■ 君がくれたもの kubota.ver ■
「なぁ久保ちゃん、誕生日ってお祝いするもんなんか?」
目覚めたての朝、(ホントは昼・笑)一番に時任から質問された。珍しい質問だなと思ったけど、一般的には、その人にとって人生が始まった特別な日だからご馳走食べたりとか、プレゼント上げたりとか、あとケーキに歳の数だけローソクたてて吹き消したりとかしてお祝いする、と教えてあげた。
「ふ〜ん、久保ちゃんそういうのやりたいか?」
そんな一般的な誕生日なんてしたことないから分からない。特別したいとも思わないけどしたくないとも思わない。
「・・・嫌じゃない、かな?」
「んじゃやろうぜ」
「え?」
「だって今日は久保ちゃんの誕生日だろ?」
時任に言われてカレンダーを見る。おや、今日は8月24日、俺の誕生日だ。でも時任に教えた憶えはない。葛西さんか?
「何で知った?」
「さっき携帯に『久保田誠人様、本日は18回目のお誕生日こころよりお祝い申し上げます』ってメールが来てた」
「あぁ、なるほど・・・」
時任が持ってる携帯は俺の名義のものだ。契約元からくる俺宛てのメールが行くこともあるのだろう。多分俺の携帯にも同様のメールが来てるのだろう。
「久保ちゃん忘れてたんか?」
「うん、すっかり」
『しょうがないな〜くぼちゃんは!』なんて笑われてしまった。仕方ないっしょ?誕生日なんて特に気にしたことないんだから。
「お祝いするもんなんだろ?早くお祝い用のご馳走とケーキ買いに行こうぜ!」
やる気になった時任に連れられて買い物に行くことになった。
寿司にケン○のチキンにシャンパンにバースデーケーキを買う。ちなみにケーキはフジ○のワンホールだ。時任に『大きすぎる!』と言われたけど無視した。甘いものは別腹っていうしね。
家に帰ったら早速ひろげてパーティの準備をする。お約束通りにケーキにロウソクを灯し、バースディソングを歌い、吹き消した。時任が『俺様もやりたい!』といったのでも一回付けて二度目は時任が吹き消した。ふつうは誕生日の人だけやると言ったら『何ぃ!だったら早く言えよッ』と怒られた。どっちでもいいと思うんだけどね。
シャンパン開けて乾杯して、チキン食べて、ケーキ食べて、なかなか誕生日パーティっぽい。たまにはいいかもね、こういうのも。そんなふうに思えた。
「久保ちゃんが生まれたときってどんなんだったんだろうな」
「普通の赤ん坊だったんじゃない?」
「やっぱ目ぇ開いてなかったんかな」
「生まれたては皆開いてないもんよ?」
「んじゃそんとき何かあって今でも開きにくいんじゃん?」
「失礼な」
ご馳走を食べながら、くすくす笑いながら、馬鹿話をする。いつものことだけどその話題が自分の生まれたときってのが新鮮で、くすぐったいような不思議な感じがする。
「なぁ、赤ちゃんてどんくらいの大きさだ?」
「さぁ・・・重さは3sくらいらしいよ」
「んじゃ久保ちゃんてば18年で20倍以上にはなったってことだよな!すっげーでっかくなったな!」
「20倍・・・そう考えるとなんかすごいことに聞こえるね」
「すごいことなんじゃん?20倍だぜ20倍!よく頑張って育ったじゃん」
「頑張ったというか、いつのまにというか・・・」
「ちょいデカすぎる気もすっけどな!」
お酒が入った時任はガハハと笑いながらバシバシと背を叩く。・・・ちょっと痛い、けど、どっか、あたたかい。
・・・こんな風に自分が生まれたとき、素直に喜んだ人がいただろうか?
それは判らない。
そして、どうでもいい。
昔はそう思ってた。
けど、時任が喜んでくれるなら、それで十分。
今はそう思えるようになった。
「俺の誕生日はいつなんかなー」
時任がポツリと言ったので、つい言ってみた。
「・・・んじゃ決めちゃう?」
「あ?」
「名前も適当に決めたしね。だったら誕生日だって決めちゃうってのは?」
時任はキョトンとしていたが途端にニッカリと笑った。
「うしッ!決めようぜ!」
二人で相談した結果、たまたまあった日めくりカレンダーをバラバラにして放り投げ時任がそれを見ないで1枚選び取るという方法にした。
「んじゃいくよー」
目をつぶった時任に声をかけて、彼の頭上からカレンダーを放り投げる。
見事に散らばる365日
時任と出会った日も、俺が生まれた日も、小宮が死んだ日も、同じくそこにあった
時任はどれを選ぶだろう
「よしッ!これッ!!」
時任が選び取ったのは9月8日だった。
「9月8日かぁ、あと2週間じゃん!」
「そうね。あ、この日だと時任は乙女座だぁね」
「乙女座?」
「星占いで1年を12区分して星座をあてはめるの。それによると乙女座になる」
「このカッコイイ俺様が乙女座だぁ!・・・選び直しちゃる」
「乙女座の何が不満よ」
「もっとカッコイイ星座がいい。ダイヤモンド座とかゴ○ラ座とか!」
美少年と自称する時任にとってゴジ○はカッコイイ部類に入るらしい。ちょっと意外だ。
「そんなの無いって。乙女座も悪くないよ?」
「どこがだよ、何か弱っちそうじゃん」
「だって俺も乙女座だから。お・そ・ろ・い♪」
「野郎とお揃いでもなぁ・・・」
「酷いなぁ、同じ星座同士って相性抜群らしいよ?星で定められた運命が一緒なんだって」
「・・・ふ〜・・・ん・・・」
「それにそう何回も選ぶもんじゃないっしょ?」
時任は眉根を寄せて考え込んでる。・・・もう一押しかな?
「ま、仕方ねーか。でもそうころころ選びなおすもんじゃねーしな」
「そゆこと、じゃ決定ね」
二週間後なんてあっという間だ。どんな誕生日にしてあげよう。楽しい想像にふと口元がゆるむ。時任を見るとまだむぅっとした納得のいかないような顔をしていた。
「でもな、久保ちゃん」
「ん?」
「9月8日を選んだのは俺様だよな」
「まあ一応ね」
「だから!同じ乙女座で運命が一緒だってんならその日を選んだのは俺様だってこと!」
「・・・・・・・・」
「それだけ!」
「・・・うん」
星で定められた運命なんて知らない
もし定められてたとしてもその運命を選んだのはおれ自身だ。
だから、お前と運命を共にするのは俺が選んだんだ
ってことを言いたいらしい
・・・なんか、すごい告白をもらってしまった・・・
意味わかってんだろうか
運命を共にすることを自分で選んだって、それってプロポーズだよね?
・・・自覚してるかいまいち不安だけど
何よりのプレゼントだ
もう返品不可だよ?
覚悟してね?
時任くん