来年は絶対食べ物をくぼちゃんには、あげない。
あの後はひどい目にあった。
生クリームっていうのは、まぁ少しばかりの嫌がらせもあったけど……。
なにもあんなことしなくてもいいじゃないか。
お風呂が大変だっただろうが!
……生クリームを捨てなかっただけ、マシと思った方がいいのかなぁ。
とにかく、くぼちゃんに食べ物は絶対あげないことにした。
そう、決意を固めてる俺に対してくぼちゃんはさっきから、ニヤニヤと見ている。
お前さ、前から云いたかったんだけど、ポーカーフェイスが最近ないよな。
いや、あるけど俺に対して最近少なくねぇか?
でも絶対肝心な時は崩しやがらねぇから、ムカつく。
俺は睨みつけるみたいに、くぼちゃんを見た。
「時任」
見たら、くぼちゃんは俺を呼びつけて、手招きしてくる。
「なんだよ」
素直って罪だなぁ、なんてくぼちゃんが思ってることも知らないで俺は、くぼちゃんがいるダイニングテーブルに寄った。
近寄るとくぼちゃんに腕を惹かれ、
「わっ」
音を立ててキスをされた。
「くぼちゃんっ!」
くぼちゃんは慣れてるのかもしれないけど、俺はこういう行為が苦手だ。
決して嫌いではないけど、苦手だ。せめて心の準備をしてから。
「何、変な顔してるの」
もう一回チュッてされた。
「そーいうことすんなよっ」
「時任だって俺の誕生日の時に、不意打ちしたじゃない」
「は?」
……俺、くぼちゃんにちゅーなんてしてねぇぞ。
困惑している俺を見たくぼちゃんは、苦笑して「わからないならいいよ」と云った。
「俺、くぼちゃんに何したっけ?」
「あーん、ってしてくれたろ?」
まぁ、他にも膝の上に馬乗りだとか、その後の俺の舐めた自分の指を舐めたりだとか……なんていうのは、久保田の心の中だけで留めておく。
「アレがなんだよ」
「恥ずかしいとか無かったの?」
「なんで。スプーン無かったから指でやっただけじゃん」
くぼちゃんが云いたいことがよくわからない。
不意打ち、ちゅーとあーんを比べてんのか?そんなの確実にちゅーの方が、恥ずいだろ。
「天然だなぁ」
「もう、くぼちゃん意味わかんね」
「時任は、そのままでいてね、って云ってるの」
よしよし、と頭を撫でられてから、腕の中に抱き込まれた。
座ってるくぼちゃんに対して、変な形で抱き込まれ、結構辛い体勢。
そして、唇が耳に近づきまるで秘め事を話すみたいに。
「誕生日、おめでとう」
鼓膜を震わせ、脳に届いた其れは、俺の顔を赤くするには充分な威力を持っていた。
「あ、あ……ありがと」
少しだけ体を身じろいで、くぼちゃんに腕をまわした。
「……プレゼント、貰ってくれる?」
「うん……当たり前だろ」
じゃあ、と云ってくぼちゃんは俺から離れた。
それから俺に、ソファに行っていてと云う。
大人しくそれに従って、くぼちゃんを待っていれば、見覚えのある銀のボール。
「……」
え、何、このデジャヴ。
「時任君の為に、季節外れの果実を」
見せられた中身は、苺。
赤い、小さな果物。
「どーぞ」
その赤い実を手にとって食べていく。
「おいし……」
「良かった、あ、コレだけがプレゼントじゃないから。あとでちゃんと欲しいもの買いに行こうね」
「別にいらねーけど」
「いいからいいから、ね?」
渡される苺は、甘酸っぱさを口一杯に残していく。
食べてる俺を不意に名前を呼んで、動きを止めさせる。
「くぼちゃん……?」
ゆっくりとした動作。
キス、されると思ったのは唇がくっつく数秒前で。
「……んっ」
口の中に広がるのは、いつもの煙草の味じゃなくてさっきまで食べていた赤いあの味。
「……もっと食べさせていい?」
口の中で果実が落とされ、それが飲み込まれたら、くぼちゃんがそんな風に聞いてきた。
俺が、躊躇いがちに頷けば、くぼちゃんは苺を一口噛んで、俺の口へと運ぶ。
何度も繰り返される行為に俺は、ただ縋って。
「時任」
「……なに」
「誕生日おめでとう」
もう一度囁かれた言葉と苺味のキスに溺れながら、自分の誕生日が、濃厚な夜になることを意識がとろけかかっている頭で思いながら、ゆっくりと目を閉じた。
end
懲りずに、時誕を投稿させていただきました。
苺です(笑
この後、久保田サンは親父発言をかましながら、時任とイチャコラするんじゃないかな、と思います。
生クリームと苺で、バースデーケーキって事で………(待て
犬'サマ、本当に今回素晴らしい企画を有り難う御座いましたv