06 お祝いの言葉
「 きみにしかきこえない 」
久保ちゃんがソファーで寝ていた。
頭に近代麻雀乗せて、静かに寝ていた。
静か過ぎて死んでんじゃねーかと思うくらい。
寝息も聞こえない。
全く動いてないように見える。
息してんのか?
ソファーに近寄って、そばにしゃがみこむ。
間近で見るとかすかに胸が上下していた。
息してる。そりゃそーだ。こんなとこで死んでるわけはない。寝てるだけだ。
当たり前な事実に安堵する。
ただ久保ちゃんはいつどこで俺の知らないトコでころっと死んでてもおかしくないような気がしていた。だから当たり前なことでもふと確認したくなるんだ。
そのかすかに上下する胸に、そっともたれかかった。
ドクン、と胸の鼓動が伝わる。
目で見て、音で感じて、触らないと安心しないのか
ったくどんだけだよ
それだけ心配させるコイツにか、それだけ心配する自分にか
どちらにともなく苦笑する。
「・・・時任?」
「!?ッ」
突然呼ばれて驚いた。
雑誌をどけてこちらを見上げる久保ちゃんと目が合った。
「ワリィ、起したか?」
「まあね、何してんの?」
生存確認してたとは言いづらい。かといってくっついてただけというのも恥ずかしい。
「・・・脈はかってた」
適当なことを言ってみる。でも嘘じゃない。
「それ、普通は手首でやるもんでしょ」
「数えられりゃ一緒じゃねーの?」
「まぁ大歓迎な体勢だけどね」
そう言ってうすく笑う。そのかすかな振動が胸につけた耳から伝わった。
「腕かして」
久保ちゃんが俺の手を取り耳にあてた。
「おあいこ」
「?」
「脈はかってあげる」
「普通は指で測るんじゃないのか?」
「大丈夫、耳はいいから」
すこし黙って鼓動を聞いていた。
「1分間でだいたい67・8回」
「それっていーのか?」
「ごく平均的かな」
「ふーん・・・」
一分間に70回。それが自分の心臓が動く回数。
久保ちゃんのはどうだ?。目をつむって数えてみる。
「久保ちゃんも俺と同じ」
「ふ〜ん?」
「何だよ、ホントだぞ。こーしてっとなぁ・・・」
目をつぶって耳をすませる。
どくん、どくん、どくん、聞こえる久保ちゃんの心臓の音。
「久保ちゃんと俺の心臓の音が重なって聞こえんの。だからほぼ一緒なんじゃん?」
「・・・なるほどね」
また目をつぶる。
どくん、どくん、どくん
自分の音か、久保ちゃんの音か、どちらの音か。わからなくなる。その規則的に力強く動く心臓、その音。
不思議と安心感をもたらす。・・・それと同時に眠りも誘う。
「なんか眠ぃ・・・」
「ベッド行く?」
「んー・・・」
ごそごそっとよじ登って久保ちゃんの上に乗りあげる。ごそごそと動き久保ちゃんの心臓の音が聞こえかつ丁度いい位置を見つける。
「ここでいい・・・」
「おやすみ」
「ん」
心臓の音に引きずられるようにして眠りについた。
* * * *
「・・・心拍数上がりそう」
眠りについた時任を眺めながらひとりごちる。
もうそれほどがっついた関係ではないけれど枯れてるわけでもないので心中は複雑だ。
時任のマネをして時任の心臓の音に耳をすませる。
規則正しく動くソレ。
あと何回動くだろう。
1日で約96400回、1年で3500百回、10年で350万回、…80歳まで生きたらあと21億回くらいか。
どこまでこうして聞くことができるのか。
それはわからない。
「俺も寝ようかね」
考えても仕方ない。
時任の鼓動に耳を澄ませ、目をつむる。
できればこのまま21億回聞ければなと思いながら眠りについた・・・。
君の鼓動 それがなによりの ・・・
(終)
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