僕は約束を守れませんでした。
夏希さんと離婚してから半年、僕はまだ佳主馬くんと暮らしていた。 佳主馬くんと暮らし始めると僕の生活はすっかり離婚前に戻った。 泊らなければならない日以外は普通に帰宅し、部屋を掃除し、洗濯をして、ヘタクソだけど料理もするようになった。家事は当番制で佳主馬くんと半分こした。 料理は僕のほうがまだまだ下手なので手伝ってもらったり、買ってきたりすることが多いけど、大抵の男なんてこんなものだ。料理の上手い佳主馬くんのほうが珍しいのだ。 それを言うと「13歳年下の妹と4歳年上の弟が出来たら自然と上手くなる」だそうだ。それだけじゃないはずなのにそう言って人をからかい意味ありげに笑った顔はて理一さんそっくりだ。やっぱ血は争えないと思う。 今の僕なら精神的に落ち着いので、もう佳主馬くんのところから出ていっても大丈夫だとは思う。 けれど、この部屋を出て一人暮らしをする気はまだない。 * * * 「ただいまー」 「お帰り、健二さん」 リビングに声をかけると奥のキッチンから佳主馬くんが返事してくれた。オープンキッチンになのでリビングと繋がっているのだ。 「お帰り、今お茶入れてるけど健二さんも飲む?」 「あ、飲む」 部屋着に着替えてリビングに行くとソファで佳主馬くんがお茶を飲んでいた。隣に座るとお茶を入れたマグカップを差し出された。 「はい」 「ん、ありがと」 マグカップを受け取り一口飲むとじわりと体の内側が暖かくなる。春にはまだまだ遠い季節、暖かいものが何よりのごちそうだ。冷えていた体があたたまりほっとする。もう一口飲もうとしたらグイッと後へ体を引かれてしまった。 「っちょっ、零れるっ」 「大丈夫、半分しか入れてないから。健二さんの体冷たいね」 僕は佳主馬くんに後ろから抱きすくめられたのだ。 昔は頭一個分僕より小さかったのに今じゃ頭一個分僕より大きく成長した佳主馬くんは僕を胸のなかに抱き込むのが好きだ。そしてよく肩に頭をのせてくる。「重い」と抗議すると「健二さんは軽いね」と返されてしまう。小さいと言わないのは武士の情けなのかもしれないが腹立つのは変わりない。 まったくどんどん成長して自分より大きくなったと思えば、今度は人を食ったような発言が多くなってきた。あの小さくてプライドが高くて生意気で泣きベそをかいていた可愛い佳主馬くんはどこに行ったんだ! こんなことになるなら小さいうちに胸の中にすっぽりと抱きしめてお兄ちゃん気分を味わうんだった。 ・・・まあ普段は僕より落ち着いた彼にお兄ちゃん風を吹かす隙なんてほとんどなかったんだけどね。 佳主馬くんは何から何まで可愛くなく成長し、頼れる兄貴になった。 僕といえば心も体も成長せず佳主馬くんの胸の中にすっぽりとおさまるサイズで止まっている。 何より情けないのは今のこの現状が嫌じゃなく、それどころか気持ちイイなんて思ってる自分自身だ。 スポーツしてるからか佳主馬くんの体温は僕より高い。そんな彼に抱きしめられると冷えた体全体がじんわりとあたたかくなり身も心も安心するのだろう、眠くなってしまう。 ホントどっちが年上かわからない。 できればこのまま寝てしまいたいところだけど・・・ 「健二さん、もうご飯は食べたんだよね」 「うん、研究室でコンビニ弁当食べた」 出来るだけちゃんとしたご飯を食べるようにしてるけど残業がある日は別だ。体重も戻った今は佳主馬くんもそこまでうるさくは言わない。 「明日は休み?」 「うん、休める」 けっこう残業したので明日に持ち越す仕事はない。無事土日休みを確保した。 「じゃいいよね」 「・・・・・・・」 ここで「何が?」と言うほど鈍くはない。さっさから佳主馬くんの手が僕の体をなぞるように動いていたし、首から耳と頬に軽い口付けを落とされていたのだから。 でも「いいよ」とは言いにくいので黙っているとマグカップを取り上げられてソファへ押し倒された。心地よかった人間ソファはなくなり、人間ふとん化けて圧し掛かられてしまう。 「ん・・・」 舌で口腔を探られ息が乱れ始めるころには熱くてふとんはいらなくなるのに、お節介なふとんは服の方を剥ぎ取ってくれようとするので阻止しなければならない。 「痛ッ」 佳主馬くんの耳をひっぱり不埒な動きを止めさせる。 「健二さん何すんの」 口を尖らせた佳主馬くんに抗議されるがそれはこっちのセリフだ。 「こんなトコじゃダメ」 こんなライト付けっぱなしの明るいとこでなんて冗談じゃない。時と場所を選んで欲しい。 「・・・じゃ寝室に移動すればいいよね」 そう言って佳主馬くんはよいしょっと僕を横抱きにして歩き始めた。 「ちょっ降ろしてよッ」 お姫様抱っこなんて恥ずかしすぎる!? 「だーめ、お願いは一回まで」 「佳主馬くんっ」 その後は、毎週末繰り返された展開。 * * * これが、この部屋を出て行けない一番の理由。 期間限定だったはずの家族が本当の家族になりつつあるからだ。 僕自身はそれでいいとしても、この将来有望な青年を僕なんかに縛り付けていいのだろうか 彼には幸せになってもらいたいと思っていたのにその邪魔をしてるんじゃないか ついそんなことを考えてしまう。 一度佳主馬くんにそれを言ったら散々な目にあわされたのでもう口にはださないようにした。 どうしたものか・・・ そんな幸せだが悩ましい日々を過ごしていた。 <END> |
夏希ちゃんと健二くんごめんなさあぁぁぁぁぁい!とジャンピング土下座したい。特に映画を観た後にこれ書くと余計そう思った。 これははっきりいってカズケン書くための言い訳ssです。ケンナツ好きなんだけどカズケン大好きで書きたいし侘助も幸せにしてやろうかでこういう流れになりました。でもでも最後はみんなで幸せにしてあげるからね! えー次は佳主馬視点でお送りしたいです。 2009.10.22 |
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