DAI-MEI-WAKU |
とある地方の古びた日本家屋の一室で、毎夜和服の女性が現れてはさめざめと泣くという。気味が悪いが何より可哀想なので何とかして欲しいという依頼が来た。以前依頼人だった大橋さんからの紹介で来た老婦人はとても上品なお婆さんだった。 聞きとり調査だけでも心霊現象の可能性が大きい依頼だったので、SPR日本支部の面々は機材を持って颯爽と調査に出かけた。 調査一日目、確かに問題の和室に女性が現れた。カメラにもばっちり収まり、さめざめと泣く音声まで収録することが出来た。非常にクリアーなデータにナルはホクホク顔で一日目の調査を終えた。 だが問題は二日目からだった。 翌日から女性はぱったり現れなくなったのだ。 三日目も、四日目も、五日目になっても全く現れない。 ジーンが霊視したら姿を隠しているだけで消えたわけではないという。心霊現象は外部の人間を嫌うというが、初日にあれだけクリアーに現れといて隠れるというのが解せなかった。 取れた映像を解析して、髪型、和服の様子、着方からして大正時代の女性ではないかとアタリをつけて調べたら、その時代にここで病死した女性がいるのが分かった。 その女性は許嫁だった男性に裏切られ、体を壊し失意のうちに病死したらしい。 では男性ではなく女性が接触してみるのはどうかという案が出た。 ナルの誘導で麻衣はトランスに入り幽体離脱を成功させて、無事に女性の霊の元へ向かったらしい。女性の霊はジーンから隠れていて見えないが麻衣の気配は追えるので女性と接触したのは確認出来た。ジーンも幽体離脱して麻衣の後を追えば接触出来たかもしれないが、女性の霊を感情を逆なでないためにも後方支援に徹することにした。 危険な霊ではないけれど何かあったらすぐ呼び戻せるよう、ジーンは手を繋ぎ遠くから気配を追って待機していた。 そしてベースで麻衣の寝顔を見守ること一時間が経過した・・・。 「・・・もう大丈夫。浄化へ向かった」 「そうか」 麻衣の隣で寝ていたジーンがパカリと目を開けてナルに報告する。 ジーンは手を離してその寝顔をのぞきこむ。 「安らかに眠ってるねぇ、可愛い、ちゅーしたい」 「我慢しろ」 「ちょっとだけしたいなー」 「ふざけるな」 「だってもう二週間すぎたよ。ナルは辛くないの?」 「何が」 「下半身。溜まらない?」 「お前と一緒にするな」 「えー、じゃどうしてんのさ」 「どうもしない」 「そこの双子!外でやるかホットライン使いなさい!坊主が泣いてうざいのよ!」 「はーーい」 「・・・・・・」 狭いベースでは双子の内緒話(?)も筒抜けだ。 実は調子に乗った双子が麻衣を怒らせて、伝家の宝刀『お触り禁止!』を言い渡されてから二週間近く経つ。大抵は一週間で解禁されるのだが、運悪く調査が入ってしまった。モニター前で監視中のナルにジーンが愚痴をこぼしたら同じく待機中だった綾子とぼーさんまで聞かされる羽目になる。 ナルは調査が進まず不機嫌に・・・ ジーンは麻衣に触れず不機嫌に・・・ それに巻き込まれた周囲も胃を痛くしていた。 特にぼーさんの被害が甚大で、『俺の娘が・・・娘が・・・』と泣いてて非常にうざい。二人と付き合っているのは知っていたが非常にメルヘンなお付き合いだと思っていたらしい。明け透けなジーンとの痴話げんかを聞かされてショックを受けていた。ご愁傷さまである。 もちろん麻衣がいないとこでコソコソと話しているのだが、何故か滝川・綾子・ジーンとナルでいることが多く、必然と回数が多くなる。 「でも意外よね。ナルはともかく、ジーンなら麻衣を丸めこむなんて朝飯前でしょ?お許しが出るまで待つなんて思わなかったわ」 「酷いなー、そんな風に見てたの?」 「実際出来るでしょうが。だから意外なのよ」 「出来るとするのとは違うよ。そういうことはしないって決めてるの」 「ふうん、殊勝じゃない。・・・ま、私としては麻衣が大事にされてて嬉しいけど」 「えへへ、そお?」 「得意そうにすんじゃないの。そもそもは麻衣を怒らしたアンタ達が悪いのよ」 「ったくお前らは何をしたんだよ。麻衣がそんなずーっと怒ってるなんて滅多にないだろが」 「・・・それ言ったらホントに麻衣に嫌われるから言えない」 「お前ら・・・」 「アンタ達・・・」 バシンッ! 「・・・いい加減にしないか、ここは仕事で来てるんだぞ」 青白いオーラが見えそうな程、ナルが怒っていた。 「滝川さん、松崎さん、人のプライベートの詮索は遠慮してもらえますか?」 「「はいッ」」 「ジーン」 「はいっ!すいません!!」 「この調査が終わったらすぐイギリスに行ってもらう」 「え、何で?」 「丁度主だったパトロンが揃う夜会が三日後にある。せいぜい愛想をふりまいて予算をもぎとって来い」 「三日後なんてこの後すぐ旅立たないと間に合わないじゃないか!急すぎる!!」 「ああ、滝川さん達が手伝ってくれるらしいから片付けは免除してやる。すぐ行け」 「だって僕まだ麻衣と仲直りしてない!」 「それが?」 「・・・禁欲生活が限界なんだけど・・・」 「仕事だ。我慢しろ」 「横暴だ!」 「日本分室の室長は誰だ?」 「う・・・、ナルです・・・」 「分かってるならとっとと行け。それとも、命令違反で 減給 されたいのか?」 「~~~ッナルの馬鹿ぁぁぁあああ!」 ジーンは半ば泣きながら現場を走っていった。 残るはすっきりとした顔の博士と、唖然とした顔の保護者二名。 そして何も知らずに安らかに眠る麻衣のみ。 三人の中では扱いが底辺な博士だが、実社会では一番上だという実例でした。 (終わっとけ) |
5月に書いてたらしいのを発掘。 麻衣を怒らした原因はご想像にお任せします。 2011.08.21 |
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