バイトから帰ってきて珍しく、時任からお迎えが無かったので、自分で玄関を開けた。
名前を呼んでも返事は無い。が、玄関に靴はあったので家に居ることは間違いなかった。
「ただいまー、時任?」
リビングに続く部屋を開ければ、其処は少しだけ異空間になっていた。
特に台所の部分が。
何故か牛乳パックの小さいのが一杯置いてあった……というより、放置してあった。
よく見るとソレは、生クリームのパックで全てが空だった。
ざっと空の数は、七パック。
…………何に使ったんだろう、と悩む量である。
生憎、その生クリームを量産した人物はリビングにはいない。
探す場所なんて数えるほどしかないので、すぐに目当ての人物は見つかる。
寝室で、グッスリと寝ていた。
「…………ただいま、時任」
ヒッソリとその寝顔に囁いて、もう一度扉を閉める。
そしてあの空のパックを片づけるべく、台所へと向かった。
「くぼちゃん……?」
片付けが終わって、一休みしていると時任が起きてきた。
「おはよ、って云ってもまだ夜だけどね」
「……そっか」
まだ寝ぼけているのか、たどたどしい口調で話す時任に俺は、思わず苦笑する。
「……なぁ、今なんじ?」
壁の時計を見れば、時刻は十時過ぎだった。
「十時……五分ってとこかな?
それがどうかした?」
「うっそ……やばっ」
時間を聞いた時任は、慌てて台所に向かった。
俺はその行動に首を傾げるしかない。
戻ってきた時任が抱えていたものは、サランラップで蓋をされたボールだった。
「なに、それ?」
「生クリーム」
ほら、と見せられたのはボール一杯の白色。
「時任、生クリーム好きだっけ?」
そんなに作るくらいはまっていたなんて知らなかったなぁ、なんて。
「違うってーの、くぼちゃんに」
「俺に?」
甘いものは好きだけど、そんなに生クリームはいらないけども、ボールを突き出す時任に負けてそれを受け取った。
「スプーンとかくれないの?」
とりあえず食べられるだけ、と思い、道具を要求したのだが、時任は逆に自分の方へと身を乗り出してきて「そのまま」と制止をかけられる。
「……それで?」
食べられないし動けないしで、時任の言動に困惑気味だ。
「あーん」
……一瞬本気で何を云ってるのかわからなかった。
クリームを自分の指で掬い上げ、俺の口へと持って来ようとしている。
突拍子過ぎる時任の行動には、いつもついていけない。
それがいいんだけど。
「くぼちゃんっ」
呆けている俺に痺れを切らして、時任がキツく名前を呼んだ。
「……イタダキマス」
舌を伸ばして、指を纏う白の甘いそれを綺麗に頂く。
「美味しい?」
「うん、まぁね」
ただの生クリームだし、という台詞は心の中だけで続けた。
「じゃあ、もっと」
もう一度、食べ終われば、また繰り返されるその動作。
指を白くコーティングして、赤い舌で汚して。
「くぼちゃん犬みてぇ」
「ひどいなぁ
それよりさ、なんで突然生クリーム」
「また忘れてんなぁ、お前」
拗ねたというより呆れている時任に、俺は首を傾げるしかない。
「ハッピーバースディ、くぼちゃん」
「あ、そっか」
云われて漸く今日が、二十四日だと気付いた。
「だから、生クリームプレゼントー」
「……胸焼けおこしそ」
「ちゃんと受け取れよなぁ」
「アリガトウゴザイマース」
「うっわ、ムカつく」
生クリームがプレゼント、プレゼントねぇ。
「じゃあさ、これ俺の自由にしていいの?」
「別に、捨てる以外ならいいけど」
「ふーん」
「な、なんだよ」
上がる口角を自覚する。
ねぇ、時任。
……今夜は、覚悟しといてね?
End
一日、遅れてしまいました……。
誕生日おめでとう御座います、久保田サンvv
ちょっと、どうだろうっていう誕生日プレゼントです。
その後、生クリームは全部綺麗に、食べられたました(笑
犬'サマ、素敵な企画を有り難う御座いました!!