おお婆ちゃんがおお爺ちゃんの隣に入る日が来た。
学校があったけれど休んで、母さんと父さんと僕と母さんのお腹に入ってる妹と家族4人でおお婆ちゃんがお墓に入るのを見届けた。僕達だけじゃなく親戚の皆もいた。侘助伯父さんもアメリカから帰国していた。健二さんもわざわざ学校を休んで来てくれた。
お葬式のように盛大に行う訳じゃなく、粛々と、静かにごく一部の親しい人達だけで見送っていく。
万理子おばさんに抱えられたおお婆ちゃんは小さな壺の中に入っていた。
入っているというと語弊があるかもしれない。
でもこの白いカルシウムの塊りは間違いなくおお婆ちゃんでもある。
お坊さんを先頭に皆で陣内家先祖代々の墓の前に行く。
お墓の石は外され、もう納骨の準備がされていた。
外から見るお墓の中は暗かった。
土の中だからじめじめしていることだろう。
そこへおお婆ちゃんを納めるんだ。そして重い石の蓋をされるんだ…。
なんだろう、そう思うと、何故か泣きたくなった。
もうお葬式で別れはすましたし、荼毘に付されておお婆ちゃんだった形はどこにもない。
壺に納められた遺骨を納めるだけなのに、何故か、泣きたくなった。
最後まで結婚指輪を外さなかったおお婆ちゃんがおお爺ちゃんの隣に行くんだ、そう思えば全然悲しいことじゃない。なのに、泣きたくなった。
土の下に入ればもうおお婆ちゃんは本当に手の届かない場所に行くんだ。もう見える場所にはいない。その欠片すらもう見えない場所に行く。それが悲しいのだと思う。
お別れは済ましたと思ったのに、まだ、十分じゃなかったんだ。
僕はまだおお婆ちゃんと離れ難かったんだ…。
でも本当には泣かなかった。
別れは十分じゃなかったけれど、自分の中で有る程度の整理はできてたんだと思う。
お坊さんがお経を上げるなか、皆で焼香をし、お骨が納められるのを見守った。
石の蓋がされるとき、あちこちですすり泣く声がもれた。
母さんはこらえきれないように肩を震わせ涙を零し、父さんがその肩を抱いてさすっていた。僕は父さんの反対側に立っていた。そのすぐ隣には万助お爺ちゃんは目を赤くして唇を噛みしめて立っていた。太助おじさんはメガネを外して目頭を押さえている。翔太にぃは唇を噛みしめて俯いていた。唇をかみしめるところが一緒だった。直美おばさんは頭を傾けて切なそうに見つめていた。
万理子おばさんは目頭を押さえつつ気丈にまっすぐ立っていた。その隣には理一さんと理香さんが付き添っていた。理一さんの表情はいつもとかわらず穏やかだ。でも理香さんは俯いていて顔が見えない。少し震えているから多分泣いてるのだと思う。
万作おじさんは意外なくらい静かな表情で見送っていた。同じく克彦・邦彦・頼彦おじさんたちも静かな表情でたたずんでいた。普段から人の死に目にあう職業だから別れに対する心構えが違うのかもしれない。お嫁さん達の方が涙ぐんでいた。子供たちはどう思っているんだろう。お葬式の時のように大泣きはしなかったが涙ぐんでいる母親達を心配そうに見ていた。
侘助おじさんは皆より少し離れたところで墓を見つめて一粒・二粒の涙をこぼしていた。今は皆で揃うと普通に皆と同じ食卓の端に座るので、心の整理をつけたいから距離をとっているのかもしれない。
篠原の叔母さんは片手で顔をおおっていた。その肩をおじさんが抱いている。夏希ねぇはお母さんに寄りそうように立っていた。でも顔は気丈に上げてお婆ちゃんを見つめていた。
もしこれがお葬式の直後に行われていたら、多分、僕も皆も涙をこらえられなかったと思う。お葬式から一ヶ月経ったからこそ、悲しくとも穏やかな気分で見守ることが出来たんじゃないだろうか。
それでも別れのさびしさを補うように皆なんとなく家族で固まって立っていた。
ふと気になって健二さんを見ると、彼は一人で立っていた。
夏希ねぇは叔母さんのほうに寄りそっていたから健二さんは遠慮して少し離れたのかもしれない。一人あぶれて立っているようにも見えた。
健二さんは僕から1mちょっとの距離。その独り立つ姿がなんとなく嫌で2歩進んだ。
僕と健二さんはあと一歩進めば触れ合える距離になった。でも進まず隣に立つだけにした。健二さんが独りでなければそれでいいからだ。
僕の動く気配に気づいた健二さんはこちらを見てニコリと笑った。
その目は赤くなかった。静かな笑みだった。
この人は泣かないんだ…
やっぱりと思ったけど、泣いたとこも見てみたいと思った。
END
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