☆ 性少年の裏事情 β ☆

オフで出した『僕の許嫁』の作中ネタ&その後話です。以下簡単な設定。
健二=男の子みたいな外見の女の子
佳主馬=15歳で健二さんと身長逆転のイケ男に成長
出会った時はノリで許嫁になってしまう(オフのサンプル参照)
1〜2年はお友達として仲良しこよし
3年目に恋人となる。


 去年の夏休みに皆で夏祭りに行った。

 祭りと言えば浴衣なのでそれぞれ浴衣を着て行こうと話していた。
 この家にはたくさんの浴衣があるので僕と健二さんも借りることにした。
 僕のは普通の白地に藍色の波模様が入っている男物を手渡された。
 問題は健二さんで、女性陣は「健二くんにはどの浴衣がいいかしら」「可愛いのがいいわよね〜」と楽しそうに健二さんにいろんな柄をはおらせて遊んでいた。結局、淡い水色と桃色に白い小花の模様が入った浴衣に決まったらしい。因みに健二さんの「あの、出来るだけ地味なのがいいです…」という意見は却下されたそうだ。
 さあこれを着よう!という時に当の健二さんが浴衣を一人で着れないことが分かった。
 それを知った万理子おばさんは

「陣内家の嫁たる者が浴衣くらい着れなくてどうするの!」

 と息巻いて健二さんに徹底的に浴衣の着方を教えることにした。
 まあ浴衣なんて着るの簡単なんだからすぐ覚えると思うんだけど、不器用な健二さんはなかなかうまく出来なかったらしい。皆の支度が終わってもまだうまく着れず四苦八苦してた。もう万理子おばさんが着せてしまえばいいと思うんだけど、こういう機会を逃しちゃいけないということで自分でやらせると言ってきかない。
 この分だといつ出来あがるか分かったもんじゃない。皆に僕が待ってるから先に行っててと言っといた。健二さんに懐いてる子どもたちはブーブー文句を言っていた。その親達はニヤニヤして「二人でどっか雲隠れすんなよー」「頑張れ―」とかなんとか言いいつつ子供をひきずって行った。だから14歳のまだ精通すら来てない子供に何をどう頑張れと言うんだと思いつつ、彼らを黙って見送った。
 そして数十分、縁側でハヤテとじゃれながら待っていると、後ろの障子がカラリと開き「お、おまたせ…」と声をかけられた。やっと健二さんの支度が終わったらしい。その声は弱々しく消耗しきった様子だった。
 そんな調子で祭り行って大丈夫なのかなと思いつつ後ろを振り向くと…

「・・・」

 ちゃんと”女の人”に見える健二さんがいた。それどころかちゃんと”可愛い女のひと”に見える。正直、驚いて声が出なかった…。
 柔らかい色の浴衣はとても健二さんの雰囲気に似合っていた。浴衣だとぺったんこな胸は全然気にならないし、抜かれた襟からのびる首筋の細さと白さが目立ち、健二さんは本当に女の人なんだと思い知らされた。照れて頬を掻く仕草が可愛いと思うと同時に、袖からのぞく白い腕とその奥が見えてドキリとしてしまった。着るものだけでここまで変わるとは驚きだ。
 そう思ったらつい「馬子にも衣装…」と呟いてしまった。
「あんたはッ」
「聖美さんッ」
 パコんッ、と耳ざとく聞き逃さなかった母さんにはたかれてしまった。妹が小さいので留守番組の母は健二さんの支度の手伝いをしていたらしい。その横では万理子さんも怖い顔をしていた。「似合うね」とか「わー可愛い」とかの言葉を期待したのに「馬子にも衣装」なんて言われて怒らせたようだ。健二さんははたかれた僕を見てあわあわとしている。
 健二さんも似合うとか言われたら嬉しいのだろうか?かといって今さらそんなの言いにくいので…
「行こう、健二さん」
「あ、うん」
 健二さんの手をとって強引に歩きだした。
 後ろで母さんが「佳主馬ッ」とか叫んでるが無視してその場から逃げだした。


 カランコロンと下駄の音を響かせながら夜道を歩く。祭り会場は家から歩いて20分ほどのところにある。健二さんも僕も下駄なのでゆっくりとした歩調で向かっていた。
「健二さんスカートは嫌いなのに浴衣は平気なんだ」
「うん、浴衣なら足がスースーしないし、女物も男物も作りは一緒だから違和感ないんだよね」
「違和感?」
「スカート履いた自分見るとなんか違和感感じて嫌なんだよね」
「…そんなスカート似合わないの?」
「うん、似合わない」
「ふぅ…ん」
 制服みたいな濃い色ならともかく、もっと淡い色のスカートなら似合うと思うんだけど。健二さんがスカートは似合わないと思いこんでるだけだと思う。スカート姿の健二さんも見てみたい。そう思ったけど口にはしなかった。
 その代わり、先ほど言えなかった事を言うことにした。
「…あのさ、その浴衣似合ってるね」
「あ、ありがと」
 パッと健二さんの顔が赤くなったのが夜目にもはっきりわかった。あんまり見かけとか気にしない健二さんも褒められると嬉しいんだ。可愛いなと思いながらその赤い顔を見ていると、ふと、いつもと違うのに気付いた。
 あ、僕が高下駄だから視線が近いんだ…。
 僕の方が頭一つ分小さいはずなのに、その差が少し縮んで健二さんの顔が見やすくなっていた。
 成長したわけでもないのに健二さんに近くなったようで嬉しかった覚えがある。


 * * *


 それから一年後…

 僕と健二さんは今年も上田の夏祭りに来ていた。
 でも去年と違って僕と健二さんは形だけの許嫁から本当の恋人同士になったことだ。
 隣を歩く健二さんは僕が買った浴衣を着ていてとてもかわいらしい。
 僕の身長も伸びて下を覗かないと健二さんの顔が見えないくらいだ。
 もう兄弟と間違われることはない。
 繋いだ手も堂々と恋人握りだ。
 大変満足な結果なのだが…あの頃と違ってちょっと困ったことにもなっている。
 
 だってさ…浴衣姿の健二さんてメチャメチャ可愛いんですけど…!

 去年は『へぇ、可愛いなー』で済んでいたのに、今年は『・・・ヤバ、可愛すぎ』なのだ。
 何がヤバイかって…、開いた襟からのびる白い首筋とか、袖の奥からチラリと見える白い腕とか、ハラリと裾から覗く足首だとか、とにかく目に毒なのだ。
 去年は浴衣に隠れた部分は知らなかった。
 でも今は知っている。知っているからこそ…たまらない。
 もっと襟を広げて首筋に噛みつきたい、襟から手を差し込んで乳房をつかみたい、裾をまくって奥の白い太ももに触りたい…、などの衝動を耐えるのに必死だった。
 その感触を知ってるからこそ、浴衣のチラリズムがどうしようもなく僕を煽った。
 でもこんなこと健二さんに言えるわけもなく、にっこりと健二さんに笑いかけながらひたすら耐えていた。
 これが東京なら問題は無かった。
 祭りが終わったあとにホテルへ行けばいいだけだ。健二さんはホテルなんか行きたくないと渋りそうだがおねだりすれば付き合ってくれるだろう。
 でもここは上田だ。周りは田んぼだらけでホテルどころか民家すらあまりないような場所だ。二人で雲隠れしたくともする場所がない。だから困っている…。
 二人で祭りに行く時に、あの三兄弟は「浴衣汚すなよ〜」とか「ここらへんの林は背が低いから止めとけ〜」とか「神社の周りは当番が巡回してるから止めとけ〜」とか、より具体的にからかわれてしまった。これはからかいというよりアドバイスに近いかもしれない。でもどうせ言うならはっきり雲隠れ出来る場所まで教えて欲しかった…。
 こんなふうに自分がヤリタイ盛りの悩みを持つなんて思わなかった。
 去年みたいにふんわりとした感情じゃなく、こんな生々しい欲を抱えるなんて思ってもみなかった。
 健二さんに恋してから自分はただの馬鹿な子供になった気がする。
 でもこれが恋することだというのだから仕方ないのだ。


 佳主馬は隣を歩く健二さんの可愛さに満足しつつ、顔と下半身に力を入れた。



 まだ十五歳の佳主馬は知らないが、陣内家の男子の間で代々受け継がれる鍵があるそうな。
 十八歳になったら年長者から年少者に向かって渡されるそれは裏の蔵の鍵だった。
 誰も通らず、一度入ってしまえば声ももれない、絶好の逢引き場所だった。
 代々の陣内家男子はそこのお世話になっていたらしい。
 だが佳主馬はまだ十五歳、知るには早い。
 いくら許嫁がいようがそれは同じだ。
 あと三年、我慢の日々がつづく佳主馬だった…。


陣内家男一同心の声 「「「まだお前には早い」」」



END
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あんだけ広い家だと蔵とかあると思うんだよねー。

2010.4.5
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