残暑が厳しい夏でも、久保田家のクーラーはいつもフル稼働していて
涼しいというよりも寒い。
そのせいか時任は身体を壊してしまい、ここ二、三日寝込んでいた。
しかしこの日はいつにも増して元気がなさそうな顔をしている。
「時任、大丈夫?」
症状が悪化したのかと思って見てみると、泣きそうな目線が返される。
「やっぱり鵠さんとこ行った方が、」
「久保ちゃん」
急に言葉が遮られ、一瞬久保田は目をぱちくりさせる。
いつもは見せないしゅんとした表情。一体、どうしたんだろうか。
そのまま何も言わないでいると、時任は再び口を開いた。
「……ごめん。ほんと、ごめん」
久保田は首をかしげた。
一体自分に何を謝っているのかわからなかったのである。
そして時任の表情を見ていると、何となく自分の方が悪いことをした気分になってくる。
「何を謝ることがあるの」
手を伸ばし、しっとりしている髪を優しく撫でる。
「だって今日、……お前の、誕生日じゃん……」
「ああ、そういえばそうだったね」
「なのに俺、何もできてないじゃん。マジ最悪」
「まぁそれはしょうがないよ、風邪なんだしさ。
お前は余計なこと考えてないでゆっくり寝てなさい。俺は別にそういうの気にしないから」
そう言うと、撫でていた手が急に掴まれた。
浮かべているのは拗ねたような表情。
謝るほど自分の誕生日は重要なことだったのか。
じっとその目を見つめていると、時任から今度は強めに言葉を投げかけられた。
「お前が気にしなくても俺が気にするんだよっ」
むくれた表情も愛しい。久保田は掴まれていた手をそっと解くと、
そのまま軽く身体を抱き寄せて唇に一瞬触れるだけのキスをした。
時任は一瞬だけぽかんとした表情をしていたが、
約一秒後には耳まで真っ赤にして久保田に枕を投げつけていた。
「いきなり何しやがるてめぇッッ!!!」
「あーあー、そんな赤くなっちゃって。熱一度くらい上がったんじゃない?」
「誰のせいだ誰の! ったく……」
投げられた枕を時任に渡しながら、久保田はにっこりと微笑む。
「いいじゃん、俺の誕生日なんだしさ。
これだけプレゼントとして貰っとくからゆっくり寝ときな」
「……何か納得いかない!」
「そう?」
じゃあ、と言うと久保田はベッドに潜り込んだ。中に残った温もりが少し暑く感じられる。
急に近くなった顔を直視できず、時任はつい目をそらしてしまう。
「な、何してんだよお前」
「お前が寝るまでここから出ないから」
「うわ、最悪っ」
「素直に寝ればすぐ出てってあげるよ?」
そう言いつつ久保田は時任の身体に優しく手を回していた。
そのまま抱き寄せてみると、高い体温がじんと感じられる。
「……出てけよ……」
「いいじゃん、俺の誕生日なんだし」
「わかったよ……勝手にしろ」
そう言いつつ時任は久保田のシャツを掴み、胸板に顔を埋める。
正直な話、もう何もいらない。これだけで十分すぎる。
久保田は時任の体温を感じながら、再び髪を撫で始める。
しかしいつしか久保田の脳内に眠気がどこからか湧き、
必死の抵抗もむなしくあっさりと眠ってしまった。
「え、久保ちゃん?」
見上げてみても、帰ってくるのは寝息のみ。
「っておい、お前が寝てんじゃねーよ!」
時任からは眠気が完全に吹き飛んでしまっていた。
久保田が寝てしまっているせいで、回されている腕はしばらくどかされそうにない。
「まぁいいや。……今日だけ特別だからな」
腕を何とか出すと、今度は逆に久保田の髪を撫でていく。
「誕生日、おめでと。久保ちゃん」
何とか身体を伸ばして軽いキスをすると、
時任は照れたような困ったような表情をして久保田の身体に腕を回していった。
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だいぶ遅れましたが(´д`;)、
久保田さん誕生日おめでとうございます!
是非誕生日には二人で昼も夜も甘い時間を過ごしていただきたいものです。
犬'さま、素敵な企画ありがとうございます!
時任の誕生日も時任にはたっぷりの愛を、犬'さまには感謝の気持ちを
献上する勢いでいきますw