Only ONE or No.01 - 後日談 - |
「佐久間」 「よぉ」 月曜日、大学のビュッフェで昼飯のパンをかじりながらノートパソコンでレポートを書いていると健二がやってきた。その手には5・6個の菓子パン・惣菜パンが抱えてられていた。そして俺の向いに座り、パンを2つよこしてきた。 「昨日はごめん。佳主馬くん佐久間んとこ行ったでしょ?」 「お詫び」と言いつつ渡されたそれをありがたく頂くことにする。パソコンをちょっと弄って横にやり、パンの袋を開けて齧りつく。寄越したのは俺の好きなクリームパンと焼きそばパン。長年の友人はこういうとこ分ってくれてるのがいい。 「ったくいつも俺を巻き込むなっつの」 「そう言いつつも結構楽しそうだよね」 「まあな、他人の不幸は蜜の味っていうしよ」 古今東西他人の恋愛模様はイイ娯楽と決まってます。それがキングならなおさらだ。 とはいえ非常識な時間帯に俺んちに押しかけて来た奴の愚痴を聞いてやって仲直りの知恵を授けてやったんだから俺ってイイ奴だよな。 あの後キングはご機嫌を損ねた健二を宥めるために健二が喜びそうなブツをスポンサーのツテを頼って手に入れて健二に貢いでいた。見事に健二のご機嫌は治ったらしいが健二はその貢物に夢中になって何時間もキングを放置プレイしたのはお約束だ。キングも覚悟していたのだろう怒ってないらしい。その代わりまた来週来ると約束して帰ったそうだ。 こういうとこは健二をよく理解していてイイ彼氏だと思う。けどそれ以外の部分を考えるとキングと健二は合いそうにない。 最初の頃は『こいつらやってけんのか?』と余計なお世話だと思いつつもよく思ったもんだ。今でも思う時がある。 「お前さー、何でキングと付き合うことにしたんだ?」 「どしたの突然」 「お前の性格ならあーいう派手なタイプとは付き合わないと思ってたからな」 こののほほんとした友人はもっと素朴なタイプを選ぶと思っていた。目立たず、ひっそりと数学の世界に浸れれば幸せなこいつにはオンでもオフでも派手なキングとはズレがありまくりだろう。 実際キングと付き合うことになってからこいつの周囲は賑やかになった。キングは名古屋と東京という遠距離を感じさせないほど頻繁に来るし、陣内家の面々からは今まで以上に遠慮なく連絡がくるようになって出掛けることが多くなったしし、キングと歩いてるのを見た周囲の女どもと恋の鞘当てみたいなのもあるようだ。今までのように自分の世界に引きこもることは出来なくなってきた。 こいつ自身も外に目を向けるようになった。コミュニケーションの少ない家庭で育ったせいかこいつは精神的にも引きこもりがちで積極的に他人と関わろうとしないし興味を持たなかった。それが陣内家の面々には積極的だし周囲の目と自分を見比べて客観的に観察するようにもなった。 ま、どれもイイ変化なんだよな。だから陰ながら応援している。 「何でなんて・・・その、好きだからに決まってるでしょ」 ほんのり顔を赤らめて恥ずかしそうに答える健二はなかなかに可愛らしい。写メしてキングに送ってやりたいくらいだ。 「好きでもイロイロ大変だろ、あーいうタイプは」 「大変ってわけじゃないけど・・・僕は四歳も上だしいろいろ悩んだ。けど、やっぱ好きだったから」 「ほぉ、困難より気持ちに正直になったわけね。そう思うほどキングのどこに惚れたんだ?」 「////って何だよさっきからッ、変な質問ばっかして!」 「んー迷惑料?、キングってばまだ俺のこと牽制するからなー。一昨日も言われたぜ。『健二さんに手出さないでよ』って」 「何でだろうね。そんなこと絶対ないのに」 「それ俺のセリフ」 そう言いつつも健二のことを100%性的に見てないといえばそれは嘘になる。 こいつのなけなしの胸の谷間を見ちゃったり、夏場の暑い時期に首筋に伝わる汗やキングのことを話してる時の女っぽい表情を見たときなんかはドキリとするときもある。俺も一応男ですからHしようと思えばいくらでも出来るだろう。まだ若いし。 でも手を出したいとは思わない。自分のものにしたいとは思わない。健二と恋人同士になりたいとは思わない。 俺達が恋人同士になったらそりゃ楽チンだろう。あうんの呼吸で話が通じるし、こいつのフォローもサポートもしやすい。そのまた逆も然り。今の俺達がより密着した関係になるだけだ。それって恋人になる意味あるのか?いくらなんでもお手軽すぎだろう。ときめきも何もない。 それに恋愛関係になったらこの居心地のイイ関係は終る。友達だからこそ適当な距離をキープしたままずっと仲良くいられたのだ。恋人ほど近くになったら絶対バランスが崩れる。それは勘弁だ。 俺は健二にはずっと優しくしていたいし、健二という居場所を確保していたいのだ。 ここらへんの微妙な心情が恋に盲目なお子様は判らないらしい。 妙に大人なキングがこいつに関してだけは年相応に馬鹿になるのは面白い。だがいつまでたっても疑われて睨まれるのは勘弁して欲しい。 「ほれ、言えよ。キングのどこに惚れたんだ?」 「////えと・・その・・可愛いとこ、かな」 「は?」 今なんつった? 「だから、可愛いとこ」 「・・・3年前ならともかく今のどこが可愛いんでしょうか?」 身長170cmを超え武道家らしく引き締まった肉体を持つ美丈夫に成長したキングに言うセリフではない。いや、確かに可愛いとこもあるが惚れるとは違う気がする。 「佳主馬くんて昔から僕のあとをついて回ってね、それがすっごく可愛いかったんだ」 「・・・昔のサイズなら可愛かったかもな」 「そのくせ素直じゃないの。何気なさを装って僕の傍に来るのがすごく可愛くて、笑いをこらえるのが大変だったな」 ・・・こいつも案外人の悪いとこがある。 「で、それが段々素直になって、真正面から僕を見るようになってきて、段々格好よくなっていって…そういう変化を見てたら、もっと傍で見ていたい、もっと一緒にいたい、もっと…と段々欲がでてきて、ああ、自分は佳主馬くんのことが好きなんだって気付いたんだ」 「何だ、俺はてっきり告白されてから意識したんだと思った」 「ううん、その前からだよ」 これは意外だった。この友人はそんなそぶりはちらとも見せなかった。 「ただ告白されるまでは僕も付き合いたいとかそんなこと考えてなかったんだけどね」 「あ、やっぱ?」 「だって僕は4歳も年上だし、佳主馬くんは格好良くなっちゃったし、キングだし、釣りあわないよ」 「お前だって十分すげーけどな、方向逆だけど」 「ホント真反対だよね…」 片や誰もが知るメジャーなOMC世界チャンプ、片や知ってる者の方が稀な数学会の世界チャンプ級 ここまで反対なカップルも珍しい。 「お前さ、そんな風にキングのこと見てたんならキングがお前のこと好きだって気づかなかったのか?」 「もしかしてって思うことはあったけどまさかなーって思ってた」 「そんなもんか?」 「だってあの夏から僕のことヒーローみたいに言うんだもん。その延長としか思わなかったよ」 「あー…そうだな」 「だからさ、僕から告白なんて考えたこともなくて…佳主馬くんから告白された時はすごく嬉しかった」 そう言ってほんわり笑う姿はキングでなくとも惹きつけられるものがある。こいつは本当にイイ顔をするようになった。ちょっと悔しいがキングのお陰だ。 「ゴチソウサマデシタ」 「ドウイタシマシテ。…聞いたのはそっちだろ」 「ま、な、でもこれ聞いたらキング落ち込みそうだよな。惚れた一番の理由が『可愛いから』だなんて」 あんだけ一生懸命に歳の差を越えようと頑張ってるのに。その努力に見合うだけの格好良さは身につけたのに。その努力は斜め方向で実っているので無駄とは言わないが。 「あ、内緒だよ。可愛いって言うと微妙にむくれるんだから」 「へーへー、そういうとこまだまだお子様だよな」 「そこも可愛いんだけどね」 哀れキング…君の苦悩は健二を喜ばせるだけらしい。 照れくさそうに「えへへ」と笑うこいつは実は最強だ。長い付き合いの俺でも驚くくらい、たまに懐が広く深く底が知れない面をのぞかせる。 以前大人しく見えるこいつに目をつけて付き合おうとちょっかいを掛けた奴がいた。そいつは健二のことを舐めてかかり自分の意のままにしようとしたがこっぴどく振られ退散した。最低なことにそいつは好き勝手に健二に悪態をついて逃げ出しやがった。あの時は少なからず健二を傷つけた。 今はそんなこと思わないが、最初キングとも似たようなことが起きるのではないかと心配していた。 でもキングはこいつの凄さを目の前で見て知っているし、尊重している。 そしてこいつはこいつでキングを可愛いと思って大事にしている。 押せ押せのキングを健二がこの調子でのほほんと尻に敷くなら安心だ。もう心配する必要はないだろう。 「でもそれなら納得だし、安心かも。お前らが付き合い始めた時は大丈夫か?って思ったけどな」 「心配かけた?」 「少しだけな」 余計な心配だったようで何よりだ。 「にしてもお前助かったな」 「何が?」 「キングが貧乳好きで(笑)」 「ちょっ佐久間!(怒)」 真っ赤になって喚く健二をからかいながら横に置いたパソコンのキーボードをちょっと弄る。 画面から【REC】の文字が消えた。 あんまりにもキングが嫉妬するもんだから健二が友人の自分のことをどう思ってるのか、キングのどこに惚れてるのか、内緒で聞かせてやれとイタズラ心が沸いたので録音してみただけだった。でもこの内容だと逆に泣きかねない。一瞬消そうかと思ったがどうせならとっといてこいつらが結婚するときにその余興で流してやるのも一興だ。そう思ってそのままにしておくことにした。 この会話がどう使われるかは、その後の二人次第。 ☆ オマケの天岩戸攻防戦 ☆ 日曜の朝から傍迷惑なバカップルは扉の前で「開けてよ」「開けない」の攻防戦を繰り広げていた。 「ねぇ健二さん入れてよ」 「ヤダ」 「まだ怒ってるの?」 「まだ8時間41分しか経ってない」 「僕あと10時間くらいしか東京にいられないんだけど」 「もう東京に20時間以上いるんだから十分でしょ」 「それ、本気で言ってる?」 「・・・・・・・・・・・・」 「あのさ健二さんのために用意した物があるんだ。それだけ受け取ってくれない?」 「・・・何?」 「○○雑誌のオマケについてる数学問題集」 「えッだってそれまだ発売されてないでしょッ」 「アメリカではもう発売されてるからあっち在住のスポンサーに買ってもらってその部分をスキャンしてメールで送ってもらったの。あとはキン○ーズでプリントアウトして製本した」 「・・・・そんなこと頼んで後で無理難題言われない?」 「大丈夫、これくらいの借りならすぐ返せる。でも健二さんに要らないって言われたらそれも全部無駄になるんだけど」 「・・・・・・・」 「だから、入れて?」 暫しの沈黙の後、ガチャリと扉が開き健二さんは顔を出してくれた。そしてバツが悪そうに「…昨日は追い出してゴメン」と小声で呟いた。僕も「こっちこそ無神経でゴメン」と謝って軽く抱きしめた。 無事仲直りしたあとは貢物に目を輝かせて夢中になる健二さんを眺めながら数時間を過ごして名古屋へ帰った。 イチャイチャできた時間は少なかったけど、たまにはこういう日があってもいい。 END |
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うちは 健二(可愛いなぁ)→←←佳主馬(好き好き!) が基本です。 付き合い始めはキングはいっぱいいっぱい。自分が年下で可愛いと思われてるのを利用するほど強かになるのはもう少し先だと思います。まだ16なんだからそれくらいでないと可愛くないしね。佳主馬は可愛くて何ぼです。健二さんはひたすら格好良いとイイ。 佐久間と健二は男女の友情だったら萌えるなー。佳主馬と何かあったら慰めてやるよポジション。佳主馬たん油断できません。この緊張感が良い。キング頑張れ。 この貧乳健二さんシリーズ(いつのまにかなってた・苦笑)はH編からスタートしてしまったのでこうして後日談みたいに後からどういう風に好きになったとか書けたらいいな。佐久間書くの楽しい。 そうそうこのシリーズは一回は貧乳と言わせるのがお約束となってます(笑) 2009.11.15 |
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