なんとなく息苦しくて目が覚めたら目の前に佳主馬くんがいた。
鼻と鼻がくっつきそうな超至近距離でこちらを見つめる佳主馬くんが見えた。
何でこんな近くにいるのか問いただしたいけど、下手に口を開くとその息が相手にかかりそうでなんとなく躊躇われる。
奇麗に吊りあがったアーモンド形の佳主馬くんの目を見つめながら今の状況を整理する。
自分→寝ている→布団の中
佳主馬くん→僕の上→僕の上に覆いかぶさっている
場所→陣内家の客室→僕が使わせてもらってる部屋
時間→昼らしい
寝る前の記憶→栄さんの誕生日会→そして…
思い出した途端、その情けなさに恥ずかしさに顔が赤くなる。
ああ、穴があったら入りたい…
このあとどんな顔して夏希先輩に会えばいいんだろう…
独りで百面相をしていたら、ふっと佳主馬くんが僕の上から離れた。
どうやら彼は倒れた僕の付き添いをしてくれていたようだ。
「気分はどう?」
上から佳主馬くんの冷静な声がふってきた。
「あ、うん、大丈夫、かな?」
「頭は痛くない?」
言われて頭を触ってみる。うん、痛くない。
「うん、平気みたい」
「そう、ならいいんだけど。頭痛いようならすぐ万作叔父さんが診るから呼べって言ってた」
「診てもらうまでもないよ…」
夏希先輩にキスしようとしてのぼせただけなんだから…
ああ、情けない…。
「頭痛くないならもう少し寝てる?」
「ううん、平気。もう起きるよ」
よいしょっと腹筋で体を起こした。そして息苦しさの原因、ティッシュの鼻栓をとる。
うん、もう鼻血は止まってる。
そんな僕の様子をじーっと見ていた佳主馬くんが突然聞いてきた。
「…ねぇ、キスってそんなに興奮するもんなの?」
「へ!?」
「そんな鼻血でるくらい興奮するもんなの?」
「え、いや、その…」
興奮するかしないかなんてもちろん興奮するに決まってる。
興奮しすぎて未遂で終わったが、無事出来たらどれだけ興奮するのだろう。想像すらつかない。
でも今日の調子ではキスできるのかどうかすら怪しいけど…
夏希先輩とキス…想像するだけで頭に血が上る。
「…やっぱもう少し寝てたほうがいいんじゃない?」
再び顔を赤くしたした佳主馬くんが心配げに聞いてきたけど首を振って否定する。
大丈夫、もう鼻血はでてない。
「へ、平気だよ。でも何でそんなこと聞くの?」
「健二さんすごい鼻血吹いてたからキスってあんなに興奮するのかと疑問に思っただけ。」
「いや、あんなの僕だけだと思うから・・・第一未遂だったし・・・」
「だからさっきさ、試しに健二さんにキス一歩手前まで顔近づけてみた」
「はい?」
「でも全然興奮しなかった」
「当たり前ですから!」
「本当にキスしてみたら興奮したかな」
「いやいやいやいやいや」
不思議そうに首をかしげる様は可愛いが激しく間違ってますから!
佳主馬くんてちょっと変・・・
これはちゃんと答えないと変な実験しそうで危ないかも・・・
「えーっとね、キス自体も興奮するけど、それよりも好きな相手とだから興奮するんだよ?」
あの時の相手が別の女の子なら鼻血まで吹かないと思う。あそこまでのぼせてしまったのは大好きな夏希先輩相手だからだ。
「好きな相手とじゃなきゃ意味無いと」
「うん」
「師匠やハヤテや健二さん相手に実験しただけじゃ駄目だと」
「人選もどうかと思うけどなんで女の子の名前が入らないかな」
「女子で実験したら大問題だし、好きな子なんていないし」
「だったら好きな子が出来るまで待てばいいじゃない」
「でも気になったから実験してみたいし、本命の前に練習してみるのもいいと思うんだけど」
特に健二さんなんかは練習したほうがいいんじゃない?と言われてしまった。
あんな醜態をさらしてしまったら反論もできないわけで・・・
でも好きな相手がいるなら実験や練習なんてしないほうがいいと思う。
今いないなら好きな子ができるまで待てばいいと思う。
「それに、やっぱ初めてのキスは好きな人としたほうがいいと思うよ?」
僕としては至極まともなことを言ったつもりなのに・・・
「随分乙女チックな考え方するんだね」
佳主馬くんに非常に呆れるような顔をされ、「そんなだから鼻血なんか吹くんだ」とまで言われてしまった。
大概の男はロマンチストなはずなんですけど・・・ キングがドライ過ぎるんだ!
「・・・ほっといて」
拗ねた健二は再び布団にもぐりこんだ。
END
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