ZU-ZU-ZU! |
ズズズ、ズズズーーーッ! ・・・・・・・・・チュルッ ・・・・、・・・・・、・・・ごくッ。 上から順に、蕎麦をすする音、蕎麦を吸い込む音、蕎麦をたぐって咀嚼し飲み込む音。因みに麻衣、ジーン、ナルの出す音だ。 「ナルとジーンってお蕎麦食べる時も静かだねぇ」 「音を出すなんて行儀が悪い」 「欧米では音を出すのはマナー違反だからね」 「そっか・・・、でも音出して食べた方が美味しいと思うんだけどな」 「うん。麻衣が音出して食べるのは見てて気持ち良いよ。でも自分がするとなると別なんだよねー、どうしても拒否感がある」 「ああ」 二人は見かけは日本人だけれど、外国人なんだなーと思い出す瞬間はこういうときだ。 ちょっとした違いを感じる時がたまにある。 * * * 例えばこんなことがあった 同居し始めの頃、朝食の席についたナルが「・・・トイレの臭いがする」と呟いた。 「へっ?」 「トイレ臭い」 そう言って指さしたのは納豆だった。ナルは外国人だが食べ物は拘らない人だ。梅干しだって食べれる。だから平気だろうと思って納豆をだしたんだけれど失敗だったようだ。 私は納豆を持って臭いを嗅いでみた。いつもの臭いだ。私には慣れた臭いで全然臭いとは思わない。ましてやトイレの臭いなんかしないんだけど・・・。 「くさい・・・かなぁ?」 「アンモニアの臭いがする」 「ア、アンモニア!?」 それはトイレの臭いの代表格だ。そりゃ嫌な顔をするはずだ。味にこだわらないナルも食べる気にならないだろう。 代わりにナルの分まで私が食べた。 後で綾子に聞いたんだけれど、納豆菌が繁殖する時にはアンモニア臭がでるらしい。発泡スチロールのパックに入った納豆は豆の臭い成分を吸着しにくいために、納豆独特の臭いがこもって強くなるそうだ。慣れてない人、鼻が敏感な人には分かるらしい。臭いを吸着するワラで包まれた納豆のが良いと言われた。あとネギとか臭いを誤魔化すものを添えなさいともいわれた。 試しに出して見ると、ナルは黙って食べた。でも「面妖な味だな・・・」と言ってたので好きになれそうにないらしい。それ以来ナルには出していない。 次にジーンとも一緒に暮らすようになった時、どうせジーンも嫌いだろうと思って納豆を出した事は無かった。だけど私用に買った納豆パックを見つけたジーンが、自分から食べてみたいと言い出したのだ。 試しに一緒に食べてみようと、納豆をパックから取り出して混ぜ始めると、ジーンは変な顔をした。 「臭い?」 「うん。トイレの臭いがする」 「ナルもそう言ってたから出さなかったんだよね・・・」 二人とも同じ反応に苦笑する。 納豆は大好きだから二パックくらい余裕で食べられるので、「私が食べようか?」と提案すると、ジーンは首を振って断った。 「ううん、食べる。体に良いと知ってるし、郷に入れば郷に従えと言うよね。腐った大豆くらい食べられるさ!」 「いや、日本人でも食べられない人はいるし、そこは『腐った』じゃなくて『発酵した』と言って欲しいんだけど・・・」 麻衣の訂正を無視し、何か勘違いしてるジーンは混ぜた納豆をご飯の上にかけ、決死の覚悟で納豆を口に放り込んだ。 そして咀嚼する・・・。その顔は非常に険しい。 数秒後、ジーンは咀嚼していた納豆をごっくんと飲み込んだ。 「えと・・・大丈夫・・・?」 麻衣はお茶を差し出して恐る恐る聞くと、ジーンはにっこりと笑って「大丈夫」と答えた。 「ホントに?」 「うん、白米と合うね。白米の甘みが引き立ってでもしょっぱくて美味しい。臭いし、単品だと変な味なんだけど、なんか癖になりそうな味だよね~」 と意外な感想が帰ってきた。 白米好きなジーンは納豆と白米という組み合わせが気に入ったようだ。 外国人でも好みは様々なんだなと思った。 * * * そして蕎麦の食べ方も三人三様だった。 麻衣はズズッと爽快な音を出して蕎麦を食べるし、 ジーンは麻衣のすする音を聞きながら、音を出さずに蕎麦を食べるし、 ナルは黙々と音を出さずに蕎麦を食べる。 蕎麦に限ったことではないけれど、こんなに習慣が違うのに全然不愉快に感じないのが不思議だ。 ズズズ、ズズズーーーッ! ・・・・・・・・・チュルッ ・・・・、・・・・・、・・・ごっくん。 日本人一人と、外見日本人で中身は外国人が二人 今日も不思議な和音を奏でている。 (終) |
お蔵入り発掘第二段。 そろそろタイトルを英語にするのが苦しくなってきた。異文化交流が元タイトルです。 何となく、ナルは臭いに敏感で、ジーンは食に関して好奇心旺盛なイメージがある。 マナーが違っても楽しい食卓であればそれで良し。山梨越梨五味梨。 2011.08.22 |
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