんなことを言っていた。
雀荘の煙草で煙った店内でなんとも不似合いな話題だが、誰かが腹が減ったかなんかでチーズの話になりその客が言い出したのだ。同じ雀卓を囲んでる面々は口々に『嘘で〜』、『しょんべん臭ぇの間違いだろ?』などと否定していたが自分は『それは美味しそうだね』と言って適当に流しそのまま忘れていた。

家に帰ったらリビングのソファで日向ぼっこしながら寝ているでっかい猫がいた。
それで先ほどの「チーズのニオイ」を思い出した。
猫でも似たようなもんだよね?
急にニオイを嗅いで見たくなった。

右手、肉球はないけど毛むくじゃら。丁度良く手袋を外していた。
早速嗅いでみる。
皮とホコリっぽいニオイ。手袋と毛のニオイだ。
やはりチーズのニオイはしない。肉球がないからか?

ついでだから他にもイロイロ嗅いでみた。

左手
塩と油とニンニクのニオイ。足元に最近時任がハマってるガーリック味ポテトの袋が落ちてるからそのニオイだろう。

右足、左足
スエタニオイってこういうの?どんなに愛があっても臭いものは臭いよね。


かすかに煙草のニオイ。一晩会ってないのに煙草のニオイがするってことは洗濯物に染み付いてたかこの部屋に煙草のニオイが残ってるのだろう。やっぱ空気清浄機は必要かもしれない。上に被ってる毛布からは日向のニオイもした。


薔薇のニオイ。時任が好きなシャンプーのニオイだ。帰宅してからシャワー浴びた?

首筋
かすかな薔薇のニオイと石鹸のニオイと煙草と日向と皮脂と何かが混ざったとなんとも表現しにくいニオイ。これは時任の体臭だ。

何とも誰とも表現できないニオイ。

時任のニオイ

嗅いでると、何かがこみ上げるような、熱くなるような、そんなニオイ

もっと嗅ぎたくて大きく息をすい、吐くを繰り返す。

陶酔感。煙草より、大麻より、それこそWAより余程クル。

と、思っていたら

『痛いッ』

目を三角に吊り上げた時任にギリギリと耳を引っ張られた。右手だ。また力加減できてない?すごく痛いデス。

「あのー、痛いんだけど」
「人が気持ちよく寝てんのに邪魔すんな!」
「邪魔なんかしてないっしょ(ニオイ嗅いでいただけだし)」
「上に乗られりゃ重くて目が覚めるっつの!」

あ、いつの間にか覆いかぶさっていた。よくニオイが嗅げるよう乗り上げていたようだ。これじゃぁ起きるか。

「ったく、眠ぃーんか?」

眠くてソファーに倒れこもうとしたように思ってくれたらしい。
『いや、ニオイ嗅ぎたいだけ』なんて言ったら変態扱い確定で蹴っ飛ばされそうなので、ここは「うん」と頷いといた。
実際徹夜明けで眠いので嘘じゃない。
のそりと時任に乗りあがり抱き込むようにして横になる。大きいソファ買っといて良かった。ちょっと狭いけど大丈夫。寝れる。

「ちょっオイ、眠りたいならベッド行けよッ」
「面倒」
「じゃぁ俺が起きっから離せよッ」
「嫌。お前もこの毛布もあったかくて気持ちいいんだもん」
「俺は湯たんぽじゃねぇッ」

確かにゆたんぽじゃない。
近いところで猫のまたたび?犬相手だとなんだろう。

時任は『離せっ』としばらくもぞもぞ足掻いていたが俺が離さないとわかると諦めて力を抜いた。時任の体温が上がった。暖かい。昼寝の続きをすることにしたようだ。くったりした細い体は柔らかく、猫を抱えてる気分になる。

ぴったり寄り添って思う存分時任のニオイを嗅ぐ。

やっぱり、イイニオイ。ずっと嗅いでいたい。

これを息が上がるほどぐちゃぐちゃに乱したらもっとイイニオイがするのだろうか。
こいつのザーメンを搾り出し、思う存分浴びたり飲んだら自分もこのニオイになるのだろうか。
青臭くなるのがオチか
でも汗のニオイは嗅いでみたいかも

徹夜明けなせいか馬鹿なことをつらつら考えながら抗いがたい眠気が襲ってきたので瞼を閉じた。


試すかどうかは

目が覚めたら考えよう。



 END
   
WAでも荒磯でもどっちでもいいけど久保田が軽いので一応荒磯に収納。
久保田の性衝動は箸が転がったから勃ったとか、風が吹いたから気分が乗ったとか、いい加減で突然だといい。好き好き、ドキドキ、ヤリたーい!もいいんだけどうちの久保田はこんなかんじ。浪漫の欠片もなくて、ナチュラルに変態にしてゴメンよ久保田!(でも直すつもりはない)
ちなみにチーズの匂いと言ったのは私の友人です。試しにうちのワンコの嗅いだけど違うと思う。そいつんちは小型犬でうちが大型犬なせいかね。
2009.2.22
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