何でこうなったんだろう・・・


チュク・・・

「ハァ・・・、アゥッ・・・」

ピチャ・・・

「ア・・・ハァ・・・」

粘着質な音と無理矢理抑えた息遣い。

自分のと久保ちゃんと、二人分。


なんで・・・






Line ・・・境界線・・・









 今日の俺さまは機嫌が悪い。

 帰り際にやなもん見ちまったからだ。

 久保ちゃんが女に呼び出されたのは知らなかったけど、それがたまたま窓から見えちまった。

 久保ちゃんは後ろを向いててよく見えなかったけど、女の方は良く見えた。

 目が大きくてまあまあ美人で、緩いウェーブがかかった髪を腰まで伸ばしてる女だった。胸は小さくも無いが巨乳ってほどでもない。まあまあ大きいって感じ?久保ちゃんは好みのタイプを聞かれたとき『胸の大きい女かな』ってふざけて答えてたけどこれくらいならオッケーな範囲なんかな・・・

 告白してるんだろうな。
 聞こえないけどうつむきながら一生懸命話しているから多分そうだ。

 真っ赤になりながら一気に話して、口をつぐんだ。
 答えを待ってるっぽい。

 あ、泣きそうな顔になった。久保ちゃんは断ったんだ・・・。

 ・・・変かな、俺。
 泣いた女を見てるのに、なんかほっとしてる。久保ちゃんが断って安心したんだ。

 久保ちゃんは相方で、俺達は鉄壁のコンビだけど、どっちかに恋人とかできちまったらどっかが変わっちまうだろう。それが、怖かった。俺のよく知ってる久保ちゃんが、よく知らない久保ちゃんになっちまいそうで、怖かった。嫌だった。

 そんなことを考えながら二人を見ていたら・・・


 ザワッ

 血が髪が逆立った、そんな気ぃした。



 泣いてる女が久保ちゃんに何か言って、目をつむった。

 そして、二人の姿が一瞬重なった。

 ホンの一瞬だったけど、重なったのだ。



 多分、キス、したのだ。



 二人はすぐ離れ、女は一礼して走りさっていった。



 ・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・





 腹が立ったのか、びっくりしたのか、よくわからない。

 女に?久保ちゃんに?それもよくわからない。

 ただ、胸がどうしようもなく騒いでいた。

 気分が悪い。

 二人が何か悪いことしたわけじゃねーのに、気分が悪い。

 怒りたいけど、何に怒っていいんだ?

 そんな感じ

 よくわかんね・・・

 ムカムカしながら、家に帰った。




 一人で家に帰って、メシ食って、ゲームしてた。

 ムカつくので『何で先に帰った?』とか『何機嫌悪いのよ』とかイロイロ聞いてくる久保ちゃんはずっと無視してやっている。


 ガウンンン・・・・・

 『you are lose』

 画面にでてくるのは無情にもゲームオーバーの文字。やり慣れてるはずのゲームなのにさっきから失敗してばっかだ。面白くねー。ムカついたので消してテレビを適当なチャンネルに変えた。

 ソファに寝転んで、ぼーっと画面を眺める。あ、なんか女がでてきた。なんかこの女ってば昼のあの女に似てるかも・・・。なんかムカムカしてきた・・・

「・・・時任、それ見るの?」

 突然、後にいたはずの久保ちゃんが隣から話しかけてきた。
 ムカつくから隣に座るんじゃねーっての!

「何か文句でもあんのかよ」
「珍しいもん見てるなーって・・・」
「あぁ?」
「だって、それ、アダルト映画っしょ?」
「!?」

 ゲッ、ホントだ。

 画面ではどうみたってコーコーセーには見えない女がセーラー服着てどっかのホテルのベッドに男と座っていた。女がイヤイヤと首ふってるけど男が『約束だ』なんて言って押し倒した。刑事ドラマとかだったらここで助けが入るけどその雰囲気はない。嫌がりながらも女は脱がされていく・・・

「『青髭教師-罠にはまった女子高生!-』だって。時任もこういうの興味あるんだ・・・」

 スゲータイトルセンス・・・
 っつかわざわざ新聞出してまでタイトル読み上げんじゃねーよ!

「・・・うっせーっての」

 全然こんなのに興味なんかねーけど、慌ててチャンネルを変えるのもくやしーのでそのまんまにした。チャンネル変えたら『あ、あっぱり?時任にはちょっと刺激が強いよね』とか笑うに違いねー。

 久保ちゃんなんか見知らぬ女と平気でキスしてたもんな・・・
 俺の知らないとこでイロイロ経験つんでるのかもしんねー・・・

 そう思ったら、俺だけおいてきぼりをくらったみてーですっげー悔しかった・・・

 パチッ

 突然電気が消えた!

「何すんだよ久保ちゃん!」
「え?だってAV見るんでしょ?だったら雰囲気ださないとー」
「・・・・・・」

 余計なお世話だ!、とは言えず、仕方ねーから観るふりをした。

 画面では、騙されたらしい女子高生モドキが嫌がりながら男教師に組みしかれてた。んでだんだん脱がされていく。

 興味はないとはいえ、見れば否応なしに反応してしまう。

 ・・・やべぇ、でもここで立ったら逃げるみてーだし・・・

 仕方なく観つづけた。すると嫌がる女子高生に教師がキスを強要してるシーンになった。昼に見たちょっと触れるような軽いやつじゃなく舌を絡める濃厚なやつだった。画面の男は目を細め、いたぶるのが楽しくて仕方ない、そんな顔をして執拗に唇を貪っていた。

 久保ちゃんはあん時どんな顔をしてたんだろう・・・

 頼まれてキスしたっぽいけど、役得と思って嬉しそうな顔だったのかな

 それとも断っちまったから労わるように優しい顔してたのかも・・・

 ふと気になって横をチラリと見てみた。

 眼鏡にテレビが映って表情が見えない。

 ちぇッ・・・

「なに?」

 気付かれた!

「な、なんでもねッ」
「ふーん?」

 慌てて横を向いた。けど、久保ちゃんはこっちを向いたままだ。視線を感じる。

「そわそわしちゃって・・・先にトイレ行く?」
「!?」

 何を言い出すんだコイツは!!!

「そんなんじゃねーよッ!」
「そ?どれ」

 そう言った久保ちゃんは俺の方に手を伸ばして・・・

「ッ!!!!!」

 どこ触ってんだテメー!!!!

「しっかり勃ってるじゃない。我慢しないほうがいいよ?」
「よ、よけーなお世話だッ!離せよッ!!」

 逃れようとソファの端にずれるがそれでも手が外れない。久保ちゃんも一緒に移動してより密着してきた。

「・・・手伝ったげようか」

 どういう意味だ?

 って口に出す前に、久保ちゃんはGパンのボタンを外し、チャックを下ろし、直に、触れてきた。

「ちょっ!久保ちゃんッ!!!」
「うん」

 うんって何だよ!

 止めさせようと思って久保ちゃんの腕を掴む、けど久保ちゃんは気にせず手を動かし始めた。


「やッッ!」

 人肌に一気に熱が跳ね上がる。

 体の中で一番敏感なとこを、一番敏感になってるときに、触られたのだ。

 それも久保ちゃんに。

 どうしたって反応してしまう。

 信じられない、信じられない、信じられない!

 なんで久保ちゃんは俺のを握ってるんだ!?

 そりゃ体育会系の野郎同士が集まってAV観て手を借りるって聞いたことはあっけど俺達でやったことなんかない。それにあれは誰かの手をかりながら誰か女でも想像するんだ。

 でも久保ちゃんが握ってりゃそれは久保ちゃん以外の何者でもないわけで・・・

 逆に、もっと、どうしようもなくなる

 この異常な状況にパニックになりつつも、久保ちゃんは手を動かし続けるので、俺の意思に反して熱は上がり続ける。

 滲みでたものですべりは良くなり、ますますどうしようもなっていく。

 何で・・・

「何で・・・」
「ん?」
「何でこんなこと・・・」

 やっと、言えた。

「二人でAV見てるのに、一人でマスかいてるのも虚しいっしょ」

 どーゆー理屈だ!!!

「時任も手伝ってよ」

 そういって久保ちゃんは俺の手を持って自分の股間に持っていき、握らされた。

 そして耳元に

「一緒にイこ?」

と囁かれた。

そのあとは、もう、めちゃくちゃだった・・・




何でこうなったんだろう・・・


チュク・・・

「ハァ・・・、アゥッ・・・」

ピチャ・・・

「ア・・・ハァ・・・」

 最初は一回それぞれの手でイッて、二度目は互いのを擦り合わせて久保ちゃんが握ってしごいていた。

 俺はもうわけがわからないまま久保ちゃんのシャツに掴まりながら、ただ、喘いでいた。

 TV画面からは悲鳴とも嬌声ともつかない叫び声と液体の粘着音が響いていたが、それも次第にどちらのものか分らなくなっていった。

チュク・・・

「ハァ・・・、アゥッ・・・」

ピチャ・・・

「ア・・・ハァ・・・」
「ンッ・・・」


 久保ちゃんの荒い息が首にかかる

 粘着質な音が響きわたる

 頭の中がぐちゃぐちゃになっていく・・・


も、だめ、・・・


「!!!!!!」

 二度目

 ぐちゃぐちゃで、でもどうしようもないほど、気持ちよい脱力感・・・

「涙・・・」

 そう言いながら生理的に零れた涙を久保ちゃんがぬぐってくれた。

 ・・・その手はさっき俺のを握ってた手だ

 そう思うと余計いたたまれなくなってよそをむく

「目、赤くなって色っぽいね」

 よくわかんないことを言いながら、涙のあとを辿るように、目元にキスをされた。

 目の前に久保ちゃんの顔があった。

 薄く、目を開けて、ほんのちょっと口元をあげてるいつもの微笑

 よく知ってる、いつもの笑顔だ。

 それがそのまま降りてきて・・・

 今度は口にちゅっと軽いキスをして離れた。



 なんだ、いつもと同じような顔してキスすんじゃん。

 なんとなく安心した。



「・・・あの女にもこうやってキスしてたんかよ」

 つい、聞いちまった。

「見てたの?」
「・・・見えちまっただけ」
「まあ、『転校しちゃうので最後の思い出に・・・』って言われちゃったし、早く帰りたかったし」
「おい・・・」
「時任になら頼まれなくてもしたいけどね」

 あ?どういう意味だ?

 そう尋ねる前にまた久保ちゃんの顔が降りてきた。

 再びキスされるが今度はすぐに離れずそのまま吸い付いて、舌を侵入させてきた。

「ん・・・」

 TVで見たような深いキス。

 久保ちゃんは舌で俺の舌を絡めとり、甘噛みし、軽く吸い上げた。

 ちょっと息苦しい

 けど背筋がぞくぞくする。

 ふと薄目を開けて久保ちゃんを見る。

 久保ちゃんは目を閉じていた。んで、なんか生懸命に俺にキスしてた。



・・・なんだ、久保ちゃんてば、俺とキスしたかったんじゃん。


 ふーん


 そっか


 久保ちゃんは俺とキスしたかったんだ。

 頼まれるんじゃなくしたかったんだ。

 ザマーミロ


 俺は俺より先に久保ちゃんとキスした女に勝ったんだ。



「まだ元気みたいね。も一回する?」
「・・・返事する前から手動かしてるくせして聞くんじゃねーよ」
「そうね」

 またキスされて扱かれる。

「あっ・・・」

 やべぇ声が自然とでるくらい気持ちいい。

 キスして、触りあって、これってもうマスかきっことはいわねーよな・・・



 そんなことを思いながら再びきた刺激に身を委ねながら考えることを放棄した





 * * * * * *



 明確に線引きされていた

 友達か恋人か

 そして友達の方へ

 時任が相方でいるのを望むなら一生そのままでいいと思ってた。

 まあ溜まることは溜まってしょうがないけど、それはそこらへんで処理すればいいので、一生時任には手をださなくてもなんとかなる自信はあった。

 でも今回のことで時任のほうからその境界線に立った。

 自覚はないけど告白してきた女に嫉妬したのだ。

 友達と恋人の境界線に

 どちらとも行けるラインに自ら立ったのだ。

 そうなったら、我慢する必要はない。

 どちらとも欲しかった

 友達の時任も、恋人の時任も

 どちらとも、手に入れるのだ。

 このラインを越えて・・・










(終)
時任くんは天然で超絶鈍いだけなのでどっちも転べそうな気がします。そんな彼が久保ちゃんのキスシーンを見たときどうするだろう、無自覚に嫉妬するんだろう、久保田さんはその隙を利用するだろう、と連想してて小道具にAV使ったらこうなりました。うちはAVネタ多いよな。実は二人でAV観るってシチュが大好きだったりするからです。くっつく前だったら反応してるのが気恥ずかしいと思うんだよね。その初々しさがまた・・・って親父的発想だよな(苦笑)WA編もあったりするんでいつか書こう。にしても私ってばどれだけ天然時任を書けば気が済むのだろうねぇ。
これの副題は『旦那は見た!』です。某サスペンス風でよろしく(違うだろ) 『奥様は見た!』編もあります。

2007.10.24

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