久保時生誕祭2007 投稿作品


[22] 祝・久保誕!!・2  
榊 樹理 [HOME]  投稿日:2007/08/25 (Sat) 06:13    
侏儒の世界


多分、自分が時任を好き過ぎるのが悪いのだ。

だからこんなに甘やかしてしまった。

甘やかしまくっている現状を振り返ってみる。

乞われればお菓子やらゲームやらを買い与え、

暇なら相手をしてやり、拗ねれば機嫌を取り、

彼が望むモノを得る為に死地で命を懸ける、

この現状。

まるで下僕。

それも自ら進んで下僕になっているというのだから始末に負えない。

正に、惚れた弱味。

昔の自分が今の自分を見たらどう思うだろう?

そんなありえない事を思って、想像してみる。

駄目だ。

時任と誰かが仲睦まじい光景を客観的に見る、なんて、想像でも無理だ。

そこまで好きなのかと自分で自分に呆れ返る。

馬鹿だ、と自嘲する。

馬鹿だ。

一緒に居ればどうなるか。

二人で生きる、その先なんて想像するまでもないのに。

途切れたフィルムは何も映さない。

死を忌避するのが生物として正しい在り方。

別れるのが賢明。

なのに。

馬鹿だ。

幸せだ、なんて。

死んでもいいと思える程。

そういえばと、ある言葉を思い出す。

何の本だったか。

単なる引用文だったかもしれないが、確かこう記してあった。

『或仕合わせ者』

彼は誰よりも単純だった

「……なに、考えてんだよ……」

はぁ、と悩ましげな吐息を漏らして、今の今まで唇を重ねていた時任は至近距離で久保田を睨み上げた。

視線が、キスしている間、思考に囚われていた久保田を責める。

そんな、目元赤くして睨んだって可愛いだけだけど。

しかし此処で機嫌を損ねてしまうのは得策ではない。

久保田は正直に、思考の中味を白状した。

「お前を拾ってから馬鹿になったなぁと思って。俺」

「はぁッ!?俺が馬鹿だからとか言いてぇの!?殴んぞッ!!」

一瞬丸くなった瞳は、先ほどより更に剣呑な光を帯びてしまった。

馬鹿にされたと思ってむくれた時任は、久保田の腹をごすっと殴る。

もう殴ってるじゃない。

久保田はそう思ったけれど、思っただけで何も言わずに笑いながら膝の上に居る時任の腰を引き寄せた。

十分過ぎるほど近い距離で、しかしその僅かな隙間すら殺すように細い身体を抱き締めて、

「時任は馬鹿じゃないよ」

耳朶に直接、言葉を落とす。

「だから、馬鹿になって欲しいなぁって」

肉の薄い華奢な肩に額を押し付ける。

薄い布越しの体温。

そんな温かさに溺れて、馬鹿になっているのは自分ばかりのような気がした。

もうお前の事しか考えられないんだよ。

俺はお前だけを望んでる。

だから。

過去にも、今日にも、明日にも囚われず、

ただ抱き合って、キスして一日を終えるような、

そんな単純な生き方を。

望んで欲しい。

「無理無理。俺様ちょー天才だもん」

あっけらかんと時任は言い放った。

顔を上げて、少し顔を離して目を合わすと子供っぽい満面の笑みを浮かべていた。

彼の笑顔は、眩しくて、痛い。

その笑顔に真っ直ぐさを、強さを見る。

けれどその強さの99%までがただの強がりなのだ。

現実は単純に出来てない。

世界は歪に構成されている。

その中で在るがままをただ反射しているだけでは、真っ直ぐには笑えない。

歪みを矯正するには自身もまた歪みを内包している必要がある。

彼の真っ直ぐな笑顔の中身は、きっと複雑に入り組んでいるのだろう。

ただの強がり。

そしてその強がりを、本当の強さにしてしまえるような錯雑が。

だから惹かれたのだと、分かっている。

「うん。天才天才」

分かっているけれど。

「……やっぱ馬鹿にしてんだろッ!!」

もーキスしてやんねぇとそっぽを向く時任に、久保田は即効性のある言葉を囁いた。

「今日、俺の誕生日」

「うぅう……ッ!!」

案の定時任は拗ねた表情から痛いトコロを突かれたような表情に色を変え、

それでも素直にはなり切れずに唸ったまま久保田を睨む。

「俺にプレゼントくれるって言ったの、時任じゃなかったっけ?」

「うぅ〜〜〜〜ッ!」

暫く苦悶の呻き声を発していたが、ふっと表情を緩めた。

柔らかく。

「全く、久保ちゃんを甘やかすとロクなことがねぇな」

久保田は細い目を僅かに見開いた。

甘やかされてるのかな、と思う。

甘やかされているんだろうな、と笑う。

馬鹿なのはお互い様。

そう思っていいよね?

柔らかい優しさが唇に触れる。

久保田は目を閉じて、二人はキスを、再開した。


二人とも馬鹿に、

暗愚に。

お互いしか認識出来ない程に。

そんな二人の、

そんな世界が、

きっと。

☆★☆★☆

ドキドキしながら二回も投稿させて頂いてしまいました(汗)
何時までも何時までも時任馬鹿な久保ちゃんでいて下さいVVという願いを込めて。
作中の引用文は芥川龍之介の『侏儒の言葉』より。


二回目になりますが(何度でも言っちゃいます!)このような素敵誕生日企画を開催してくださった犬’さまに溢れんばかりの感謝と愛を!!
本当に有難う御座いますVV


■犬’  -2007/08/26 (Sun) 20:27

久保田さんてば、あ・ま・や・か・さ・れ・す・ぎ!って叫んだのは私だけでしょうか?(笑)
でも誕生日くらいはいいよな、存分に甘えるがいいさ!!!(嫉妬まじりの応援)
彼らの幸せのためにもずーーっと時任馬鹿な久保ちゃんでいてくれるのを願ってますvv

二度目の投稿ありがとうございました!大歓迎です!何ならもう一回・・・(欲張り)
こちらこそ何度も言っちゃいますよ!ホント参加者あっての企画です!感謝です!!ありがとうございました!