久保時生誕祭2007 投稿作品


[41] ハッピーバースデイ久保ちゃん!!  
■風花陽子 [HOME]  投稿日:2007/09/07 (Fri) 22:03  *2回修正  

          『お祝い』

「久保ちゃん、今日も俺ちょっと・・・。」
最近――2週間くらい前くらいからだろうか、
決まった時間に毎日時任が外出するようになったのは。
最初は何か楽しみでも見付けたのかと思って気にも留めていなかったが、
それが2週間も続いているとなるとさすがに気になってくる。
彼は同じことを続けて出来るタイプじゃないし、
いつも行き先を告げずに出て行くのだ。
そして、いつも決まってどんよりと曇った顔で
「疲れた――。」と言いながら帰ってくる。
それでどこに行っているのか気にならないはずがない。
「あ、うん。行ってらっしゃい。時任。」
自分の心中を悟られないように、笑顔で彼を見送る。
・・・いつもそうしているように。
実は、今日も行くのであれば、と予てから決めていたのだ。
「時任の後を尾行して行き先を確かめる」ということを・・・。
「よし、俺もそろそろ・・・。」
時任が見えなくなったのを見計らって腰を上げ、準備をし始める。
彼は変なところで鋭い部分があるから
下手な尾行をすると気付かれてしまう恐れがある。
だから、準備をしておくに越したことはない。
「時任との距離は・・・うん、ぎりぎりかな。」
そう言って昨日自分が『準備』と称して時任の襟元に取り付けた
(もちろん彼に気付かれないようにして)発信機の電波を受信する機械へと目を向けた。
その機械は正常に動いている証拠に、
先ほどから時任と思われる黒い点がピッピッピッ、
と規則的な音を発して動いている。
「この方角からすると・・・商店街、かな?」
彼が毎日商店街に通っていたのか?あり得ない、
とは言い切れないが彼がそんなところに行く理由があるとも思えない。
あの場所には時任が話せる相手なんていないはずだ。
それなのに、何故・・・。
そうして久保田が首を傾げながら追って行くと、彼はとある一点で止まった。
「止まった・・・?ここは・・・?」
時任が止まったので久保田も歩みを止めて電柱の影から様子を窺う。
遠目に見ても解る看板、装飾には久保田自身も見覚えがあった。
その場所とは――。
「ケーキ屋・・・?」
彼が止まったその場所とは紛れもなくケーキ屋。
見てみれば彼は止まっただけでなく、そこで何やら店員と話している。
――時々、笑いも交えながら。
「時任、何でこんなとこに・・・?ケーキを買う金なんて・・・。」
あるはずがない。元々時任は路地で倒れていたのを久保田が見つけて連れ帰ったのだ。
あの時ポケットの中身も全部調べたけれど金など1円も入っていなかった。
久保田の疑惑が深まる中、
店員との話を終えたのか時任は再び何所かへ向けて歩き始めた。
久保田もそれに気付き、遅れないように後を追う。


ケーキ屋を離れた後、
彼は特にどこへ止まるというわけでもなくスタスタと歩いて行く。
しかし部屋に戻る方角ではないので、まだどこか寄るところがあるらしい。
それは、時任の目標に向かって真っ直ぐ向かっている
はっきりとした足取りからも容易に理解することが出来た。
久保田がそんなことを考えながら時任の後を尾行していると、ふいに彼が立ち止まった。
彼と距離は離れているからバレてしまう心配はないのだが、
思わず反射的に電柱の影に身を隠してしまう。
身を隠してからそ――っと電柱の影から顔を出して時任の様子を見る。
周りからすればもの凄く変な光景に見えるだろうが、
そんなことを気にしていては尾行など出来はしない。
時任が足を止めたその場所は先程のケーキ屋とは違い、
店の装飾から何の店なのか判別することは出来なかった。
目を凝らして見てみるも、尚も店の判別は出来ない。
しばらくそんな風にして時任を見ていたが、
彼は店の中に入ることなくただ店のショーウインドウの前に立っているだけ。
何を見ているのかと疑問に思ったが彼は結局最後まで
店の中には入らずに溜め息を吐いてその店を後にした。
それに従い、久保田も再び時任の後を追おうとする・・・が。
ポン。
「!?」
歩き出そうとした久保田はいきなり肩を叩かれて驚き、
肩を叩いた人物がいる方へと振り向いた。
「そんなに驚かなくても。
それよりさ、どしたのよくぼっち、こんなとこで。」
肩を叩いた人物も久保田の予想外の驚きぶりに困惑している。
それもそうだろう。気になることがあるとはいえ、
通常なら久保田が後ろの気配に気付かないなんてことはあり得ないのだから。
「何だ、滝さんか。・・・そっちこそどうしてこんなトコに?」
声を掛けてきた人物の名前は滝沢亮司。
この前の事件で知り合ったばかりの記者だ。
前は芸能記者をやっていたようだが、
あの事件をきっかけにフリ―の記者になったのだとそう本人が言っていた。
「俺は仕事。この近所で取材の仕事があってさ。今はその帰りってわけ。」
「・・・そう。」
滝沢の話を聞いているはずなのに時任のことが気になってしまって
内容そのものが頭に入ってこなくて自然と生返事になってしまう。
そんな久保田の様子を知ってか知らずか、
滝沢は辺りをキョロキョロと見回しながら
「あれ?そういえばとっき―は?」
と先程から疑問に思っていたことを尋ねた。
時任の名前が出たことで
生返事ばかりをしていた久保田も反射的に返事をしてしまう。
「え、時任?時任は、え―っと・・・。」
尋ねられたことにより自分の意志とは裏腹に彼――時任のいる方を見てしまう。
その久保田の視線を追い、滝沢も時任の後ろ姿を発見した。
「あれ、とっき―じゃん。何で近くにいるのに声掛けないの?」
凄く不思議そうに滝沢が聞く。
しかし久保田としてはそんなことを聞かれても
答えることが出来ずに目を泳がしながら、
「さ、さぁ・・・。」
と曖昧に答えることしか出来なかった。
滝沢はこの彼の答えに記者としての勘からか附に落ちないものを感じた。
いつも物事をはっきりと述べる久保田誠人という人物。
そんな彼がこんな曖昧な答えしか返さないとは、「彼」らしくないと思った。
そして直観的に『久保田と時任の間で何かがあった』ということを悟った。
それから滝沢は時任の行動、久保田の様子、
そして以前彼らと関わる際に調べた久保田の個人情報などから1つの結論を導き出した。
『導き出したのはいいけど、これは俺が関わっていいことじゃない・・・か。
寧ろ引き留めてくぼっちに悪いことしたかも・・・。』
自分の考えがもし間違っていなければ、時任が久保田と一緒にいない訳も、
久保田がさっきからずっとそわそわしている理由も、
時任の後を追っているらしいことも全て説明がつくのだから。
久保田自身は時任の行動の意味が理解出来なくて悩んでいる様だったが。
「滝さん?」
「え?あ、あぁ・・・。」
気付くと今度は久保田の方が不思議そうに名前を呼んでいた。
そんなに自分は考え込んでしまっていたのか、
と思ったが今自分がこの2人にしてやれることは
早々に別れて久保田に時任を追わせてやることだけ。
そのことも十分に解っていた。
理解していたからこそ――自分から口を開いて久保田に話し掛ける。
「あ、俺もう行かないと。じゃあねくぼっち。
とっき―にもよろしく言っといて。」
少しベタな演技かと自分でも思ったがそんなことは関係ない。
元々記者には演技力なんて必要ないし。
「え、あ、滝さん?」
さっきまでとは打って変わって
早々にこの場を立ち去ろうとする滝沢に久保田は意表を突かれ、
思わず呼び止めてしまう。
しかし、呼び止められた当の本人が言った言葉は
久保田の疑念を深めるだけだった。
「くぼっち、今日は帰ったらいい事あると思うぜ!」
それだけを言い残して滝沢は走り去っていった。


滝沢が立ち去った後しばらく呆然としていた久保田だったが、
こんなことをしている場合ではない事を思い出し慌てて時任を捜す。
捜した結果、彼はまだなんとか追うことのできる
ぎりぎりの位置にいたのでほっと胸を撫で下ろす。
これ以上離されると本当に見失ってしまうので急いで彼を追い掛けた。


――何分時が経っただろうか、
あれ以来時任はどこにも立ち止まらずにどんどんと歩いて行く。
そして商店街を抜け、中華街に入り、彼が立ち止まったその場所とは――。
「東湖畔・・・?」
東湖畔。ここは表向きは薬屋だが裏の仕事なども扱っており、
久保田自身も何度か運び屋の仕事を頼まれてやったことがある。
店主の鵠は時任の右手を診てくれる彼の主治医的存在。
だが、時任の方は鵠のことが苦手みたいで
自ら進んでこの場所に来るとは思えない。
本日1番の疑惑を抱いて時任を見るが、
彼は迷うことなく店の中に入っていく。
仕方がないので、時任が出てくるまで待つことにした。


数分後、彼が店から出てきた。――半ば嬉しそうにしながら。
隠れて時任を見ていたが彼はもうどこにも寄るつもりはないらしく、
真っ直ぐ来た道を戻っていく。
そんな彼を見送って、入れ代わりに久保田が店の中に入る。
「鵠さん、今出てきたの時任?」
そう言いながら店内に入る久保田に鵠は特に驚いた風でもなく、
「えぇ。たった今帰ったところです。
・・・それで、久保田君は何故ここに?
今日は私はお呼びしていませんが・・・。」
と、平然と答えた。鵠には解っていたのだ。
彼が今日ここに来るだろうということも、
彼が自分の質問に対して困った顔をしているその理由も。
「えっと、その・・・たまたま横を通りかかったら
時任が出てくるのが見えたから・・・。」
苦し紛れの言い訳。しかし、今の彼にはその答えが精一杯なのだろう。
そう感じた鵠は頭を掻きながら
居心地悪そうに突っ立っている久保田に助け舟を出した。
「時任君が何故この店に出入りしているのかを聞きたいのでしょう?
残念ながら私は時任君に嫌われているみたいですからね。
店に出入りしているのはおかしい・・・と。」
にっこりと笑いながらそこまで言い当てられてしまっては
久保田も何も言うことが出来ない。
だから、観念してふぅと溜め息を吐くしかないのだった。
「・・・・・・。敵わないな、鵠さんには。
で、何でここに来たの?時任。」
「2週間程前だったでしょうか。
急にやって来て『ここで雇ってくれ!!』と言われたんですよ。
私としては追い返すわけにもいきませんし、
時任君もやる気のようでしたから雇うことにしたんです。」
「それって、時任がここでバイトをしてたってこと?」
「えぇそうです。実際彼は余程お金が必要だったらしく、
よく働いてくれました。」
そこまで聞いて久保田はようやくナルホド、と納得した。
毎日この東湖畔まで来てバイトをしていたのだから
あれだけ疲れて帰ってくるというのも当然のことだろう。
でも、ここで最大の疑問が残る。
時任は、どうしてここまでして金が必要だったのだろうか――――?
「時任が金を欲しがってた理由って知ってる?」
雇った鵠なら時任から何か聞いているかと思ったが、
期待に反して鵠は頭を振った。
「残念ながらそこまでは。
でも時任君、『使うといけないから給料を今日まで預かっといてくれ』と
言っていましたから、何か余程欲しいものがあったのでしょう。
さっきはそれを受け取りに来たんですよ。」
だから今日はすぐ出てきたのか、と理解する。
働いているのであれば今日のようにすぐ出てくるはずはないと
実はずっと疑問に思っていたのだ。
「でも、何でそこまで・・・?」
「それは、家に帰ってみたら解るんじゃないでしょうか。」
口に出して言っていないつもりがどうやら口に出してしまっていたらしく、
その問いには返答があった。
しかも鵠の口振りからは明らかに何かを知っているとしか思えない。
「家に・・・?まさか鵠さん、何か知って・・・?」
ダメ元で聞いてみる。
「いえ、私は何も。
・・・もうそろそろ久保田君も家に帰った方がいいかもしれませんね。
きっと時任君も首を長くして貴方を待っていますよ。」
絶対に何か隠している口振りなのだが、
案の定店の店主は知らないと言った。
この店主は一度知らないと言ったら最後まで知らないと言い続けるだろうと思い、
諦めて店を出ようと後ろを向く。
・・・本当は鵠に全てを聞きたい気持ちでいっぱいだったのだけれど。
店を出ようとしたところで、意外にも鵠の方が久保田に声を掛けた。
「久保田君。今日は君にとってとてもいい日になると思いますよ。・・・必ず。」
「え、それってどういう・・・?」
鵠の言葉の意味が解らずに聞き返す。
しかし鵠はまたもや追随を許さない笑顔で
「全ては帰ってから解りますよ。」
と言うだけだった。鵠の言葉や言い方には疑問が残るが、
彼が「家に帰れば解る」と言うのだからきっとそうなのだろう。
そう思い直し、久保田は家に帰る為の第一歩を踏み出した。


「おっせ―よ久保ちゃん!!」
久保田がドアを開けて1番最初に聞いたのが
この、時任の不満たっぷりの声。
「あ、ご、ごめん。」
と思わず謝りながら部屋の中に入ると時任は
未だに脹れっ面をしながら座っていた。
そして、何故か後ろの机にはケ―キが置かれている。
「ったく、こんな時間までどこ行ってたんだよ?」
「・・・まぁ、ちょっと・・・。」
まさか『時任を尾行していました』なんて言えるはずもない。
言ったら言ったで何か変な目で見られそうだし。
「まぁいいや。そんなことより、見ろよ久保ちゃん、このケ―キ!!」
そう言いつつ後ろの机に置かれていたケ―キを
久保田の顔面に突き付けた。
「そんなに目の前に持ってこなくても見えてるよ。
で、どうしたのこのケ―キ。」
そう言うと、時任は待ってましたと言わんばかりに胸を張って、
「俺が買ってきたに決まってんだろ!」
と言い放った。それを聞き、久保田の中でまた1つ疑問が解消される。
彼が毎日バイトをしているのはこのケ―キを買う為だったのだ。
しかし、ここでまた1つ疑問が浮上する。
それは、何故今日このケ―キが必要なのかということ。
今日は何かの記念日ではないし、その他に買ってくる理由など全然思い付かない。
「ケ―キって・・・誰の為に?」
考えても解りそうになかったので、直接本人に聞いてみる。
「誰の為にって・・・久保ちゃんの為に決まってんだろ!!」
「俺の・・・為に?」
そんなことを言われてますます訳が分からなくなる。
「今日は久保ちゃんの誕生日だろ!!
だから、オレ様がわざわざ買いに行ってやったの!!」
「!!!!」
言われたのは全く想像もしていなかった答え。
この答えで全ての謎が解けた。・・・滝沢と鵠の不可解な言動の理由も。
あの2人は今日が久保田の誕生日であることを知っていたのだ。
「久保ちゃんはぜって―自分の誕生日覚えてねぇだろうから、
代わりに俺が買っとかないと・・・と思って。
さすがにケーキ以外は買う金なかったけど。」
「そっか。・・・時任、ありがとう。」
自然と笑みが零れる。彼の前でしか見せたことのない表情だった。
その笑顔を見たからか、次の瞬間には彼は満面の笑顔だった。
「じゃあさ、早く食べようぜ!俺腹へった―。」
「・・・うん、食べようか。」
彼のいつもと変わらぬ様子に再度笑みが零れ、ケ―キを食べる準備を始める。
その間も、時任はやっとケ―キを食べれることが嬉しかったのか、尚も笑顔で
「あ、苺は全部俺んだかんな!」
などと言っている。
その様子に『誰の為のケ―キなんだか。』と苦笑を漏らしながら
「・・・はいはい。」
とケ―キを取りわける。
言葉にも表情にも出さないけれど、久保田は内心もの凄く嬉しかった。
・・・こんな風に自分の為にケ―キを
買ってきてくれた人なんて今まではいなかったから。
そう思うと、時任が今までよりもっと愛しいように思われて――。
「時任。」
と自然と名前を呼んでいた。
「ふぇ?」
時任は急に名前を呼ばれた為、苺を頬張りながら答えた。
そんな彼がとても可愛く思えて
・・・驚く彼に構わずキスを落としていた。
「・・・うん、苺味。」
唇を離しながら言う。
時任はショックが大きかったらしく、目を見開いたまま硬直している。
「・・・時任?」
全然身動き一つしないので試しに眼前で手を振ってみた。
すると、時任はやっと我に返ったらしく、
「な、何するんだよ久保ちゃん!!」
と顔を真っ赤にしながら叫んだ。
そんな時任の様子に久保田はしれっとした態度で返す。
「何って・・・時任が苺くれないから。」
「だ、だからって・・・!!」
時任が真っ赤になって抗議するのを横目に見ながら
久保田は何かを思いついたように含み笑いを浮かべて、
「今日は俺の誕生日なんだよね、時任?」
そう改めて言われて時任も一瞬答えに詰まった。
しかしそれからすぐ、
「・・・今日だけだからな!」
と投げやりに言った。
そういう顔をするから襲いたくなるんだ、と久保田は密かに思ったが
ここでは黙っておくことにして、彼の俯いていた顔を上に向ける。
「ありがとう、時任。」
そして二度目のキス。
こうして時任と触れ合っている時間だけが、自分が自分でいられるような気がしたから。

これからもずっとこうして一年過ごしていけたらいいと思う。
そして、これからもずっと時任と一緒に歳を重ねていきたい、
これが久保田が生まれて初めて持った願いだった。


「ねぇ、時任。」
「ん〜?」
「何で俺の誕生日知ってたの?」
「あ〜葛西のおっちゃんに聞いた〜。」
「葛西さんが・・・。ありがとう、葛西さん。」
「ん?何か言った?久保ちゃん。」
「うぅん何でもないよ、時任。(ニッコリ)」


あとがき:犬´様、素敵な企画有難うございます♪♪
遅くなりましたが我慢できなくて思わず投稿してしまいました(笑)
久保ちゃんにはこれからも時任LOVEでいてほしいですね〜v
では拙い文章ですがこれにて。

■犬’
ナチュラルに発信機を装備してる久保田君に乾杯!ストーカー久保田さん最高です(爆笑)
一体いつ発信機を購入したんでしょうか、時任に使うのはこれが初めてじゃないに違いないとにやにや笑いが止まりません。
よくぞ我慢しないで投稿して下さいました!ありがとうございました!!