Only ONE or No.1

☆初めて物語の数ヵ月後です☆

 土日休みを利用して東京へ遊びに来た。
 いつもならの夜に金曜に来るのだけれど今回は用事があって無理だった。
 なのでたまには外で待ち合わせしてデートしようと普段はいかない六本木ヒ○ズで待ち合わせた。特に行きたいところがあるわけではないがたまにはお洒落なとこでランチでもしようと思って選んだ場所だ。まだ高校生が何を無理してるのかといわれるかもしれないが、4歳も差があるんだから見栄を張らないと釣り合わない。

「あ、佳主馬くん!こっち!」

 先に来ていた入り口のオブジェの下で健二さんは満面の笑顔で迎えてくれた。今日の装いは珍しくワンピースだった。柔らかいクリーム色で胸の下で切り替えしからふんわりと広がり健二さんの清楚な雰囲気ととても合っていてかわいい。いつもならもっとカジュアルな格好の多い彼女だのだけれど、場所柄かいつもよりお洒落して女の子っぽい格好をしているのかもしれない。
 10代向け雑誌のデート特集に書いてあった「マンネリ化は一番の大敵!たまにはデート場所を工夫して彼女や自分の違った面を見よう!見せよう!」と書かれていたが確かにその通りだ。こういう場所でないとここまで女の子らしい格好はしてくれなかったかもしれない。
 雑誌なんか要らない関係ないとつっぱねた自分に『何いってんの。恋愛はゲームじゃないのよ!勝ち負けみたいに単純じゃないんだからちゃんと女心を勉強しなさい!』と言って無理矢理読ませた母にちょっとは感謝してもいいかもしれない。ちょっとなのは明らかに息子をからかって遊んでるからだ。

 あれ、でも何か変…。

 すごく可愛いんだけど何か違和感を感じついじっと見てしまう。

「佳主馬くん?」
「・・・そのワンピース可愛いね。すごく似合ってる」
 
 思うことがあったが今言ったら確実に機嫌を損なうだろうと思いそこは言わずに素直な感想を述べた。強い陣内家の女性陣に揉まれているので言わずにいた方がいいこととそうでないことの区別は身についている。それに可愛い事は可愛いのだから文句はない。

「あ、ありがとう///。先週夏希先輩と買い物に行って見立ててもらったんだ///」
「ふ〜ん、ねぇ僕にも服見立てさせてよ。この後買い物しよ?」
「えッいいよ!」
「いいでしょ。彼女を着飾らせるのは彼氏の特権。夏希姉ばっかずるい」
「と、特権て///、でも服って高いし・・・」
「たまには甲斐性あるとこ見せさせてよ。伊達にキングやってるわけじゃないんだから。さ、まずはランチ行こう。美味しいって聞いた店予約してるから」
「あ、うん」

 こうしてちょっとお洒落なランチをとって、しきりに遠慮する健二さんにかわいいスカートやワンピースを数着買って、支払時にOZプレミアカードを使って店の人を驚かせて甲斐性のあるとこを発揮して、それなりにロマンチックな雰囲気になり帰途へついた。
 そして健二さんの部屋についたら恋人たちとして正しく仲良くしたのは言うまでも無い。



 * * * *



 健二さんがシャワーを浴びてる間に手持ち無沙汰なのでシーツを交換して、脱がせた衣服をまとめて洗濯機へ放り込もうとした。その中に気になるものを発見。

「あ、やっぱり・・・」

 昼間の違和感を裏付ける物証がでてしまった。

「ちょッちょっと!佳主馬くん何見てるの!!!」

 丁度シャワーから上がってきた健二さんに物証を速攻奪われてしまった。
 真っ赤になって後へ隠してるけどけどもう見ちゃったんだから無駄だと思うんだけどね。

「それ、【寄せて上げてブラ】だよね」

 そう、違和感の正体は【胸のサイズ】だった。 
 明らかにいつもより大きく、谷間ができていた。初めて見る者は判らないだろうが自分は実物を知っているのでハッキリと判った。
 寄せて上げてブラは胸部分の下側にパットが縫いこまれているブラジャーだ。これを装着するとしたから胸が下から寄せて上げられるので胸の谷間が強調され大きく見える。そして外してもパットが零れる心配が無いので脱がされてもそうそうバレない優れモノだ。

「な、何で知ってるの!!!」
「直美さんと理香さんにウソ胸の区別の仕方を叩き込まれたから」
「ええええええ!」

 あの独身組は困ったことに年頃になった甥っ子連中をからかって遊ぶのが大好きだった。キングと呼ばれる自分も例外ではない。
『佳主馬、見てごらん。あのキャスター寄せて上げてブラ使ってるから』
『あのブラすると皆同じ胸の形になるから一発でわかるんよ』
『あの顔も相当気合いれて化粧してるね〜』
『眉毛描いて、アイラインきっちり引いて、付け睫毛してれば顔変わるわよ。お風呂に入った後ビックリするから』
『顔や胸はいっくらでも誤魔化しきくからね。騙されるんじゃないよ』
 などなど聞かされて育ちしっかりと耳年増になってしまった。
 そのおかげで女性を見る目が厳しくなったし、化粧でバッチリ決めた派手な美人や、清潔で自然体だがハッキリ自己主張するタイプよりも、奥ゆかしく清楚な雰囲気の異性の方に好感を持つようになった。確実にあの二人とは別のタイプが好みになるなんて反面教師だったんだろう。
 そんな僕の好みにミラクルヒットした健二さんにはあんまりこういうモノを使って欲しくないのが正直なところだ。
 
「別に大きくなくてもいいって言っているのに、何でこういうの使うの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「健二さん?」
「・・・だって、見られるんだもん」
「回りの男から?」
 
 本音を言えば自分以外の男には見せたくないところだが、健二さんが可愛いので通りすがりの男が目に留めるのは仕方ない。

「違う、女の人」
「女?」
「佳主馬くんと歩いてると、まわりの女の人からよく注目されるの」

 まあ自分で言うのもなんだがそこそこ長身で引き締まった体躯を持ち整った顔立ちをしている自分はそれなりにモテル。一人で歩いてるとよく声をかけられた。

「・・・佳主馬くん格好良いから女の人が注目するのは仕方ないと思う。でもその次に自分を見て比べられるのが嫌なの」
「どういうこと?」
「佳主馬くんと歩いてると女の人から睨まれることがたまにあるんだよね。最初は気のせいかと思ってたんだけど前に『この女?大したことないじゃない』って言われたことがあったんだ」
「何それ」
「その人は佳主馬くんが待ち合わせに一人でいるときに声をかけて振られたみたい。その時に丁度僕が来たもんだからすれ違いざまに言われたんだ」

 驚くべき内容に唖然とする。そういえばそのようなシチュエーションがあったような気がする。健二さんが女とすれ違った時に驚いたような顔をして相手を振り返ったことがあった。『どうかした?』と聞いたけれど『何でもない』と答えられた。あの時だったのか…。

「それ以来、ちょっと回りの女の人の視線が気になって…。僕はあんまり格好とか気にしてなかったけどもうちょっとお洒落した方がいいかなって思うようになったんだ」
「僕は今のままでも十分なんだけど」

 自分のためにお洒落してくれるのは嬉しいが周囲を気にしてのお洒落なら無理をすることはないと思う。そう思って言ったが彼女はううんと首を振った。

「これは僕の問題」
「・・・」
「佳主馬くんだって僕は気にしてないのに、年下だとか、もう今は高いけど背が低かったこととか気にしてたでしょ?それと同じ。僕だって見栄張りたいの。佳主馬くんに相応しい自分でいたいの」

 健二さんは「言っちゃった!ああ恥ずかしい!!」などと顔を赤くしている。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ナニこの天然で男前で可愛い生き物・・・!
 絶対勝てない!完敗だよ!!!

「・・・わかった。なら、もう言わない」
「うん」
「でも僕はありのままの健二さんで十分だということだけは覚えてといて?」
「///うん、それは佳主馬くんも、だよ?」
「・・・うん」

 あーもう恥ずかしいなあ、僕たちってなんでこんなに恥ずかしいんだろう。
 僕も健二さんもお互いと自分のために見栄をはってそれが原因でこじれてまた仲良くなって。
 なんて面倒で恥ずかしくて嬉しいんだろう。
 これが恋愛ってことなんだろうか。
 こんなのOMCでいくら強くなったってわからない。
 健二さんに出会わなければ一生わからなかったかもしれない。

「ちょっ、佳主馬くん///」
「可愛い健二さんが悪い」

 可愛くてたまらない健二さんをぎゅーっと抱き込んで思いっきりキスをする。
 喧嘩イベント(?)の後は更に仲良くして関係を深めるのはお約束だ。
 シーツを取り換えたばかりなのがちょっともったいないか

「ん・・・佳主馬くんッ」
「健二さん可愛い、ほんっと可愛い」
「/////んッ」

 ふにふにと健二さんの尻や背中をさわりながら首に耳に口づけを落としていく。
 当然胸にも触る。
 風呂上がりでノーブラな健二さんの胸は自然体のままだ。つい手ブラしてみたくなる。
 うん、やっぱ何もないほうがいい。

「///うううう恥ずかしい触りかたしないでッ」
「いや、やっぱこのままがいいと思ってその確認」
「もうしつこいよッ」
「小さい方が張りがあってなんか触り応えがあるし、可愛くてエロい」
「え・・・」
「大き過ぎるとぐにゃぐにゃして気持ち悪いし」
「・・・・・」
「やっぱ健二さんの胸はこのままがいい」

 出来るだけ健二さんの貧乳コンプレックスを和らげたくて、今の状態でいかに満足しているか伝えたかった。だけど何故か健二さんの体が強張っていく。あれ?

「ねぇ・・・佳主馬くん、やけに具体的だね」
「え?」
「しかも【小さい方】がって言うからには【大きい方】を触ったことあるんだ?」

 ・・・しまった。しゃべりすぎた。
 いつも陽だまりのごとくほやほやとした笑顔の健二さんが目を細めてブリザード級の笑顔で問いかけてくる。寒い、すごく寒いんだけど・・・

「いくらなんでも理香さんや直美さんのじゃないでしょ?誰?」
「・・・・・・」
「佳・主・馬・くん?」

 なんだろう、健二さんの背後からブラックラブマが見えてるような気がする…
 ヤバイ、本能がそう叫んでる。これは誤魔化せそうになない…。
 
「…スポンサーのプロジェクトに参加したときにスポンサー側の交渉役のになった女性がいて、その人が僕のことをみて気に入ったらしくて無理矢理迫られたことがあって…」
「あって?」
「無理矢理体を押し付けてきて手をとられて胸を触らせられたことがあった」
「ふーん」
「それだけだからッ浮気じゃないよ!」

 僕はすぐさま彼女を振りほどき彼女の上役に訴えて担当を替えてもらった。それ以降そこでの仕事はしていない。健二さんにそう訴えたんだけど…。

「…わかってる。佳主馬くんが浮気なんかしないって」

 そう言ってくれてほっとする。が・・・

 ボスッ

「痛ッ」

 クッションを投げつけられたッ

「わかってるけど・・・腹が立つの!!!」
「ちょ、健二さんッ落ち着いてよッッ」

 ボスボスッと次々とそこにあったものを投げつけられる。タオルだったり服だったりするので痛くはないが涙ぐみながら怒る健二さんを見るのが痛かった。

「今日は帰って!」
「ちょッ健二さんッ」

 終いには僕の荷物を玄関に投げられて。部屋から追い出そうと玄関に押し出される。あんな仲良くしといてこんな夜に帰れだなんてあんまりだ。せっかく名古屋から来たのに!明日も休みなのに!

「僕が触ろうとしたわけじゃないんだよッ被害者はこっちなのにッ」
「わかってる!でも腹立つの!」
「何で」
「だって比べたッ」
「比べたっていってもそれは健二さんのがいいなって意味でしょッ全然悪い意味じゃない」
「それが嫌なのッ、佳主馬くんばっか比べてずるいよッ」
「何がずるいの」
「だって、僕は比べられない」
「あ・・・」
「僕は佳主馬くんしか知らないのにッ!」

 ・・・・・! ヤバ、ズキュンときた…!

 が

「どうせ僕は貧乳だもん!!!」

 バタンッ

 その可愛さにズキュンとしてる間にとうとう部屋から叩き出されてしまった。

 流されやすそうでいて非常に頑固な彼女はもう今日は絶対部屋には入れてくれないだろう。付き合いの長さで身に沁みてわかってる。
 仕方ない、朝までどっかで時間を潰して明日ご機嫌伺いに行こう…
 すごすごと部屋の前から撤退していった。

 健二さんの前ではキングも形無しです。

 
 口は災いの元

 特に女性には不用意な発言は大敵です。

 まだまだお勉強が必要なキングさんでした(笑)




(終)




☆ オマケ ☆


 ちなみにその後のキングさんは、愚痴を零したかったこともあって佐久間くんの家に転がり込んでいた。
 
「あーそりゃキングが悪いわ」
「・・・わかってる」
「良かれと思って言ったんだろうけど貧乳コンプレックス刺激するだけだぜ」
「うるさいな、わかってるってば!」
「どうだかね〜」
「元はといえば健二さんが貧乳コンプレックスになったのって佐久間さんのせいでしょ!」
「おれのせいかいッ」

 男同士ぎゃぎゃいとそれなりに楽しく過ごしたそうな。


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唯一兼一番は嬉しいだろうけど、相手が唯一のみだったら腹立たしいだろうなって話で。健二さんは案外嫉妬深いと思います。独占欲・執着ともにどっこいどっこいの二人だといい。
某方の「お洒落してつめた健二さん」に触発されて書いちゃった。どこまで貧乳好きなんだ自分はと呆れます。ごめんね健二ちゃん。

2009.11.13
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