Twin or Triplets
 この双子は容姿はこんなにそっくりなのに、性格や行動に能力、食べ物の好みにちょっとした仕草なんかが驚くほど違う。ナルはテレビを碌に観ないけどジーンは結構好きで私と一緒にバラエティやお笑いを観たりする。お風呂もジーンは長湯だけどナルは烏の行水。ナルは必要にかられて太極拳はするけれどそれ以外は運動をしない完全なインドア派だけどジーンはスポーツ全般何でも好きなアウトドア派。ご飯もナルは何でもイイ派だけどジーンは結構うるさい派。他にも色々たくさん違う。
 だから区別するのに支障は無いけれど何でこんなに違うのか不思議に思う。双子の知り合いは他にいないけれど、世の双子はこんなものなのだろうか?
 そんな疑問を二人にぶつけてみた。

「そうだねぇ、僕達は容姿は普通の双子より似てる方だけど、性格は普通の双子より似てないかも」
「あ、そうなんだ」
 夕食の後、ソファで寛ぎながらした私の質問に答えてくれたのはジーンだ。ナルは本を読みながらこちらの会話に耳を傾けているようだった。
「何かの番組で双子の行動の類似性を実験してたんだけど、ジャンケンの出す順番や好みの異性に好きなタレント、はては動物のモノマネに至るまで、全部が普通の兄弟の類似性数値より30%以上高かったよ。種類によっては80%以上同じ行動をとるものもあった。一般的には双子の行動・性格は似る傾向にあるんだろうね」
「へぇ~」
「でも一般論であって似てない兄弟もたくさんいるよ」
「双子と言ってもDNAは同じだが表現型が違うから当然だ」
「表現型って何?」
「無知」
「ムカッ!知らないことを知らないと言って何が悪い!知ったか振りよりいいでしょうが!無知のせいで失敗する前に知ろうとするのは良いことだい!無知を責める前に自分の狭量さを責めれば?」
「・・・・・・・・・」
「ナルの負け~。はい解説」
「お前がしろ」
「ヤダよ。言いだしたのナルじゃん」
「ジーンも知らないだけじゃないか?」
「内緒。はいどーぞ」
 ナルは一つため息をついて話し始めた。
「遺伝子は情報でしかない。表現型、phenotypeとは遺伝子型が形質として表現されたものだ。例えば血液型。遺伝子がAO、AAの場合、表現型はA型になる。また表現型は遺伝子型と同時に環境の影響を受ける。いくら元が同じでも行動によって後天的に差異がでると言う事だ」
「ふーん・・・そっかぁ。段々変ってくるのは納得」
「でも物ごころが付く前からナルの性格はこうだったし、後天的に差がでたっていうより持って生まれた性質だと思うんだけど」
「へー、そうなんだ。三つ子の魂百までってホントって言うしね」
「何かあったとしたらお腹の中であったのかも」
「お腹の中で盛大な兄弟ケンカでもしたとか?」
「有り得るね。それで嫌気がさしたナルはさっさと出てきたと」
「ん?ナルのが先に産まれたの??」
「そう。せっかちだから」
「なのに兄はジーンなの?」
「うん、母親の実家がそういう習慣だったんだって」
「ふーん」
 日本の一部地域では奥にいる子供の方が先に出来たと考えられていた。そのため先に産まれた=出口に近いから弟だという考え方があったらしい。無論俗説だ。
「お腹の中から一緒なんてどんな感じだろ・・・」
「覚えてるはずがない」
「だよねー」

 自分には兄弟がいない。両親や親戚の係累すらいない。ナルとジーンのように無条件で繋がっている相手がいない。普段は二人に挟まれ、イレギュラーズに囲まれて寂しいと思う事は無い。でもふと無性に心細くなる時がある。
 いつか二人を失うかもしれない、誰も傍にいなくなるかもしれない。そんなことは無いと思うけど、絶対じゃないことを知っている。
 三人から二人に、二人から一人に、そしてまた三人になった。
 また一人に戻るなんて耐えられない。あの喪失感を再び味わったら自分はどうなってしまうのだろう。そんな不安がするりと忍び寄る瞬間がある。
 そんな時はもっと強い繋がりが欲しくなる。もし将来どちらかと結婚出来たとしても、別れれば切れてしまう。絶対的な繋がりとは言えない。二人のように兄弟になれればいいけれどそれは無理だ。
 二人は全然似ていないと言ったけれど根っこのところで二人はそっくりだ。遺伝子と表現型のような違いしかない。元は一緒の二人。しかも精神的にも繋がっている。これほど絶対的な繋がりを持つ二人は他にいないだろう。
 そんな二人を見ていると無性に羨ましくなるときがある。自分と彼らを繋ぐものがひどく頼りなく感じてしまう。もっと強く、絶対的な何かが欲しくなる。
 そんな繋がりを持つ方法が一つだけある。

「私、ナルとジーンそれぞれの赤ちゃんが産みたいな」

 二人は驚いた顔をしてこちらを見た。

「赤ちゃん欲しいの?」
「うん」
「希望ならすぐ作ることもできるが」
「避妊するの止める?」
 二人は全然反対しない。むしろ歓迎してるかのように言ってくれるのが嬉しい。頼もしいというのかもしれない。
「そんな今すぐじゃなくていいんだけど、いつか欲しいな」
 ソファに並んで座る二人に手を伸ばしてギュッと力を込める。すると二人も手を伸ばしてギュッと力を入れてくれた。二人に挟まれて息が苦しいけれどそれが私の不安を押しつぶしてくれる。頬を擦り寄せて大きく息をする。慣れた二人の体臭が一人じゃないと教えてくれる。

「麻衣?」
「・・・・・・・・・」
「今日は三人で寝たいな」

 二人に挟まれた安心感で言ってる傍から眠気が襲ってくる。私の『寝たい』はそのままの意味で、三人並んで『眠りたい』の意味だ。それ以外の気を起こされても今は答えるのは無理。

「「・・・・・・」」

 どちらかが溜息をついて私を抱え直してくれた。
 どちかが頭を撫でてくれる感触がする。

「生殺しだ・・・」
 
 そんな小さな呟きを聞いた気がするけれど、意識は遠くにあって「今度ね」と思いながら言葉にならず、柔らかな眠りの中へ意識は沈んでいった・・・。
 

 * * *
 

 後日、麻衣の言う事を真に受けた双子は後にこんなことを話し合ったらしい。

「もし出来ても二人のどっちの子供か判定するの難しいよね」
「順番に危険日を狙った方が確実だな」
「どっちの子を先に作る?」
「どちらでもいい」
「僕もどっちでもいいからアミダクジで決めようか」

 実践されるのはまだまだ先の話し。


(終わっとけ)


うちの双子麻衣は精神的な三つ子みたいなもんです。
絶対的な孤独を知ってる者が二人を傍で見てると切ないだろうなーと思います。

2011.05.08
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