手羽先

「くぼちゃんッ!これ食いたい!!」

 時任がテレビを指差して叫んでいた。
 新商品のCMでも見たのかなと思ったら指差してるのは普通の料理番組で『○○の簡単おつまみレシピ』とタイトルが書かれていた。

「どれ?」
「これッこの手羽先ん中に物詰めて焼くやつ!」

 うーん、買えば終わりってもんじゃないのね。
 テレビでは手早く器用に手羽先の骨を外し中に詰め物をして焼いているが実際やったらかなり面倒そうだ。

「・・・作るの面倒かも」
「えぇ〜簡単そうじゃん!!」
「骨外すのが面倒っぽい。でもお前が手伝うってんなら作ってみてもいいけど?」
「いいぜ、やったろうじゃん」
「んじゃ決まり〜」

 早速二人で出かけて材料を用意した。

用意するもの

@手羽先数本 食べたいだけ
A中に詰めたいもの 明太子やチーズやイロイロ好みで
B楊枝
Cビール

以上

今回は『たくさん食べたい!』と時任が言ったので手羽先を3パック(24本)買ってみた。
うーんちょっと買いすぎたかな。

「んじゃやりますか」
「おう!」

 男二人でキッチンに立つ。
 ちょっと狭いけどやれないわけじゃない。
 たまに二人で一緒に料理するけど案外楽しい。密着度が、ね(笑)

「んじゃ俺が手羽先の関節外して筋を切るからお前は骨抜いてね」
「お、おう」

 手羽先は食べる部分に二本の骨がある。この骨を抜くことで中が空洞になり物が詰められるのだ。
 まずは骨が外れやすいようポキポキと関節を外す。そして骨と骨をつなぐ筋を包丁で切る。これで骨が引っこ抜けるようになる。

「ほい、お前の番。この二本の骨を引っこ抜いて」
「ん、わかった」

 不器用な手つきで骨を引っこ抜こうとする。しかしうまく骨が掴めなくて抜きづらそうだ。肉なので滑りやすいのだ。

「だぁ〜!!すべって上手く出来ねぇ!」
「布巾で掴むといいらしいよ。ほらこんな感じに」

 そういって布巾を取り出し時任に持たせその上から手を添えて教えてあげる。
 手に手をとって教えるってこんな感じ?こういうのが結構楽しいんだよねぇ

「あ、ホントだ。これなら掴める」
「でしょ?」

 上手く掴めたらあとは力があれば出来るだろう。

「おっし!抜けた!」
「おめでと〜、ほい次これね」
「任せとけ!」

 さすがの怪力で次々と骨を引っこ抜いていく。いっそ気持ちいいくらい。
 こういうのなんて言うんだっけ。馬鹿力とはさみは使いよう?(笑)

「これ面白れーな!」
「そりゃ良かった」
「くぼちゃーん、早く次くれッ!」
「はいはい」

 しばし無言で骨抜き作業をする俺達。抜くの大変だなーって思ってた手羽先の山があっという間に片付いた。二人でやるとあっという間なのね。

「んじゃこの中に好きなもの詰めよう」
「俺チーズとトマトの作る!」
「俺は明太子ね」

 時任はナチュラルチーズとプチトマトを入れて楊枝で口を閉じようとする。力加減が難しいのか何本も楊枝を折ってしまうので見かねてやってあげた。
 暫く黙々と作業をしてると具が残り少なくなってきた。手羽先の中って案外たっぷり入るので詰めすぎたかもしれない。

「具が足んないのな。あと何入れっかな」
「ごはんとかは?塩コショウして味付けるといいんじゃない?」
「あ、美味そう!」
「あと冷蔵庫にあるのは・・・あ、パイナップルとかは?」
「却下」
「何でよ」
「中が見えねーんだから間違って俺が食ったら嫌だ!」
「・・・それいいかも」
「ああ?」
「闇鍋みたいに相手の知らない中身のを作るってのどう?」
「面白そうじゃん!交代で作ろうぜ!久保ちゃんあっち行ってろ」
「ほーい」

 こうしてお互い中身を知らないのを3本ずつ作った。そしてわかんないように通常の具の中に混ぜ込んだ。

「んじゃ焼きますか」
「多いから何回かにわけねーと駄目だな」

 片面4分ずつくらい焼くので結構面倒だ。
 それでも全部焼き上げてテーブルに運ぶ。山盛りの手羽先の横には冷えたビールが用意されてる。時任いわく『ビールのおつまみ特集だったからビールと一緒に食わなきゃ駄目だ』らしい。でも俺達って未成年なんだよね。ま今更か。

 プシュッ!、プルタブを開けた。

「んじゃかんぱーい」
「乾杯!」

 ビールで乾杯して早速食べてみることにした。

「おっ、うんまいじゃんッ!チーズ入り旨いぜッ」
「明太子入りもおいしいよ。たしかにビールと合うね」
「だろ〜?」
 
 いつものことながら自分の手柄のように主張する。可愛いからいいけどね。

 ビールをぐいぐい飲みながら、ばんばん食べていく。

「なかなか変なのに当らないのな」
「そうね。でももうそろそろじゃない?」

 そう言いつつ、8本目に手を伸ばす。
 チーズや明太子入りは詰めすぎたのか焼いたあと少し中身がはみ出てしまい丸分かりだった。最初にそれらを食べてしまったので今残ってるのはキレイに閉じてて中身が見えないのばかりだった。

「あ、キムチ入りが当った。これおまえっしょ」
「そ!結構イケルんじゃねー?」
「うんイケル、これ好きかも」
「久保ちゃんは何作ったんだ?」
「当った時のお楽しみ〜」

 お互い9本目に手を伸ばす。

「あ、これ久保ちゃんが作ったやつじゃねー?納豆入りのやつ」
「うん、どうだった?」
「・・・案外イケル。納豆って何でも合うのな。久保ちゃんのは?」
「んー・・・あ、これ自分で作ったやつだ」
「何の具だ?」
「パイナップル入り」
「げ〜ッ!!却下って言ったじゃん!」
「結局は俺が食べたんだからいいっしょ。んー・・・まあまあかな?」
「信じられねー・・・」

 二人で10本目に手を伸ばす

「だんだん腹いっぱいになってきた」
「そうね」
「あ、これ米入りだ」
「俺のはー・・・何だこれ。ちくわぶ?」
「食い飽きたから残ってたの入れてみた」
「残り物処理ね・・・まいいけど」

 残るはあと4本。

「・・・もうそろそろ腹いっぱいなんだけど」
「俺も」

 じとりと残りの2本を眺めてしまう。

「あと1本ずつ変なのが混ざってるんだよな」
「変なのとは失礼な。おいしそうなの選んだよ?」
「久保ちゃんのおいしいは信用ならねぇ」
「あ、ひどい。そういうお前は?」
「変なの入れた」
「そ」
「次で変なのに当って最後にまともなの食って口直ししてラストっつのが理想だな!」
「そうね」
「んじゃ食うか」
「んー」

 11本目を選んだ。

 そして口に入れる。

「〜〜〜ッ!!!」
「・・・・・」

 なんとも言えない顔をする時任と表情の変わらない久保田。さあどっち?

「だ〜〜〜ッ!自分で作った変なのに当っちまった!!!」
「うーん俺も自分のだ。まあまあイケルかも」

 お互いがお互い作ったものを食べるなんて運がいいんだか悪いんだか・・・

「う〜〜・・・久保ちゃんのがマシだったかも。久保ちゃんは何入れたんだ?」
「チョコレート」
「え?」
「変?でも鶏肉のチョコソースかけって料理ホントにあるよ?」
「そーじゃなくって、俺も」
「何が」
「俺もチョコ入りの作った」
「おやま」

 顔を見合わせる。

「ぷッ」
「だはッ」

 つい吹き出してしまう。

「さすが相方、気があうじゃん!」
「そらもー、一心同体ですから」

 好みは違えども考えつく先は一緒なんて

 なんか こそばゆい 不思議な感覚

 ひとしきり笑いあったあと最後の一本を食べて口直しをした。

「あーうまかった。また作ろうな!」

 ニッカリと笑った君に逆らえるはずもなく、うん、と頷いた。

 どうせなら俺が知っていてお前が知らない料理のがいいかも

 それこそ手取り足取り教えられるような

 それを言ったら叩かれた、耳が赤いよ時任くん

 ホント可愛いったらないね、この子は


 うまいのは、ビールと手羽先と、そしてお前の笑顔

 なーんちゃって、ね


<終わっとけ>



ありー?、思った以上に長くなっちゃった。簡単な3分間クッキング風にしようとしたんだがなあ。食べ物ネタは山ほどあるので書きやすい。こんなんならいくらでも書けそうですわ。あー楽しかった!

因みに私が好きなのは明太子入りとチーズ&トマトとお米入りです。美味いですよー。明太子は半生くらいに焼くのがポイント。もっと凝った具を作るのも楽しいです。
チョコやパイナップルは試したことありません。チャレンジャーの方ぜひ試してみてください。そして結果を教えてください。

あービールがうまい(親父くさッ)

2007.10.26 MEMOより移動
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